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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
119/385

激突! 海水浴場の決戦! その7

シルバーウィーク連続投稿のゴレンダァ! です。

読まれる際はご注意ください。


これにて連続投稿は一旦終わりになります。

 黒雷と華雄ウツボの勝負が決着し、手持ち無沙汰であった貂蝉アンコウと飛び入りのミスターKが戦闘を始めた、そんな浜辺で。

 「……ッ……ごぼっ……! がっ……はっ……はっ……!」

 「ウンディーネ! ウンディーネしっかりしろ! オレが分かるか!? この指は何本だ!? 怪我はないか!?」

 「…………あんまり……………一緒くたに、………ゴホッ………言わないで、ください……」

 黒タイツ女性看護部隊の手厚い看護により、ウンディーネはようやく目を覚ました。

 ずっと傍に寄り添い、声を掛け続けていたサラマンダーは、安堵のせいか少し泣いているようにも見える。

 「……状況、は……?」

 「黒いのは、勝った。……でも、オレ達は……」

 「……そう……」

 ウンディーネも、サラマンダーも、勝てなかったのだ。

 正確にはまだサラマンダーは負けたわけではないが、どの道同じ結果ではあっただろう。


 しかも、呂布イカ達には見逃してもらいながら、自分たちの手当を宿敵であるダークエルダーによって施されているのだ。

 それが何故か死ぬほど悔しくて、ウンディーネは自分でも気付かぬ内に、静かに涙を零していた。

 【目が】【覚めたか】【今度は】【二対一で】【かかって来い】

 そんな事情なぞ知ったことかと、呂布イカは立ち上がって屈伸を始める。

 ようやく戦いになるのだと、表情は読めないがかなり楽しそうに笑っているようだ。

 「……アイツ、オレよりもかなり強くて。まだ全然、手が届かない感じがした」

 起き上がろうとするウンディーネを支えながら、サラマンダーは小さく、ウンディーネにだけ聞こえるように呟く。

 「オレ、ウンディーネが飛んできた時、アイツの前で槍を手放して……。ホントはオレが守らなきゃ、いけなかったのに……」

 変身している時は決して弱音は吐くまいと、強くてカッコイイヒーローであり続けようと願った、少女のココロ。

 それもまた力の前では脆く、儚く崩れようとしていたが。


 「馬鹿ね……」

 その言葉を紡ぐ唇を、ウンディーネの人差し指が優しく抑えた。

 「むぐっ……」

 「私達は、ふたりでブレイヴ・エレメンツです。……ひとりで敵わないなら、ふたりで。ふたりでなら、きっと勝てる。……ずっと、そうやってきたじゃないですか……?」

 そう言って、ウンディーネはゆっくりとサラマンダーを抱き締める。

 自身も完敗したというのに、それをさも気にしていないかのように。

 ポン、ポンと優しく背中を叩き、数度髪を梳くように撫でれば。そこにはいつもの、“ヒーロー”としてのサラマンダーの顔があった。

 「ありがとう、ウンディーネ。……もっかいやろう。今度は、ふたりで」

 「ええ。……今度は、“私たち”で」


 黒タイツ達の必死の看病もあったからか、途中で飲まされた謎の液体に凄い効能があったのか。

 ふたりはすでに体力全快で、それぞれの得物を掴むと、津波から避難した高台から軽々と飛び降りる。

 着地した先は、呂布イカの目の前。今度はふたりで並び立ち、英雄と対峙する。

 【いい顔に】【なったな】

 呂布イカは、感嘆するように言葉を紡ぐ。

 呂布イカから見ても、慢心の抜けたふたりの顔は、戦士のソレであると断言できるほど美しく、凛々しいものであった。

 「今度はオレ達で」 「お相手、致しますね」

 互いの呼吸もピッタリ合わせた、今の最善状態の戦士。

 その生まれ変わったばかりのふたりと相対できる。

 その、最高の御馳走を目の前にし、呂布イカは思わず身震いする。

 (【あの】【戦士には】【悪いとは】【思うが】)

 彼女達が本来対峙するべき相手は、あの黒の戦士なのだろうが。こんな素敵な物を目の前に出されて、それを他人に譲るなぞ、今の呂布イカには無理難題であった。


 【こい!】【お前達の】【全てを】【かっ喰らって】【やる!】

 咆哮。もう日も傾き始めた浜辺に、滾る戦士の声が響く。

 「行くぞ! オレ達は……!」

 「ふたりで一組。それが……!」

 『ブレイヴ・エレメンツ!!』

 対するは、赤と青の可憐な少女。しかしてその手には、護るべき者を護る為の武器(チカラ)を握り。


 ──今こそ、英雄とヒーローが相対する。


 銅鑼が、鳴り響いた。



 ◇



 そこからの戦闘は、実に見事なものであった。

 力のサラマンダーと、技のウンディーネ。

 このふたりが同時に、コンビネーションを組んで挑むのだ。これが弱いわけが無い。

 ……だが。

 世の中、上には上がいる。

 いくら何かを吹っ切れたとして、それが=強化とは繋がらない。精霊やら何やらとファンタジーなモノもあるが、現実ってヤツはそう安くはできていないのである。

 それでも、陽の沈むギリギリまでふたりは粘った。

 あらゆる手段を用い、呂布イカを圧倒しようとひたむきになった。

 それでも、英雄の方が上だったと、それだけの話である。

 「………参った。降参だ」

 得物である大槍を弾き飛ばされ、首筋にピタリと刃を当てられれば、さすがのサラマンダーも両の手を挙げて降伏する。

 その隣ではすでにウンディーネが満足そうな顔で倒れており、文字通りの完敗であった。


 【よき】【闘争】【だったぞ】

 呂布イカもようやく満足したのか、先程までと違う柔らかい声でサラマンダーへと触手を差し出した。

 「ありがとう。貴重な経験ができた」

 サラマンダーも臆することなく、その触手を掴む。そして上下に軽く振り、離した。

 傍で見ていた黒雷は、数秒の後でようやくそれが握手だったのだと悟る。

 【そなた達を】【我が友と】【認め】【真名を】【託す】【両者】【耳を貸せ】

 呂布イカはサラマンダーとウンディーネに歩み寄り、耳元で何事かを囁く。彼らにとって真名とは、それほどまでに大事なものなのだろう。

 【黒雷】【こっちだ】

 「ん?」

 異種族同士の友情を目にし、コレだよコレとか思いながら頷いていた黒雷にも声が 掛かる。

 振り向けばそちらには、海に沈めたままにしていた華雄ウツボが立っており、こちらへ来いと手招きしていた。


 黒雷がそちらへと歩み寄れば、華雄ウツボもまた胴体をグニャリと曲げ、仮面の耳元へと口元を近付ける。

 【我が】【真名】【タオレン】【できれば】【忘れてくれるな】

 「……そうか。ならば」

 華雄ウツボも真名を教えてくれたのならば、こちらも返さねばなるまいと、黒雷もまた小声で名を告げる。

 【……】【そうか】【良き名】【だな】

 「そういう褒められ方をしたのは初めてだ、我が友。いつかまた会おう」

 こちらもまた、熱い握手をもって友情を誓う。戦いの果てに芽生えた友情に、善も悪も関係ないのだ。

 【ちなみに私はアンナよ。できれば今度は、アナタとも戦いたいわね?】

 「ヒィッ」

 急に耳元で鈴の音のような澄んだ声が聞こえたかと思ったら、そこには貂蝉アンコウが笑顔で立っていた。

 どうやら完全に目をつけられたようである。

 【またいずれ逢いましょう、黒の戦士。その時は、アナタの真名も聞かせてね?】

 彼女はまたもう一度笑い、今度は、ウンディーネの背後へと回るべく気配を消して歩いていく。

 浜辺の方を見れば、満足そうに笑うミスターKと、そんな彼の耳たぶを引っ張る椎名の姿があったので、お互いに満足した戦闘ができたのだろうと推測する。


 「ああ……」

 そこで黒雷は夕陽を見つめ、ふと思う。

 ──これ、業務として申請していいよな? と。


 そうこうして、黒雷達の一日は過ぎていったのだった……。

呂布イカの真名は明かされませんでしたが、「タオレン」「アンナ」と来たら、大体予想できたりしませんかね……?

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