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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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2日目の浜辺と、赤、青、黒、妹

 「兄さん、尋問のお時間です」

 妹に厄除けのお守り代わりとして配置されたツカサは、海の家にあるベンチで妹からの尋問を受ける事になったのだった。

 「な、何を聞こうというのかね……?」

 今のツカサにとってやましい事なぞ、ヴォルトに関わる一点以外ないのだが、それをこの公衆の場で堂々と説明するのは憚られる。

 悪の組織とはその正体や素性を隠してこそ美しいと、ツカサは思う。故にそれに関しての質問はまた後日にでも思っていたのだが。

 「あ、別に兄さんがかき氷をふたつ持ってようが、相手が誰だろうが追求しません。現状の兄さんに恋人ができるとは思っていないので」

 なんて、有難くも悲しい宣言を受けましたとさ。

 「リアル妹にそんな風に思われてるなんて、兄ちゃん悲しい……!」

 「そのリアル妹の前で『リアル』とか付けちゃう時点でキモいんですけど、自覚してます?」

 「ごふぉっ……」

 ツカサ、クリーンヒットの前にダウン。

 ツカサも特撮方面に伸びているとはいえ、オタクはオタク。

 身内に『キモイ』と言われるのは高威力のダメージとなって突き刺さるのだ。


 「いやいや、兄さんがキモイのは昔からなのでいいんです。それよりも聞きたい事があってですね……」

 目の前で兄が頭を抱えビクンビクンと震える中、全く気にしていないのかカレンは話を続ける。

 「昨日、兄さんもあの場所にいましたか? できれば感想等々を聞きたいのですが」

 「……昨日か? ああ、いたよ。とはいえ感想なぁ……」

 ツカサは黒雷として中央で戦ってはいたが、華雄ウツボに対し遠距離攻撃を叩き込んでいただけである。その後は他の黒タイツに混じり延々と戦うブレイヴ・エレメンツの戦闘を眺めていただけなので、ぶっちゃけて言うなら『この場で詳しく話すには内容が濃すぎるし、簡単に話そうとするならそれこそ、「大変でした」の一言で終わってしまう』程度のものなのだ。

 「何かしらはあるでしょう? 私は避難組だったのできちんと見れませんでしたが、円陣の中央で戦っていたのは兄さんなら見れたはずです」

 「ああ、なるほどそういう」

 ようは、カレンはブレイヴ・エレメンツの戦いぶりについて知りたいようだ。そりゃあのダークエルダーに対して異様な興味を示すふたりの後輩となったなら、ヒーローに興味を持つのもおかしい事ではない。


 「そうだな、見ていた限りでは……」

 妹が()()()()()に足を踏み入れ始めた事に気をよくしつつ、ツカサは多少の誇張も交えながらも、公衆の場で語るに相応しいぼかし方をしつつ語る。気分は最早吟遊詩人。何だかんだと、ツカサ個人としてはブレイヴ・エレメンツの事は嫌いではない……いやむしろ大好きなので、多少色が着くのも仕方の無い事だろう。

 飲み物片手に静かに聞いているカレンも、特にツッコミを入れることなく淡々と話が進み、そして夕焼けをバックに壮大な友情物語として締めた所で、大きくため息をつかれた。

 「はぁ~……」

 「え、なんで語り尽くした後でため息をつかれてるの俺……」

 「兄さんにはガッカリです。ずっと女の子ばかり追っているとか、妹として恥ずかしい限りです」

 空になった容器ではしたなく音を立てつつ、カレンは立ち上がってゴミ箱へと向かう。そして軽いモーションで手のゴミを投げ入れ、

 「まぁいいです。詳細は支部でアーカイブを観させてもらうので。兄さんはこのまま女の子のお尻ばかり追いかけていてください」

 とだけ宣うと、羽織っていたバスタオルを自身の鞄へと押し込みまた海へと駆けていく。

 「……一体、どういうことだってばよ……」

 カレンが何を不満に思っているのかも分からないまま、ツカサはただ呆然と妹の背中を見守る事しかできなかった。



 ◇



 「おや、司さんまだいらしたのですか? もうとっくに帰ったものかと」

 「妹に頭の上がらない兄なんだ、笑ってくれよ……」

 「うわ、なんか暗くなってる……」

 カレンが海へと戻ってからしばらくして、今度は水鏡 美月が休憩の為にツカサの側までやってくる。彼女はふたりが休憩に来るまでもずっと泳いだりしていたからか、唇が薄らと紫掛かっていて、目元もいくらか落窪んでいるようにも見える。

 どう見ても長時間海に浸かっていたツケであり、美人が台無しになってしまっているのだが、本人の表情には何か鬼気迫るものがあって、とてもじゃないがそれを指摘できる感じではなかった。

 「……何か、温かい物でも貰ってくるよ。君は少し休んでいるといい」

 ツカサはこういう場面での正解が分からない為、とりあえず飲み物を貰ってくる事にした。温かい物とか言っておきながら冷たい飲み物も用意して、保険も掛けておく。

 そうしてベンチへと戻ると、何故か人集り……いや、水鏡が5人の男達に囲まれている。何か見覚えがあるなぁとか思いながら近付いてみると、案の定というか、既に聞き慣れてしまった声がした。

 念の為、認識阻害装置としてのグラサンをかけてスタンバイ。ヴォルト・ギアにも同様の効果があるはずだが、彼らとは何度も会っているため念には念を入れて、である。


 「ねぇ、そこの彼女。俺達とお茶でもどう?」

 「結構です。すぐに海に戻りますから」

 「じゃあさじゃあさ、俺達と遊ぼうよ! 退屈させないからさ!」

 「結構です。ひとりで泳ぐ方が気楽なので」

 「……ふーん……ここまで言っても断るんだぁ。言っとくけど俺達、泣く子も黙るダーク……」

 「いやめげないな、かっちゃん。いっそ清々しいわ」

 口説き文句として(最低だが)ダークエルダーの名を出そうとしている男の後ろから、ツカサは声をかける。

 最早至る所で目にするようになってしまった古風ナンパ組(とツカサは呼ぶ事にした)はぐるりと振り返り、

 「ああん!? 俺のあだ名を知っているたァいい度胸だな!?」

 「いやあだ名知ってるのをいい度胸ってどういう事だよ……?」

 とりあえず会話はできそうなので、水鏡の隣に飲み物を置いてから、男達の前へと立つ。そういえば昨日もコイツらをみた気がするが、よほど縁でもあるのだろうか。


 「なんだァ……テメェ……? そこの美人さんのカレシかぁ?」

 「何を馬鹿な。高嶺の花過ぎて手が出せるわけなかろう」

 本当は嘘でも彼氏だと名乗っておけばそれで問題なく解決していたかも知れないが、生憎とツカサはその辺の機転が回らない。

 「んじゃァ何モンじゃワレェ! 言っとくが俺らは泣く子も黙る……」

 「はいストップ。それ以上言うと鎮圧するからなー」

 ツカサの手には護身用のスタンロッド。無駄のない動作でそれをかっちゃんの首筋へと当て、警告の意味も込めてペチペチと叩く。

 「……!」

 かっちゃんは一瞬驚いた顔をし、そして何かに気付いたかのようにゆっくりと後ずさる。

 「その声そのグラサンそのスタンロッド……! 見覚えがあるぞ。……お前、散々俺達のナンパを邪魔した……!」

 「覚えているなら学習しろよ。そもそも近くで本物のダークエルダーの組員達が働いているのにその名を名乗ろうとか、命知らずにも程があるぞ?」

 「くっ……! 覚えていろよ!」

 古風ナンパ組は昔懐かしい捨て台詞を吐き、海へ向かって脱兎のごとく駆けていく。そのまま逃げるのかと思いきや、海へと飛び込んで遊び始めたので、呆れを通り越していっそ清々しいとすら思えてしまったツカサであった。


 「また……助けられましたね」

 「別にいいさ。ダークエルダーを名乗ろうとしたアイツらを止めるのは俺の役割でもあるし」

 ツカサがベンチへと戻ると、ツカサの持ってきた緑茶を啜る水鏡の姿。少しだけ顔色が戻ってきたようだが、それでもまだどこかしら弱っているような印象が残る。

 「それで、何かあったのか?」

 ツカサはもはや定位置と化したポジションへと座り、新しく購入したピーチ・ジンバー・ミックス・オレに手を伸ばす。

 その時にフと水鏡の姿が視界に入ったが、その顔は何故か驚愕しているようであった。

 「……もしかして私、酷い顔しています……?」

 「あー……うん。そうね……」

 自覚はなかったのかと、言えるツカサではない。

 「……では少しだけ、聞いてもらえますか?」

 「俺でよければ、いくらでも」

 そうして、ツカサのお悩み相談室が始まったのだった。

 ツカサの妹ことカレンは、黒雷が実の兄である事を知りません。あくまでも黒タイツの一員として昨日の戦闘に参加していたものだと思っています。

 とある博士がお遊びでわざと知らせないように根回しをしているのですが、ヴォルトも何故か乗っかっている為しばらく勘違いは続きます。

 どこかで伏線として回収できたらいいですね(希望的観測)。

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