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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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7日目の浜辺と、赤、青、黒、妹 その1

 初日に呂布イカ達に絡まれ、2日目に妹達と遭遇し、何やかんやの問答の末に解放されたツカサ。その後は特に何事もなく商売をしたりカゲトラ達と全力で泳いだりと忙しく活動していたが、流石に一週間もとなると体力が尽きる。

 ツカサはもう何もかもを諦めて休日のラスト一日を冷房の効いたホテルの一室で過ごす事に決めた。決めたのだが……。

 『兄さん。いるでしょう? 出てきてくださいよ。ホラ、私も兄さんもこの浜辺に居るのは今日が最後でしょう? 最後に私たちと仲良く遊びませんか? ねぇ、兄さん……?』

 今現在、ツカサの泊まっているホテルの部屋を妹に割り出され、遊びという名の御守り兼財布にする気満々の彼女にドア越しから延々と甘ったるい猫なで声を浴びせられている最中であった。

 「……出てあげないの? 流石にこれ以上粘られると、私も我慢の限界なのだけれど」

 ヴォルトはせっかくリアタイでアニメが見れるというのでウキウキしていたのだが、その放送時間ギリギリまでカレンが居座っているせいで先程からかなり苛立っている。カレンも引く様子はないので、このままでは爆発も間近であろう。


 「………わかった、分かりましたよ! 着替えるからロビーで待っててくれ!」

 根負けしたツカサがそう声を張れば、はーい、なんて素直な返事が聞こえ、足音が遠ざかっていく。

 柔らかいベッドで帰りの時間ギリギリまでのんびりする予定だったが、こうなってはどうしようもない。

 「あ、私は出掛けないから。ギアは持っていってもいいけれど、あまり遅くならないでね?」

 と、ヴォルトは完全に居残る気でいるので、ツカサはもうどうにでもなーれとか思いながら身支度を進める。ヴォルト・ギアさえあれば黒雷だろうがハクだろうが変身アイテムを手元に出して対応できるので、単純に道連れがボイコットした程度のダメージしかないのだが。

 ツカサとしては隙を見て愚痴を言えるヴォルトとの関係が気に入っていた為、精神的には辛さでいっぱいである。

 「お土産、よろしくね?」

 「ああ……はい……」

 また暑い中を歩かねばならないのかと、半ば絶望しながら部屋を出る。ホテルの廊下はまだ空調が効いているが、外に出れば一転して灼熱地獄だと分かっている身としては本当に気が重い。


 「あ、やっと来た。遅いよ兄さん」

 「誰かが元気過ぎるだけなんだよなぁ……」

 ロビーまで降りたら、既にカレンはミネラルウォーターを片手に準備万端。

 若いって羨ましいな、なんて20代前半のくせに生意気な事を考えながら、ツカサもまた自販機でミネラルウォーターを購入し、一口だけ口に含む。

 「で、どこに何しに行きたいんだって?」

 「決まってるじゃないですか」

 カレンは普段のクールフェイスとは打って変わって、嬉しそうにニヤリを笑うと、

 「夏祭りですよ、兄さん」

 ツカサの財布が軽くなるのが確定した瞬間である。



 ◇



 「すいません司さん。忙しいのに付き合ってもらうどころか、運転までお願いしちゃって……」

 「いいさ。ここまで来たらもうとことん楽しむ事にするよ」

 ツカサ達が宿泊していたホテルから一時間ほど自動車で移動した先。そこではちょうどお盆前にお祭りをする風習があるというので、どうせなら行きたいとカレンがごねた末にツカサがレンタカーを借りて移動する事と相成ったのである。

 乗員はツカサの他に、カレン、日向、水鏡。

 そして何故か。何故か着いてきた貂蝉アンコウ。

 この5人? が搭乗しているのである。

 【へぇ……初めて乗ったけど、クルマって速いのね! 深海の殺風景とも違うし、着いてきて正解だったわ!】

 彼女は誰が誘った訳でもなく、ただ自然と集合場所にやってきて自然な様子で挨拶し、無言の笑みで【付いて行っても宜しくて?】と圧を掛けてきただけである。ツカサとしては関係性を探られたくないため「浜辺で少し前に出会った事がある」とだけ説明し、カレン達も同じような文言を返したため全員の知り合いという扱いになり、現在に至る。

 騒ぎになる予感しかしないが、ツカサの認識阻害装置付きのサングラスを貸している為何とかなるだろう、という完全なる見切り発車である。


 (まぁ、役得といえば役得だしなぁ)

 妹込みとはいえ、美少女達に囲まれて共に時間を過ごせる。ツカサとしてはほぼ間違いなく、今までの人生の中で一番の絶頂期であった。

 【ヒナタ、あの建物はなんて名前なの?】

 「ん? ああ、あれはマンション。人の住む所だな」

 【じゃああれは?】

 「あれもマンション。個別に名前はあるだろうけど、有名ではないぜ?」

 【……地上って、凄いのね……】

 後部座席で仲良く話す彼女たちの様子を見ながら、ツカサは自らの幸運に感謝し、それと同時に貂蝉アンコウが下手な事を口走らない事だけを祈り続ける。

 貂蝉アンコウには黒雷での姿しか見せていないはずだが、集合場所で見かけた時に一瞬だけ交わした視線は、初日の夕方頃に黒雷へと向けていた物と同質であった。そしてホントに軽くだがニヤリと笑ったのをみて、ツカサは正体に気付かれているのだと悟ったのだ。だがそれを問いただす前にカレン達も集まってしまった為、なし崩し的に現在に至る。

 (頼むから、騒ぎにだけはなりませんように……)

 そうツカサは、フラグになりそうな事をただ祈り続けるばかり。

 一行の長い一日は、まだ始まったばかりである。

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