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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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その名は、ブレイヴ・シルフィ その2

 デブリヘイム『ダークカブト』によって窮地に追い込まれた中、ブレイヴ・シルフィの参戦とハクの“気功”の発現により、戦況はようやく五分五分となった。

 「どっせい!」

 先程力押しで地面へと叩きつけた『ダークカブト』を、気功による身体強化を得た脚力をもって全力で蹴飛ばす。それでもヤツの装甲にはヒビのひとつすら入らなかったが、優に5・6メートルは吹き飛ばす事ができたので、全くのノーダメージという事はないと思いたい。

 「シルフィ追撃を! 貂蝉はそこのスーパーボール掬いのプールの水使えないか!?」

 「は、はい!」

 【お、ナイスアイデア♪】

 『ダークカブト』が体制を整える前に手短に指示を出し、ハク自らも前へと出る。

 今までの白狐剣であれば攻撃は通らなかったが、これならばどうかと、ハクはベルトのカードケースから一枚のリーフカードを取り出し、それを白狐剣のスロットへと差し込んだ。

 “パワー・ブレイド”

 それは純粋な剣の火力強化。発動時間は短いが、リーチも火力も伸びる優秀なカードである。


 「はぁぁあああッ!」

 シルフィの弾幕の中でも気にせず、一直線に『ダークカブト』の下へと向かい剣を振るう。直後に甲高い金属音と剣が弾かれた感覚を受けたが、素の状態で振るっていた時よりも装甲に残った跡が深いようにも思える。

 それが気功の効果なのか、カードの効果なのかは分からないが、確かな前進ではある。

 キシキシキシ、と、『ダークカブト』が鳴く。ヤツは剣を受けたタイミングで体制を戻し、もう油断はしないと言うかのように鉤爪を構えた。

 シルフィの弾幕を受け続けている中でも平然としている事から、この風の弾丸は痛くもないと学んだのだのかもしれない。

 「すいません、どうやら効かないようです!」

 シルフィもその光景を見ていたのだろう、撃つのをやめて次の指示を受けるために声を出す。

 「連射に重きを置かず、チャージしてでも威力を出せるか!?」

 「やってみます!」

 「素直でいい子だ、嫌いじゃない!」

 シルフィが自身の妹だとは知らないハクは、ますます敵に回すのが惜しいなと思いながらも己の役を果たすべく剣を振るい続ける。


 一合、二合と大振りで弾かれた後の、連続突き。その悉くが関節を狙って、それでも弾かれ続けたが、『ダークカブト』の攻撃も気功の効果で目で追えるようになっているので楽々回避してしまえる。

 その場を動かずカウンター攻撃に集中する『ダークカブト』と、それを中心に何度も立ち位置を変え続けるハク。

 そしてハクが一度大きく距離を取った所で、

 「ここ、だ!」

 今までチャージ攻撃というものをしてみようと、なんとなく感覚でエネルギーを溜めていたシルフィが引き金を引く。

 その銃弾は大きな幅を持つカマイタチとなり、『ダークカブト』を斬撃……いや打撃した。

 金属が凹むような音を響かせ、『ダークカブト』がガードに回した腕部分の装甲が変形し、本人も堪らずに横へと吹っ飛ぶ。

 【じゃ、お次はこれで!】

 次に動いたのは貂蝉アンコウ。スーパーボール掬いの屋台にあった子供用プールに浸かっていたはずだが、今やその水位は半分以下となり、代わりに貂蝉アンコウの素肌がツヤツヤしている。海水でなくても平気なようで、適応力が高くて何よりである。そもそも水陸両用の時点で凄まじい適応力だが。

 【水鎌!】

 スッと貂蝉アンコウが腕を振るうと、その軌跡に一瞬だけ白い何かが見える。そして次の瞬間には、『ダークカブト』の左腕が宙を舞っていた。


 「おっ、すっげ!」

 おそらくは水を圧縮し、ウォーターカッターのように射出・切断したのだろう。あの程度の水量でもそれが行えるのだから、あの浜辺での戦闘で本気を出されていたら、と今更ながら背筋が凍る思いである。

 キシ、と『ダークカブト』が鳴き、瞬時に姿が掻き消える。

 クロックアップだ。

 「待ってたぜェ、この“瞬間”をよォ──!」

 本来は使われるだけで全ての有利が覆るような圧倒的不条理を前に、ハクは笑う。

 女性ふたりが活躍したのに、自分だけがボロ雑巾になっていては格好がつかないだろうと。

 “ガードリーフ”

 “ドーム・フレア”

 “『フレア・ボムズ』”

 先程のパワー・ブレイドの効果が切れたと同時に、ハクは2枚のカードをスロットに差し込んでいた。

 それは、自身の周囲に数秒だが堅固な盾を張るガードリーフという防御カードと、狐火を思わせる青白い炎が相手を囲むドーム・フレアという攻撃カード。

 そしてこの2枚を組み合わせることで、『フレア・ボムズ』という新しい効果を得られるのだ。


 まず、ハクを中心に半径5メートル程が狐火に包まれた。半球形のドーム状に囲まれ、逃げ出すには炎に突っ込まなければならない、そんな状況下に、ハクは自らを置く。

 『ダークカブト』はまず、クロックアップしたら一番傷付いている自分を狙うだろうと、ハクは考えていた。ならば、狙われた上で対処すればよいとも。

 それの答えがこれである。

 「ファイアー!」

 掛け声と同時にハクは屈みこみ、その周囲を盾が覆う。

 直後、炎のドームが一気に収縮し、爆発四散した。

 相手ごと自爆するような攻撃の中で、自分だけ盾を使い生き延びるという技である。

 これならばクロックアップ中だろうが逃げ場を無くして攻撃できるとハクは予想し、その読み通りに『ダークカブト』は、多少の焦げ付きを残しながら地面を転がった。

 「今だ、シルフィ!」

 「はい!」

 衝撃により、なのかは分からないが、クロックアップが解除されたこの瞬間こそ好機。

 シルフィはハクの意図を理解し、小型ながらも竜巻を発生させ『ダークカブト』を飲み込む。

 それは直ぐに『ダークカブト』を空へと巻き上げ、その身体を無防備にハクへと晒す事になった。


 ──わざとクロックアップを発動させ、それが切れた瞬間に拘束、または空高く打ち上げ、回避できない状況にする。

 今までのハクの経験上、クロックアップの連続使用はないと踏んだ上での作戦。それが今功を奏し、絶好の攻撃タイミングへと繋がったのだ。

 「へへ……とっておきだ。吠え面かきやがれ」

 ハクはそう呟くと、カードケースから1枚取り出し、剣のスロットへと差し込む。

 “ファイナル・アタック”

 あくまで簡素な機械音声の後、ハクと『ダークカブト』を結ぶ直線上に、幾つもの鳥居を象ったカード型の門が現れる。

 それは一言で言ってしまえば、一時的な攻撃力バフを付与する加速装置。

 門を潜れば潜るほどに火力と速度が上昇する、一撃必殺を体現すべくカシワギ博士が作り上げた文字通りの必殺技であった。

 「うおぉぉぉおおおおおお!」

 白狐剣を前へと突き出し、ハクは翔ぶ。

 気功による強化もあり、初速は充分。それが『ダークカブト』との距離を詰める毎に加速して行き、最後には狐火の焔を纏った状態で到達する。


 それはさながら、地上から舞い上がる一条の流れ星。

 「ザ・グローリー……シューティングスター!!」

 前へと突き出していた白狐剣が、『ダークカブト』を捉える。しかしそれは運悪く、装甲の中でも一番分厚い胸部へと突き刺さってしまった。

 白狐剣が震え、悲鳴を上げる。亜音速の突撃と、自身よりも硬い物質との衝突で、刀身へのダメージが限界を迎えようとしているのだ。

 だが、敗けるワケにはいかない。今このチャンスを逃したら、ハク達にはもう『ダークカブト』へと対抗する手段はない。

 (折れる前に、貫けばいいだけだ!)

 気合一閃。ハクが全ての気を込めて剣を更に押し込むのと同時に、白狐剣が根元から折れ、残ったの刀身が『ダークカブト』の装甲を貫いた。

 「ギギギイイイイイイイイィィィィ!」

 刀身から流れ込む狐火によって体内から焼かれ、断末魔の雄叫びを上げる『ダークカブト』。それが地面へと堕ちて転がる頃には、それは物言わぬ骸と化していた。


 ハク達の勝利である。

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