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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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7日目の浜辺と、赤、青、黒、妹 その3

 ハクとして変身したツカサと貂蝉アンコウが、デブリヘイム事変を生き残り強化されたデブリヘイム『ダークカブト』と相対した。

 「おおおおおッ!」

 以前黒雷として対峙した際に、このデブリヘイム共の装甲は生半な攻撃では貫けないのだと理解している。故にツカサ……もといハクは、一撃で関節を切り落とすつもりで剣を振るう。

 既に真打として引き抜かれた漆黒の刀身が弧を描き、スーツのパワーも合わさって常人には捉えられない速度での一閃となるが、それは易々と防がれ、反撃とばかりに『ダークカブト』の鉤爪がハクの鎧を浅く削る。

 そんな攻防を既に十数合。貂蝉アンコウと共に攻撃している為、手数だけならその倍は振るっているはずだが、いずれも有効打とならず、こちらが一方的に傷付くばかりである。

 「早く逃げろって言ってるんだ! 他にデブリヘイムが居ないとも限らない! 出来るだけ遠く、見通しのいい場所で助けを待て!!」

 そう叫ぶハクの後ろには、未だに逃げ遅れた人々。ハクが無意味だと知りながらも無茶な攻撃を続けているのは、(ひとえ)に彼らに『ダークカブト』の注意が向かないようにする為である。


 この幹部タイプのデブリヘイムは、ハクが「クロックアップ」と呼ぶ高速移動状態へと予備動作なしで移行する為、咄嗟の行動では間違いなく出遅れるのだ。

 もしもデブリヘイムの空腹が先に立ち、村人を食おうとしたらハクには止める手段がない。

 なので一刻も早く離れて欲しいのだが、元々寒村のお祭りだったからか老人が多く、陽達が懸命に誘導しても遅々としか進めないのが現状であった。

 【ホント……堅いって厄介ねっ】

 「ついでに速いし強いぞ。まだ俺達相手に本気じゃないだけだ」

 もう普段の気取った口調すらする気にならず、攻撃の合間に少しずつではあるが貂蝉アンコウへと情報を共有する。クロックアップの事を聞いた際には心底嫌そうな表情を浮かべていたが、それでも絵になるのは彼女の美貌の賜物だろう。今はあちこち擦り傷切り傷だらけではあるが。

 【……で? その、クロックアップ状態とかになったら、対処方法とかあるワケ?】

 「正直、ない。当てれば倒せる可能性のある攻撃は温存しているが、今は避けられるから使えないってのが現状だな。……そちらは、何か手はあるか?」

 【海の傍ならともかく、陸地じゃ無力に近いわよ】

 「だよなぁ」


 なんて一見和やかそうな会話を、生命のやり取りをしている合間にしているふたり。しかし『ダークカブト』も焦れてきたのか、ふたりとの戦闘中にも顔を他所へと向ける事が多くなってきて、ハクは焦りを感じ始める。

 このままでは、後ろの一般人を襲い始めるのもすぐだろう。

 (まだ使いたくなかったが……仕方ない)

 ハクは覚悟を決め、一旦姿勢を下げると、剣を構えずに『ダークカブト』へと突っ込んだ。

 キシ、と鳴き声が漏れ、どうしたものかと一瞬迷う『ダークカブト』。そらはそうだろう、先程まで執拗に関節ばかりを狙ってきたからこそ鬱陶しかった相手が、その得物を構えずに突っ込んて来たのだから。自身の強さに自信のある『ダークカブト』は、ハクが素手でどうするつもりなのか見てみたいという好奇心が一瞬でも勝ってしまったのだ。

 「秘術、毒霧!」

 若干心苦しく思いつつも、ハクはヒーローとしては有るまじき、ダークヒーローとしては順当な手段をとる。

 即ち、毒霧。接近した状態で仮面の口元だけを開閉し、そこに仕組まれたダークエルダー特製の毒液を噴射するという、最低最悪の凶器である。

 ジュウッという音と共に、『ダークカブト』の装甲と複眼が煙をあげて溶ける。といっても表面が焼けた程度で、さしたるダメージは与えられていないのだが、ヘイトは稼げる。


 毒霧をまともに受けた『ダークカブト』は、一瞬だけたじろいだ後に姿を消した。

 「来たぞ、ガードを固」

 ハクが言い終える前に、その身体はお手玉のように空中で幾度もバウンドする。

 【ちょっと……無理でしょコレ……】

 ハクが一方的に殴られている横で、必死に『ダークカブト』の姿を追おうとしている貂蝉アンコウも、流石にその速度差には対応できない様子。

 体感として10秒ほどだろうか。その位の時間が過ぎると『ダークカブト』はクロックアップを解除し、その間ずっと空中にいたまま(なぶ)られたハクは、全身に傷跡を付けながらも生きたまま地へと落ちた。

 流石はダークエルダー製の防御力である。

 「……と、いう感じだ……」

 【……ご丁寧に、どうも。対応は、できなさそうね……】

 前回はヴォルトのおかげでなんとかなったが、今回彼女は留守番を選んだため、今は不在だ。

 つまり、何か対抗手段を見つけなければどうしようもない、という事だが。

 「今はとにかく、時間稼ぐしかねぇや……」

 結局何も思いつけないハクは、ふらつく脚を叱咤しながらゆっくりと剣を構え、『ダークカブト』へと向き直るのであった。

 まさしく、万事休すである。



 ◇



 一方その頃、その戦闘を近くの茂みから眺めている少女の姿があった。

 (えぇ……兄さんって、ただの戦闘員じゃなかったんですか……?)

 その少女はなるべく音を立てないようにと心掛けながらも、あまりの驚きに口元を隠してワナワナと震えている。

 少女……カレンは、到着早々に妙な感覚に取り憑かれ、兄が変身したその時にちょうど用事が終わって戻ってきた所であった。

 カレンはダークエルダーのアルバイト社員としての立場上、社内の詳しい情報までを閲覧する権限がない。悪の組織として、あまり大っぴらにできない情報までアルバイトが見聞きした場合、最悪の場合他の組織に拉致監禁され拷問される可能性がある、という組織側からの配慮という側面もあるのだが、主な理由としては責任感の有無とかその辺りだろう。

 (だからって、実の兄が『ダークヒーロープロジェクト』に参加していた事を知らないというのは、家族としてなんだか……)

 ツカサも昔はマメに連絡をくれていたのだが、カレンがウザがっている様子を少し見せたら、それもパタリと止まってしまったのだ。正直何が嫌だというものでもなかったのだが、そこは思春期特有の恥ずかしさというか、そういうものが邪魔した結果である。

 最も、ツカサはあまり自分の事を語りたがらないため、カレンから聞かなければ教えてくれなかった可能性もあるのだが。


 (って、えぇ!? 兄さんピンチじゃないですか! あの美人さんと一緒でも全然……あっ、避難が終わってないから? あーでもでも、先輩達がちゃんと誘導してるし……今私が出ていっても……)

 目まぐるしく状況が変わる中で、カレンは思考を巡らせながらもとりあえず待機して見守る事を選択する。

 救難信号は専用のアプリを使って発信したし、対デブリヘイム部隊もいずれ到着する筈だ。だからそれまで隠れていれば、事態の推移をみながら、最悪の場合は()()を使う事もできるだろう。

 と、カレンが考えていたその時、兄の変身した白い騎士が口から毒霧を吐き、その数秒後には空中でお手玉のように弾かれ、嬲られ始めた。

 (ウソ……強過ぎる……)

 たった10秒そこそこ。たったそれだけで兄はボロ雑巾のようになって地面へと叩きつけられていた。

 (『迷ってる暇は、ないんじゃないか?』)

 呆然と眺めるだけのカレンの脳内に直接響く声。その声の主は、小さな緑色の発光体としてカレンの肩辺りを浮いており、未だに決断できないでいる主人へと言葉をかける。


 (『迷っていても、あれじゃ勝てないぜ? でもオイラの……オイラ達のチカラがあれば、もしかしたら逆転できるかも』)

 「…………それは、本当ですか?」

 (『あくまで可能性の話だけどね。でも二対一より三対一の方が、勝ち目は見えるだろう?』)

 発光体は己の主人となる少女へと、とあるブレスレットを渡す。

 それは言わば、チカラの象徴。少女が選ばれた証であり、逆転の鍵とも成りうる物。

 「……分かりました。今回はアナタの口車に乗ってあげますが、警戒を解いたワケではありませんので」

 (『用心深いゴシュジンサマを持てて、オイラは幸せ者だよ』)

 明らかに嘆息したであろう発光体の声を聞きながら、カレンは右手首へとそのブレスレットを巻き、合言葉である言葉を口にする。

 「ブレイヴ・エスカレーション!」

 どこかで聞き覚えのある単語を含んだその言葉を言い放ち、カレンは光の中でその姿を変えていく。

 (兄さん、今助けますから──)

 その光は一瞬で途切れ、その場からはひとりの戦士が大空へと舞い上がる。


 この場に、3人目の精霊戦士が誕生した瞬間であった。

カレンは学生のため、ダークエルダーにはアルバイトという形でしか所属できません。ですがダークエルダーとしての事情で転校させられたりとかが稀にあって、彼女はその対象者でした。その為か、組織としては手厚すぎるほどサポートをしていたのですが……今回の一件でかなり待遇が変わることは間違いないでしょうね。

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