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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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不思議な頼み事 その3

 黒タイツを装着したツカサは、とりあえず気功のチカラを解放し一組のカップル(?)とそれを囲むモンスターの群れへと突っ込む。

 「ダイナミックお邪魔しまぁぁぁぁぁっす!」

 まずは初手。勘づかれる前に接近できた(全力で接近したら反応される前に近付けたというだけ)ので、とにかく包囲を崩すべくモンスターの内の一体にドロップキックをかます。

 これで吹っ飛んでくれたら良し、最悪でも姿勢くらい崩してくれれば御の字位の、そんな軽い気持ちの一撃だった、のだが……。

 「グゲッ!?」

 蹴り飛ばした一体が近くにいた二体を巻き込み、そのまま3mほど吹き飛んで塵と消えた。

 「……あ」

 これにはこの場の全員が呆然とする。

 ツカサとしてはこの程度でどうにかなる相手だとは思っていなかったし、カップルとしては突然の黒タイツエントリーからの一撃でモンスターが三体も消失したという状況に着いていけていないし、それはモンスター側も同様だろう。


 (【ばっか野郎お前! 相手は異形とはいえ、プロの格闘家なら互角に戦える程度の戦力でしかないんだよ! それをお前、そんな隠し球で蹴り飛ばしたらソッコーで片が付くわ!】)

 (先に言えよ白鶴えもーん……)

 聖剣の癖に器用に小声で叱りつけられ、素直に反省するしかないツカサ。

 つまりコイツらは量産戦闘員枠。武道キックで倒せるだけのHPしかないという事だろう。

 そりゃ10対1の状況で素人に聖剣持たせても勝てるワケだよな、と半ば納得してしまった。それだけ、一般人とヒーロー級の戦力差は大きいという事でもあるが。

 (【どうすんだよ! もうこれ聖剣渡せる空気かよ!】)

 (いやいや、いけるいける大丈夫!)

 小声での相談が終わり、とりあえずカップルの前に立ち庇うように背を向ける。

 「大丈夫か、お前達?」

 「あ、ああ……。あんたダークエルダーの……どうして……?」

 「話は後だ。少年、君への預かり物がある。できるなら、それを使って援護してくれると助かる」

 そういってツカサは、手に持っていた白鶴を少年へと投げた。少年がそれを受け取った瞬間、空気を読んだように白鶴八相は巨大化し、ただのカッコイイキーホルダーから一振りの白鞘の剣へと変化した。



 ◇



 少年、泉 星矢(いずみ せいや)は夢を見ていた。

 それは、何十回と繰り返される走馬灯。

 このモンスター達に襲われてから、長いもので半年。短かいもので数時間の、ありもしない自身の経験の記憶。

 その物語にはいつも隣にいる彼女、宝条 瑠璃(ほうじょう るり)の姿があり、その夢の最後は常に彼女の死や苦悶の表情で〆られていた。

 (──こんなの、嫌だ)

 星矢は否定する。こんな未来は間違っていると。

 それでも夢は終わらない。夢の数は遂に二桁を超え、なおも続く。

 (──こんなのは嫌だ!)

 星矢は再び否定する。こんな未来はありもしないのだと。

 それでも夢は()()()()()を否定させはしない。させてはくれない。

 (こんなのが未来なら……)

 星矢は三度の否定をしない。この現実(ゆめ)は確かに存在していたのだと、それを否定してもしょうがない事に気が付いたから。

 ならば。

 (未来は、変えればいい)

 星矢は全ての走馬灯を見終わり、決意する。

 全ての未来は、自身の不甲斐なさが招いた結末と言うならば。

 瑠璃を守るのが自分の使命だというのならば。

 「今度こそ絶対に、守ってみせる!」


 それは刹那に見た幻だったのかもしれない。

 何故ならば、星矢は今黒タイツからキーホルダーを受け取り、それが手元で一振りの剣へと変化したばかりなのだから。

 だが、幻だろうが夢だろうが、決意は変わらない。

 「セイ……」

 自身の隣で、恐怖に怯える瑠璃の手をそっと握り返す。

 「大丈夫だ、もうどこにも行かせはしない」

 「え……?」

 星矢は立ち上がり、瑠璃の髪をそっと撫でると、自分達に背を向け、守ってくれている黒タイツの横へと並び、その手の剣を鞘から引き抜く。

 「瑠璃は傷付けさせない! 俺が瑠璃を守る!」

 身体は何故か動きを覚えていて、頭もハッキリとしていてどう動けばいいか理解できている。

 それが走馬灯のせいなのか、聖剣のチカラなのか。それは今の星矢には分からないが、瑠璃を守れるならば何だっていい。


 「けっ、見せつけんじゃねーよリア充が」

 「? なんか言ったか?」

 隣に立つ黒タイツが何かしら呟いた気がしたが、アドレナリンで麻痺し始めた星矢の耳には聞き取れなかった。

 「なんでもない。剣を握ったならば戦え。最後まで立っていられたら、後は剣が教えてくれる」

 「何だかよく分からんが……とにかく全部斬ればいいんだな!」

 「俺まで斬ろうとしたらまずはお前から川に投げ捨ててやるからな、覚えとけよ」

 「気をつける!」

 こうして、星矢の物語(初戦)が幕を開けた。



 ◇



 (おいおい鉄火場でイチャイチャすんじゃねーよ……)

 ツカサはとにかくイラついていた。

 目の前でリア充行為を見せ付けられているだけでもストレスなのに、年上に対して敬語も使えないような男を援護しなければならないというこの状況が無性に腹立たしいのだ。

 神と名乗る何者かの依頼の為とはいえ、こういかにも主人公ですみたいなイケメンの手助けというのは、どうにも自分のキャラに合っていない気がする。

 (ただの黒タイツだから、キャラを作る必要がないってのも影響しているのだろうか)

 ツカサは普段、ダークエルダーの幹部候補としての黒雷と、ダークヒーローとしてのハクのキャラクターを演じている分、こうやって素の状態で戦闘する機会はあまりない。

 だからこの状況ではどんな心境で戦うのが正解なのか、あまりよく分からないのだ。

 (ま、いいか適当で)

 無意識を呟きを拾われ、少年に話しかけられたが適当に返してモンスターへと向き直る。

 中に人がいないのならば、ツカサとしても遠慮する事はない。スタンロッドを使っていては逆に時間がかかりそうなので、気功により強化された拳を握る。


 (あ、そっか。コイツの初戦なんだから俺が本気で戦う必要ないじゃん)

 相手の戦力が分かりきっている今ならば、気功のスペックを試す絶好の機会なのかもしれない。ならば本格的な戦闘は少年に任せ、自分は楽に戦おうとツカサは決めた。

 「グゲゲーッ」

 いかにも小物っぽい鳴き声を上げながら、残った七体のモンスターが一斉に動き出す。

 「やるぞ、少年!」

 「ああ!」

 威勢よく声を掛けておきながら、ツカサは前へと出ない。少年へと向かわず、瑠璃と呼ばれた少女を狙う者を排除するつもりで待ちの姿勢である。

 こうして、モンスターと聖剣使いの黒タイツの、異色な戦闘が開始された。

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