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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
134/385

【年末年始特別読切】とある騒動の決着

 【注意】このお話は本編とは関係ございません。

ただ年末年始というだけで書き上げた、どこかの小話の後日談にございます。

 読み飛ばしてもらっても構いません。

 また、話の繋がりの為に後日移動となる可能性もありますので、ご注意ください。

 【今回までのあらすじ】

 ツカサ達が傭兵としてヤクザと抗争していた頃、ダークエルダー内部は、「昼食のデザートにはプリン派」と「昼食のデザートにはコーヒーゼリー派」と「甘い味はするけど糖分ゼロのプロテインは無いのか!?派」に別れ、混沌を極めていた。

 プリン派に所属していた天災科学者カシワギは、この騒動を収めるために『パンドラ☆ボックス』という怪しい発明をし、それを全てのダークエルダー基地へと配備した。

 その『パンドラ☆ボックス』はなんと、中に材料さえ入れておけば注文から10秒であらゆるデザートを作成できる夢のマシンだったのだ!

 ……しかし、この『パンドラ☆ボックス』を巡り、何故か内乱は激化していた。それぞれの支部にひとつずつしか支給されなかった為、派閥毎に所有権を主張し始めたのである。


 この所有権争いも、開発者がプリン派な事から終始プリン派が優勢だったのだが、『ラブ・アンド・デザート』という独自の理想を掲げたツカサの手により、ほぼ全ての派閥から『トッピング・ボトル』が奪われてしまう。

 それよって弱体化を余儀なくされた各派閥は、その意識を全てツカサへと向けていた。

 そのせいで、各支部の『パンドラ☆ボックス』が盗まれている事に気付くのが遅れたのである。

 ダークエルダーが組織としての全力を挙げて捜査した結果、『パンドラ☆ボックス』は謎の組織『バース・ディ』が所持している事が判明した。

 なんとこの『バース・ディ』、「デザートの歴史って、デコボコしてて醜くないか……? 俺達が舗装し直してやるよ」という謎の思想を掲げた危険な集団だったのである。


 そんな彼らに対抗する為、内乱に使用していた『トッピング・ボトル』を装着して戦う『パンドライダーシステム』を持つ5人の戦士達が決戦の場へと赴いた。



 ◇



 「ついに追い詰めたぞ、『バース・ディ』のリーダー、パティシエ・ジュンペー!」

 ツカサの声が、古墳に響く。

 パティシエ・ジュンペーと呼ばれた男は、配下の10人の男達と共に玉座からそれを見下ろす。

 「ふん、デザートの有難みを知らぬもの達がノコノコと……。だが、この『パンドラ☆ボックス』を生み出した事だけは評価しよう。これによって我らは、デザートの歴史を書き換えるのだ……!」

 ジュンペーは高らかに笑い、とある支部から強奪されたパンドライダーシステムのひとつ、『ケーキドライバー』を自らの腰へと巻き付ける。

 「ここまで辿り着いた褒美として、王自らが手を下そう。頭を垂れ、慈悲を乞うがいい」

 【生クリィィム! ストゥルベリィィ!】

 ドライバーに差し込まれるトッピング・ボトルから、それはまた癖の強い音声が流れ、王を名乗るジュンペーを包むようにしてエフェクトが発生する。

 「変身」

 【王道にて定番! 白と赤のアァァクセント! 苺のショーット・ケェェェェッキ!】

 それは、純白の鎧に赤のアクセントの施された王たる者。ケーキの王道となる姿として、ツカサ達の前に立ち塞がる。

 【パンドライダァァァ! ケェェェイク!】


 「こっちも行くぞ!」

 「ああ!」

 これに負けじと、ツカサ達も己の持つパンドライダーシステムのドライバーを腰に巻く。

 【ホイップクリィィム! サクランボ!】

 ツカサが使うドライバーは『プリンドライバー』。汎用性の高さがウリの、極めて扱いやすいドライバーである。

 【ブルゥゥベリィィィソォォス! キウイ!】

 ツンツンヘアーの少年、トウマが使うドライバーは『クレープドライバー』。相性のいいトッピング・ボトルの数ならば一番のドライバーである。

 【バター! ハニィィシロップ!】

 ツカサの直属の部下であるスズが使うのは『パンケーキドライバー』。火力の高さならば一番のドライバーである。

 【ミルク!】

 ゲンさんが使うドライバーは『コーヒーゼリードライバー』。トッピングの数こそないが、それを補って余りある防御性能がウリである。

 【シェイカー・フルフルMAX!】

 カゲトラが使うのは『プロテインドライバー』。もはやトッピングではなく、ドライバーもツカサ達とは違うが、それでも持ち前のタフネスと筋肉で相棒であるツカサと共に戦い抜いた戦士である。

 『変身!!』

 それぞれのエフェクトが彼らの姿を変え、戦士の物へと変える。


 そして古墳に、5人の戦士と、ひとりの王が向かい合う。

 「さぁ……かかって来い!」

 「行くぞ!」

 こうしてパンドラ☆ボックスを巡る、天下分け目のスイーツ合戦が幕を開けたのである。



 ◇



 その後の大乱闘は熾烈を極めた。

 一進一退の攻防の中、遂にツカサ達全員が吹き飛ばされ、変身解除へと追い込まれたその時、ツカサの元へひとりの幼女が駆け寄った。

 「大丈夫か、ツカサくん!」

 「カシワギ博士……どうして、ここへ?」

 「なに、決戦用に新たなるドライバーを完成させてな。ワシ自らが届けに来てやっただけじゃよ」

 博士はそういうと、5人のドライバーからコアを抜き取り、新たなるドライバーへと差し込む。そしてそれをツカサへと託し、自らは後方へと下がった。

 「さぁ、見せてくれツカサくん! 君のチカラを!」

 それはカラフルに彩られた、少々大型のドライバーであった。そりゃ5本のドライバーのコアを集結させるのだ、大型でないと耐えられないのだろう。

 「ありがとう博士……。待たせたな、ジュンペー!」

 「ふん、無駄な足掻きをと傍観してやったのだ。少しくらいは楽しませろ」

 「ああ、期待にはこたえてやるよ!」

 ツカサはドライバーを腰に巻き、お決まりのポーズを取る。

 妙に耳に残るような待機音を数秒。そして、

 「変身!!」

 【甘味! 豪華! 内包! 来訪! スウィィィィツバイキング!!】


 それは、もはやデザートではなかった。

 あらゆる甘味の集う場所。カロリーの権化。あれもこれも手を出したいと願う、そんな者たちが最後に集う聖域。

 そう、それはスイーツバイキング。今ここに、全部パンドライダーシステムの能力を内包した最強の戦士が誕生したのである。

 「……ふん、何かと思えば……。あれもこれも食べたいという欲求の化身が、一個の完成系に勝てると思うな」

 あくまでも自らが王にして王道であり最強だと自負しているジュンペーは揺るがない。

 「どうかな……やってみなくちゃ分からねぇ!」

 だがそれでも、ツカサには一切負ける気がしなかった。

 そう、このドライバーには5人の心と、博士の心意気が詰まっているのだ。負けられない……負ける訳にはいかない!

 「今度こそ勝負だ、パンドライダーケイク……パティシエジュンペー!!」

 「来い。蹴散らしてやるぞ、雑兵が!」

 第2ラウンドの鐘が鳴る。



 ◇



 「ば、ばかな……この私が……!」

 ツカサ対ジュンペーの戦闘は、今度は終始ツカサが有利に進めていた。そして遂に、ジュンペーをあと一歩の所まで追い詰めたのである。

 「これで終わりだ、ジュンペー!!」

 ツカサは最後に残ったチカラを振り絞り、空へ向けて高く高く舞い上がる。

 【ケーキ! ゼリー! クレープ! プリン! パンケーキ! ついでにプロテイン!】

 ドライバーがスイーツを読み上げるたび、ツカサの周囲にそれらの幻影が投射される。そしてそれは、ツカサが蹴りの姿勢へと入った瞬間に溶けるかのように集約し、ツカサの右脚へと宿った。

 「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおお!」

 【カロリーMAX! スゥゥゥパァァァァパラダイス!!】

 渾身の蹴りが、ジュンペーを穿いた。

 パキンという軽い音と共にケーキドライバーは崩れ、王たる者はヒトへと帰る。

 「……これが、カロリーの……暴、力……!」

 ジュンペーは悔しそうな表情で前のめりに倒れる。

 今ここに、『パンドラ☆ボックス』を巡る闘争に決着が着いたのである。


 その後、ダークエルダーの各支部に『パンドラ☆ボックス』は配置し直され、彼らに満足のいくデザートを提供する環境が整った。

 今回の騒動を起こしたジュンペー達『バース・ディ』は拘束され、組織の解体は余儀なくされたのだが……何故か今は、各支部の専属パティシエとして職場を用意されているらしい。それぞれの腕が良かったようで、それを惜しいと思った幹部の誰かがねじ込んだのではないかとの噂である。

 『パンドラ☆ボックス』は基本的なスイーツと簡単なトッピングがメインであり、それ以上のデザートは生み出せないのだと後にカシワギ博士は語った。


 まぁ、今のツカサ達にはそんな事正直どうでもいい。

 「あっちに涼しい場所があってさ、めっちゃ涼しいよ!」

 「おい、あっちにアイス食いに行こうぜ。腹減った~!」

 今日もまた、ダークエルダーのとある支部は、一般企業として装いつつその食堂を全面的に解放する。

 そこに集うのは、ダークエルダーの社員であったり周囲の企業で働く者や学生達。老若男女問わず、彼らは安価で提供される美味い昼飯にありつこうと、我先に食券機へと押し寄せる。

 そんな行列を後目に、食券を買わずにカウンターへと向かう人物がいた。

 「今日はこれを頼むよ」

 「あいよ。ここの社員はバーコードをピッとするだけだから便利ねぇ」

 「ははは、それはこの行列を見る度に思うよ」

 ここのダークエルダーの支部で働く者は、先に携帯端末でメニューを決めておけばそれを翳すだけで注文が確定するのである。

 行列を横目にスルーできるのは、割と気分のいい物であった。


 「ああそうだ。今日のプリンのトッピングはどうするんだい?」

 食堂のおばちゃんはいつも通り通り過ぎようとする彼に対し、そう声を掛ける。

 その声に彼……ツカサは振り向き、明るい声でこう言った。

 「もちろん、ホイップクリームとサクランボで!」

 今日のダークエルダーも平常運転である。

 ビ〇ドネタで書いていたのに、気が付いたらそれも数世代前となっておりました。

 いずれ今回のお話みたいなのを書こうと思ってはいたので、年末年始だからというのは言い訳みたいなものです。

 今年も、拙作をお読みいただきありがとうございました。

来年もまた『悪の組織とその美学』を更新していきますので、ご愛読をよろしくお願いいたします。


 それでは皆様、良いお年を!

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