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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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その名は、ブレイヴ・シルフィ その1

 『ダークカブト』のクロックアップにより、ボロ雑巾のようにされたハク。

 ヴォルトと離れた今、彼に取れる手段はほぼ無く、辛うじてヘイトを稼ぐ事で一般人を狙われないようにするのが精一杯という有様。

 共に戦場に立つ貂蝉アンコウですらも、水辺ではないため有効打がないという現状である。

 ぶっちゃければ、ほぼほぼ詰みである。唯一の勝ち筋は、ハクが温存している高火力攻撃を『ダークカブト』に当てる事であるが、相手がクロックアップという『別次元の速さで移動する手段』を持っているため現実的ではない。

 対抗できる救援を待つ、という可能性が残されてはいるが、いつ到着するか不明な状態であるため、それまでハクが生きていられるかと問われれば、多分誰もがノーと答えるであろう。

 そんな絶望的な状況の中、突如森の木々がザワりと揺れ、文字通り()()()()()()()影がひとつ。

 「そこまでです、デブリヘイム!」

 それは、黄緑色を基調としたフリルワンピースのような物を纏い、深緑の髪を風に流した、羽根の生えた二丁拳銃使い。

 「心を癒す、涼風のように。並居る悪を薙ぎ払う。冷涼なる風の戦士。ブレイヴ・シルフィ!」

 新たなるブレイヴ・エレメンツがひとり、ブレイヴ・シルフィが今ここに誕生した瞬間であった。


 「救援か? とにかく助かる!」

 ハクと貂蝉アンコウだけではまず捌けない状況ではあったが、サラマンダーやウンディーネと同等の戦士が参戦したのであれば話が別である。

 しかもデフォルトで空を飛べるようで、今も空中に留まり全体を俯瞰している。その機動力と両手に持つ二丁拳銃によるアシストがあれば、まだ一縷の望みはあるように思える。だが、

 「おに……そこの白い人! 早速ですがいい知らせと悪い知らせです!」

 なんて、シルフィが叫ぶ。白い人というのは十中八九ハクの事だろう。

 「悪い予感しかしないが、言ってみてくれ!」

 ハクは挫けそうになる足を必死に伸ばし、震える剣先で『ダークカブト』を見つめる。その『ダークカブト』も三対一では慎重になるのか、相変わらずハクに向けてキシキシと鳴きつつもジリジリとしか近づいて来ない状態だ。

 「まずいい知らせから。私は貴方達の味方です」

 「オッケー大事な確認だ。じゃあ悪い知らせは?」

 「これが初めての変身と実戦です」

 「oh.....」

 ハクとしては予想外で予定外の“ど素人”宣言であった。


 「変身した時の感覚からして、私は割と自由に飛べますし、銃を撃つことに躊躇いもありません。ですが圧倒的に知識と経験が足りないため、行動の指示はそちらにお任せしたいです。問題ありませんか?」

 「ほう……?」

 変身者を知らないハクとしては、ここで彼女の評価がぐんと上がった。デブリヘイムという人類の天敵を前にした恐怖と、初変身による高揚感。これらに一切心が揺れる事なく、自身の出来ること出来ないことを加味した上で見ず知らずの他人に指示を仰げるのだ。

 間違いなく優秀。正義のヒーローと悪の組織という立場上、いずれ敵になるのが残念に思える程である。

 「いくつか確認させてくれ。弾数は?」

 「風を撃つので、ほぼ無限」

 「威力は?」

 「不明」

 「優先項目は?」

 「一般人の避難及び、敵をここから動かさないこと」

 「完璧じゃないか。……なら、常に位置を変えつつ攻撃を。俺に多少当てても構わん、絶対に逃がすな」

 「了解!」

 【いきなり出てきて息もピッタリ……ふぅん?】


 貂蝉アンコウが何やら考え始めたが、そろそろ『ダークカブト』も焦れてきたのか、今にも動き出せるようにと姿勢を低く構えての臨戦態勢を取った。もう話し込む猶予はないだろう。

 「そういや、すっかりアテにしなくなってたけど、いっちょやってみっか……!」

 ハクはそうして、訓練は積んできたが未だに物にならない技術を頼る。

 即ち、“気功”。本来ならば体得した段階でお手軽パワーアップとなるべき技術なのだが、何故かハクはそれを十全には扱えていない。

 だが、今なら。天敵を前に、精神的にも肉体的にも追い詰められている今なら、ひょっとして。

 「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!」

 吼える。身体の奥底のモノを無理やり捻り出す為に。

 ハクの突然の奇声に、シルフィも貂蝉アンコウも怪訝な顔をしているが、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ………!」

 息が続かず、叫びが尻すぼみとなり、やがて止む頃。遂に様子見をやめた『ダークカブト』が動いた。

 その動きはクロックアップ状態ほどではないにしろ、すでにボロ雑巾同然のハクには対応できないはずの速度。

 シルフィの放つ弾丸を、『ダークカブト』はジグザグに走って躱す。そしてハクの下まですぐさまたどり着くと、その鉤爪は容赦なくハクのクビを薙ぐが、

 「見え、た!」

 間一髪、鉤爪の軌道上に割り込ませた白狐剣が鉤爪を防ぎ、甲高い音を立てながら火花を散らす。


 【おおっ、かっこいー♪】

 「心臓に悪い……」

 二人がそれぞれ対称的な感想を呟くのを耳にしながら、ハクの思考はまた別の事に集中していた。

 (これ、これだ! これだよ!)

 それは、ここしばらく無かった確かな手応え。立つのもやっとだった身体に喝を入れるかのように、全身を無理やり動かすだけのパワーが漲るのを確かに感じるのだ。

 「待たせたな『ダークカブト』……!」

 別に待っちゃいないのは分かってはいるが、こう言いたくなるのは(さが)である。

 そうしてハクは、力任せに剣を振り抜く。今までと同じようにして装甲に浅く傷が付く程度にしか刃は通らないが、膂力はまた別。

 「!?」

 今まではパワーでもハクを上回っていた『ダークカブト』であったが、今度は急にハクのチカラが勝り、まるで白狐剣に釣られたかのように一回転して地面へと叩きつけられたのである。

 「さぁ、第2ラウンド始めっか……!」

 そう言って獰猛に笑うハク。今のハクには、確固たる自信があるのだ。

 それは即ち、“気功”の発芽。

 生身の人間ですらヒーロー級の戦力として活躍できる程の超常パワー。それが今、目覚めたのである。

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