漆黒の戦士の初陣 その1
ツカサが文字通り変身してから数日が経った。
最初はデータ収集やら実験やらを繰り返す日々であったが、それさえ終われば後はカゲトラ達と何度も模擬戦をし、技量を高めることに費した。
その段階までは、今のところ何の問題もない。変身前後の感覚の違いにも次第に慣れてきて、残すところは実戦テストのみである、そんなある日。
「また性懲りも無く現れたな、ダークエルダー!何度俺の槍にやられてもめげない根性だけは認めてやるよ!」
「ふん、抜かせサラマンダー!今日こそ貴様たちに引導を渡してくれるわ!」
ダークエルダーの戦闘部隊とブレイヴ・エレメンツの二人が、人気のない公園で対峙していた。
方や紅き焔と蒼き清水。方やガラケーをモチーフにした怪人ガラケッケを中心に五人の黒タイツ。普段通りならブレイヴ・エレメンツが圧勝するだけに、その様子を遠巻きに見つめる住民達の目にも不安はない。
……しかし、今日だけは事情が違うのだ。
今にも衝突しそうな二つの勢力の間に、ソレは土煙と共に着地した。両者が動かず様子を見る中、ソレは土煙の間からゆっくりと辺りを見回している。土煙が収まるにつれ露わになるのは、漆黒の鎧に金色のライン。ツカサであった。
「……あんた、何者だ?ヒーローなら助太刀はいらないし、もしも敵だと言うのならたたっ切るが」
突然の来訪者にも、油断なく武器を構えるサラマンダー達。そんな二人に向き合うように、ツカサは己の身体の向きを変える。
「……はじめまして、ブレイヴ・エレメンツ。悪いがまだ名乗る名前も立場もないのでね、どうか好きに呼んでくれたまえ」
そういえばまだ変身後の名前を決めていなかった。完全に浮かれていて失念していたのだ。
「名前なんて今はどうでもいいのです。……この場において、貴方は私達の敵、それとも味方?」
そう問いかけながらも、ウンディーネの構えに隙はない。ツカサが妙な回答をすれば、即座に斬りにかかれる体制を維持している。
「ふむ、敵か味方かと問われれば……ところで、後ろの彼は誰かな?」
唐突に、ツカサがブレイヴ達の背後を指さす。もちろんツカサが示したのはただのブラフだが、同時に予め仕掛けていた小さな爆薬に点火して破裂音を鳴らせば……。
「なっ…!」
「えっ?」
いくら強いとはいえ、所詮は訓練も積んでいない素人。二人同時に炸裂音の方向へ振り向いてしまう。
「──疾ッ!」
ツカサが向かうのはサラマンダー。変身後の驚異的な脚力を存分に活かし、瞬時に懐へと飛び込んだ。
ガキン、と高い金属音が響き、ツカサの突撃が止まる。拳が当たる前に槍の柄で防がれたのだ。
「騙し討ちとは卑怯じゃねぇか…!」
「生憎と、何度も会うつもりがないのでね!」
ツカサは止まらない。槍を振るうには短すぎる超近距離は、素手による格闘戦を仕掛けるツカサにすれば千載一遇の好機。距離を取ろうと動き回るサラマンダーを相手に、逃げられてなるものかと瞬時に食い下がる。
「サラマンダー!」
「おっと、悪いが君の相手は俺達だ!」
ウンディーネが援護に駆けつけようとしても、ガラケッケ達が普段以上に食い下がる。以前は一刀の下で切り捨てられていたはずの黒タイツ達ですら、的確に回避し、防ぎ、反撃すら仕掛けてくる。
戦局は一変した。