表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
121/385

2日目の浜辺と、赤、青、黒 その2

今更ですが、ツカサを表す言葉は彼の姿や立場でコロコロと変えております。

ツカサ=生身

黒雷=黒雷変身時

ハク=ハク変身時

司=日向 陽と水鏡 美月から呼ばれる時


ホント今更ですが、念の為……。

 「「「あ……」」」

 本来ならば出会うはずのない場所で、出会うはずのない人と出会った。

 それは完璧にお互い様の、「あ」であった。

 ツカサは昨日より黒雷としてこの浜辺へとやってきていたが、交代勤務により本日は休暇の身。身に纏う黒い物が無ければ、ツカサはただの一般市民……ではない。

 事情を知らない者からすれば、ツカサは何の変哲もないただの特オタだが、今出会ったふたり……日向 陽と水鏡 美月からすれば、ツカサはダークエルダーを追う秘密組織のエージェントなのだ。

 そのエージェントが普段着を着て黒タイツの屋台を回るという、その行為はまだ事情があるのだなで納得できよう。しかし!

 それは、2人分のかき氷を買う理由にはならないのである!


 (どうする、どう言い訳すれば切り抜けられる……!?)

 ツカサの中ではどう答えれば正解なのかをずっと思考しているが、割と詰んでいる気がしている。

 まず、水着姿の美少女ふたりと顔を合わせてお互いに顔見知りみたいな雰囲気をこの場で出したのがマズイ。

 以前の昭和ナンパ師の一件で、ふたりの少女の話は組織にも一種のネタ話として広まってはいるが、それ以降の交流については黙秘していた。この黒タイツという同僚達のど真ん中で親しい様子を見せようものならば、今夜からでも呑み会の誘いがしばらく途絶えなくなるだろう。前線に立つ黒タイツはゴシップにも飢えているのだ。


 それならばまだいい。いやよくはないが、とりあえず置いておける話ではある。

 問題は、この手に持つふたつのかき氷。

 これは、ツカサにパートナー(公私はともかく)がいるという証となってしまう。

 それは、黒タイツ達にはヴォルトの事だろうなという予想はついているが、少女達はヴォルトの存在を知らない。

 つまり、何らかの邪推やら憶測を立てられてしまう可能性が高いのだ。

 一度とはいえ、日向とはデートとやらを行った仲である(特撮映画を見ただけだが)。そんな彼女に対してどう言い訳をすれば納得してもらえるのか、恋愛経験に乏しいツカサには正解が分からない。

 たったこれだけの事でお互いにギクシャクともしたくないので、この状況はツカサにとって非常に高難易度かつ最重要なミッションになってしまったと言えるだろう。

 あと日向の隣にいる水鏡の視線がどんどんと剣呑なモノに変わっていく様が非常に恐い。


 「ょぅ……奇遇だな、司さん。……こんなところで」

 「あ、ああ……君達も、休暇かね……?」

 水着姿を見られた気恥しさもあるのか、頬を赤らめながら軽く腕を抱く日向。それはそれでとある物が強調されるのでとてもとても目の毒なので今はやめて欲しいのですが、なんてツカサにはとてもじゃないが言えない。そしてそれを見て周囲の男共を睥睨する水鏡は、刀を差していれば間違いなくそれに手を掛けているであろう位置にその手を伸ばしている。実際コワイ!

 「ところで、そのかき氷。誰かと一緒なのか?」

 そしてその質問は来た。日向としては、“お邪魔なら退散するけど”程度の意味なのだろうが、ツカサにとっては冷や汗ものの一瞬である。

 どう答えれば正解なのか、それもまだ答えの出ない段階だが、黙っていればやり過ごせる問題でもない。

 とりあえず男の友人としておいて、後から補足しようかと……何故寂しい独り身を強調せねばならないのかと一瞬だけ疑問に思いながらも……口を開いた瞬間に、ツカサにとっての女神が現れた。

 「あ、兄さん! よかった、ちゃんと買っておいてくれたんですね?」

 肩まで伸ばした黒い髪を結い、今までツカサに対しほとんど見せたことの無い満面の笑みをした、ツカサの妹こと大杉 カレンがやってきた。



 ◇



 「いやー、驚いたよ。まさかカレンちゃんと司さんが兄妹だったなんて。同じ苗字だなとは思ってたけど、ウチの学校、何故か大杉って苗字の人が多くてさー」

 「俺は驚かされっぱなしだよ。カレンが転校していた事も、転校先でふたりがカレンの先輩で知り合いだった事も初耳だし。……いやホント、転校くらい言ってくれてもいいのになぁ……」

 女神……カレンの一言により、ツカサのかき氷等々は奇しくも同じ浜辺へと遊びに来ていた妹へのお土産代わりだった、という話に落ち着かせてもらい、その後も3人に色々と奢りながら歩く事で事なきを得た。

 今はダークエルダーの系列ではない海の家で、ジュースを片手に日向と並んでベンチへと腰掛けている。

 先程までは日向もカレン達と混ざって泳いでいたのだが、休憩がてらに話をしにきたようだった。

 ツカサはツカサで、カレンに“休憩中のナンパ避け”として任命されてしまった為、ホテルに帰れずボーッと海を眺めている事しかできずにいた。弱みを握られた兄は妹に敵わないのである。


 「司さんは泳ぎに来たわけじゃないんだ?」

 「あ、ああ。仕事上仕方なくってのと、実家暮らしの妹が来るならって事で浜に出てきたけど、もう歳だし泳ぐ体力はもうないかなぁ」

 「へっへ。若いくせにおじさんみたいな事言ってら」

 軽くニヤケながら瓶ラムネを煽るだけでも、この少女達(カレン含めて)は絵になる。そりゃあ男共からしたら夏のワンチャンに賭けてナンパしたくなるのも頷けるほどだ。学校の行事かプライベートで来たのかは教えてくれなかったが(というかツカサにそれを聞く勇気はない)、休憩する時のお守り代わりに顔見知りの男(兄)でも置いておきたくなる気持ちもなんとなくだが理解できた。

 この時のツカサは知らなかったのだが、ツカサは黒雷としての度重なる経験と鍛錬の結果、それなりに引き締まったボディと持ち前の草食系男子オーラによって、ビーチにいた女性達に“ちょっといいかも”と思わせる程度の魅力はあったらしい。が、クソダサ普段着なのと美少女が毎回傍にいた事から誰も声を掛けず仕舞いであったのだ。

 哀れなりツカサ、逆ナンの芽は摘まれてしまったのである。……もっとも、逆ナンの最中にヴォルトが遊び半分で場を掻き乱したりする可能性は十分にある為、ホントに芽があったのかと言われれば首を傾げる事になりそうだが。


 閑話休題。

 「でも、なんでダークエルダーがここに? いや、全国にいるのは分かってるけど、あの黒い鎧は……」

 「黒雷だな。理由は分からんが、単純に出稼ぎじゃないのか。あの県に海はないからな」

 「ふぅーん……。まぁ、今回は誰にも迷惑掛けてないみたいだし、いいんだけどさ」

 ツカサと日向は、世間話的な気軽さで悪の組織の動向の話をする。彼女達は一般人なのにダークエルダーの動向に対しては人一倍警戒しているようで、エージェントであるツカサから何かと情報を引き出そうとしてくるのだ。

 ツカサも取捨選択しながら情報を渡しているし、実害は今のところないが。まぁ、他の悪の組織やヒーローに比べれば可愛いものである。


 「さて、と。オレももうひと泳ぎ行ってくるよ。代わりにカレンが相手をしてくれるってさ」

 「ははは、モテる男は辛いなー」

 「いつもはモテないって僻んでる癖に、笑っちまうよ」

 そう言って、日向はカレンと交代するように離れていく。彼女らは先程から、遠泳だのビーチフラッグだのスイカ割りだのと、身体を使うような事しかやっていない。その中でも水鏡はずっと動いているようだが、大丈夫なのだろうか?

 「兄さん、いつまで先輩達をエロい目で見てるんですか。妹の前で恥ずかしくないんですか。いっぺん死んでみますか?」

 「……我が妹ながら、辛辣だなぁ」

 ツカサは心配になって見ていただけなのにこの言われよう。それでも美少女を眺めていたのは事実なので、反論のしようがない。


 「さて兄さん。妹が疲れて帰ってきたのですが、何か言うことはありますか?」

 「はいはい。店員さん、この『ココナッツミルク・ド・パンプキンミックスインさくらもち』って飲み物ふたつください」

 「へい!」

 「……妹が頼もうか迷ってたゲテモノを、迷わず2人分頼む兄さんは流石だと思いますよ」

 「そう褒めるなよ」

 「あらん限りの呆れを込めたジト目をしているはずですが、通じませんか」

 ツカサが実家暮らしだった頃から変わらない掛け合いをし、カレンもまたツカサと同じベンチへと着座する。

 そして人差し指をピンと伸ばし、ツカサの鼻先へと突き付けた。その顔には、笑み。それは本来の攻撃的な表情であったと、後のツカサは語る。

 「さて兄さん。尋問のお時間です」

 拝啓父上殿、母上殿。妹はこんなに立派に育ちました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ