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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
117/385

激突! 海水浴場の決戦! その5

シルバーウィーク連続投稿の3本目ェ! です。

読まれる際はご注意ください。

 「エルゥ!!」

 ウンディーネがピンチに陥った時、浜辺に謎の鳴き声が響き渡り、貂蝉アンコウの頬に強烈なパンチが叩き込まれた!

 【……なに、この……なに?】

 しかし、強烈だと思っていたのはその謎の声の主のみ。実際はほとんどダメージはなく、それどころかその手を掴まれ、簡単に目の前へとぶら下げられていた。

 「離すエルゥ! 離すエルゥ!」

 その謎のマスコットキャラクター的な何かは必死にジタバタと藻掻くが、非力過ぎて何の効果もない。

 それは、まん丸いフォルムに小さな手足と羽を付け、生意気にも天使の輪っかのような物を被った何者か。

 貂蝉アンコウは、自分が地上の生物に対して疎いだけかと思って周囲の黒タイツへと顔を向けるが、彼らもまた首を横に振るのみ。

 「ボクはエルゥ・エル! とあるお方より、ブレイヴ・エレメンツのお世話を仰せつかった大天使である! 分かったらこの手とウンディーネを離すエルゥ!」


 【へぇ……天使ってこういう形をしているのね。ナマコみたいに柔らかくて、チンアナゴの肌みたいにすべすべしているわ】

 「その例え方は不敬が過ぎるエルゥ!」

 ぎゃーすか喚くマスコットを、捏ねるように弄ぶ貂蝉アンコウ。その間も、時折ビクンビクンと跳ねるウンディーネがまた痛々しい。

 「ボクはいいから早くウンディーネを離すエルゥ! じゃないと死んじゃうエルゥ!」

 【分かったわよ、ホラ】

 そうして貂蝉アンコウはようやく、触手からウンディーネを放す。

 しかしそれはその場にではなく、放り投げるようにして、だ。

 「え?」

 そして、決死の覚悟で必殺技を構えていたサラマンダーの腕の中へと着地する。

 「お、おいウンディーネ! 大丈夫か!?」

 未だ敵前だと言うのに、槍を手放し必死になってウンディーネに声を掛けるサラマンダー。


 【どういう】【つもりだ】【貂蝉】【戦士の】【戦いを】【邪魔】【するのか?】

 突然の妨害行為に、呂布イカはその方天戟の石突で砂を抉り、抗議する。

 それはまるで玩具を取り上げられた子供のような怒り方で、間違っても真剣な決闘を邪魔された戦士のそれではない。

 つまり、呂布イカも本気ではなかったのだ。

 【そんなつもりはないわよ。むしろその子を譲ってあげるわ】

 【何?】

 突然の申し出に、困惑する呂布イカ。

 【その子達、まだ2人でようやく一人前なのよ。だからひとりひとりとヤっても満足できない。……違ったかしら?】

 【……】【いや】【確かに】【物足りないと】【感じていた】【……】【そういうことか】

 呂布イカはようやく合点がいったと、方天戟を横に置きその場に座り込む。

 ウンディーネの回復を待つつもりになったようだ。


 【しかし】【それでは】【貂蝉の】【手が】【空くのでは?】

 あくまでも2対2にする気は無いと、暗に伝える呂布イカ。獲物を譲るのだから、そういう事なのだろうと言いたげに。

 【それは問題ないわ。そろそろあちらの決着も着きそうだし】

 そう言われ、呂布イカは視線を隣に移す。そこには未だに遠距離攻撃を続ける黒雷と、それを楽しそうに弾いている華雄ウツボの姿があった。



  ◇



 「震えるほど雷散弾! 根こそぎサンダー・レイン! 包みたいトンファーマグナム!!」

 【技の】【名が】【だんだん】【雑に】【なってきて】【いるぞ!】

 黒雷の技のレパートリーはとっくに尽きていた。

 後はもう思い付いた単語を片っ端からくっ付けつつ、同じような技を連打しているだけである。

 そしてそんな事態もすでに見切られている為、今度は華雄ウツボが遊ぶように色々試し始めたのだ。

 最初は回避に専念していたのが、次は大槍を使って受けてみたり、逆に弾き返せないか試したり。

 最終的には、全ての技を見切り、全弾叩き落とせるまで決して踏み込もうとはしなくなっていた。

 【こういう】【趣向】【だと】【思えば】【これは】【これで】【またよし】

 もはやゲーム感覚で、完全攻略を目指し始める華雄ウツボ。そもそも、普段は海中で生きる彼らにとって眼に見える電撃というのは非常に珍しいものなので、それをこれだけ披露してくれる黒雷にはいっそ感謝の念すら感じていた。


 【だが】【そろそろ】【決着と】【いこうか】

 名残惜しそうに呟きつつも、華雄ウツボは一旦距離を取る。それは今までに見せたことの無い大ジャンプで、一気に黒タイツ達の囲いを飛び越え、波打ち際へと着地した。

 「……どうした、大技の準備か?」

 サラマンダーを挟んだ向こう側で、ウンディーネのものと思わしき竜巻が発生したのを横目で見ていた黒雷は、華雄ウツボもまた決着を望んだのだと思い、攻撃の手を止めて歩み寄る。

 周囲の囲みもまた、2人の間を開けるように移動したので、2人を隔てる物は何も無い。

 【ああ!】【水を操る】【我の】【とっておきを】【見せて】【やる!】

 華雄ウツボはそう言うと、槍を大きく振り回し、あらん限りの大声で海へと叫ぶ。

 【いあ!】【いあ!】【母なる海よ!】【偉大なる父よ!】【今この時、】【我にその力の】【一端を】【お貸しください!!】

 そして、その叫び声から数秒の後、その事象は起こった。


 「oh...」

 それは誰の呟きか。地上にいる誰もが唖然とし、ただただそれを見上げる。

 【はっはっはっ!】【黒き戦士よ!】【この技を】【どう】【受ける!?】

 それは、高さにしておよそ10mはありそうな、巨大な津波。

 この場にいる全てを飲み込まんとするソレに華雄ウツボは乗り、サーファーの如く華麗に泳ぎながらも黒雷を睨む。

 「ヴォルト……やれる?」

 「私を誰だと思っているのよ」

 対する黒雷は、パートナーと意思疎通し、逃げ出しそうになる足を必死に抑えながらその津波を睨む。

 「俺達は退避だ! 女性隊員はブレイヴ・エレメンツの介抱をしつつ高台まで後退! シールド張って耐えるぞ!」

 『応ッ!!』

 黒タイツ達は見事な連携で一目散に逃げ出し、ついでとばかりにブレイヴ・エレメンツも回収する。

 【盛り上がっちゃって、まぁ……】

 【後で】【叱らねば】【ならんな】

 呂布イカ達海洋生物は堂々たるもので、逃げるどころか立ち上がる素振りすら見せない。


 【さぁ!】【どうするのか】【見せてみろ!】

 ハイテンションな華雄ウツボは、もはや黒雷しか見ていない。

 そしてそれ故に、いち早くその事態に気付けたのだ。

 【なっ!?】

 それは、波打ち際に整列された無数の大槍。

 しかしそれに実体はほとんどなく、あるのは核となるロングボルトと、それを覆うように生成された槍型の電撃だ。

 それが津波に対抗する壁のように並び、その穂先を微動だにする事無く空中に並び揃う。

 「金属媒体を含めた、遠隔操作の可能な高電圧攻撃の一斉射撃。まだ理論のみで試してなかったが……頼むから、死んでくれるなよ?」

 決して対人には使用することの無いであろう、無慈悲なほどの必殺技。それが今全て、華雄ウツボを含めた津波へと向けられている。


 【う……】【うおおお】【おおおお】【おおおおお!?】

 それは、華雄ウツボが久方ぶりに味わう死への恐怖。

 元々彼らにとっては未知に近い“雷”の概念の、その一端。

 先程までの攻撃とは一線を画す、殺意の権化とも言うべき凶悪な代物。

 華雄ウツボはその恐怖に耐えきらず、飛び退いた。

 そして、それのお陰で彼は一命を取り留める。

 彼が空へ向け、高く高く飛び上がったその瞬間に、その槍達は津波に向け一斉に発射されたのだから。

 「雷華奏嵐(らいかそうらん)!」

 それは、黒雷が恥ずかしがりヴォルトが大層気に入ってしまったカッコイイ必殺技の名前。

 厨二病全開で、仮面の下では顔を覆いたくなるほど赤面している黒雷であったが。

 その技は確かに津波を貫き、その電撃により津波を含めた一帯の海面をまとめて電気分解し、消え去った。

 辺りを静寂のみが支配する。

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