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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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激突! 海水浴場の決戦! その4

シルバーウィークの連続投稿、その2本目です。

読まれる際はご注意ください。

 【どうしたの? 貴女の剣、だんだんと雑になってきているわよ?】

 「……ッ!」

 ウンディーネ対貂蝉アンコウ。

 こちらもまた、ウンディーネが相手の技量によって振り回されていた。

 貂蝉アンコウによる両手足と提灯の5打点の攻撃を、ウンディーネが捌ききれなくなってきていたのだ。

 いいや、そもそも最初から貂蝉アンコウが本気でなかっただけで、ウンディーネが防げていたのは遊ばれていたからに他ならないのかもしれない。

 【はい5回目~♪】

 「ァ……ッ!」

 ウンディーネが隙を見せる度、貂蝉アンコウは彼女の足を払う。そして少しだけ間合いを離し、彼女が起き上がるまで鉄扇を拡げて踊るのだ。

 それがすでに5回、続けられた行為である。


 「バカにして……! バカにして……! バカにしてぇ!」

 【あらあら、怖い怖い】

 砂を握り、殺意の籠った瞳で睨んでくるウンディーネに対し、貂蝉アンコウはただ嗤う。

 ウンディーネが逆上し、動きが直線的だから狩りやすいだとか、少し水技を相殺された位で織り交ぜて戦うのを辞めたのは悪手だとか。

 言って更に逆上させたら面白いかも、なんて思っている事を、全てその笑みに込めて。

 【試合か、勝ち戦しかしてこなかったのかしら? 単純に若いというのもあるのでしょうけど……】

 そんなもの、殺し合いの中では言い訳にもならない位は理解しているものかと思ったが。

 「さっきから五月蝿いんですよ!」

 【あらあら】

 ウンディーネの感情はもうぐちゃぐちゃだ。いつもの冷静冷酷さはすでに無く、そこに残るのは年相応の癇癪を起こした少女がひとり。

 それは貂蝉アンコウが散々煽り倒したせいでもあるが、その程度で隙を晒すようなら、それは隙を晒した方が悪いのである。

 戦うとは、そういう事だ。


 (【弱いし、脆い。これでは物足りないまま終わってしまいそう……あら?】)

 そこで貂蝉アンコウは他の決闘を見る。そちらも未だに決着は着いていないが、貂蝉アンコウにとって面白い結果ではあった。

 (【あらあら、なるほど……。なら、あの人も食べ足りないでしょうし……?】)

 そこで貂蝉アンコウは、己の成すことを決める。何事も、より面白い方へ傾けた方が絶対楽しいから。

 【そろそろ決着としましょうか。貴女と遊ぶのも、そろそろ飽きてきましたわ】

 実際は心にもない事を言いながら、貂蝉アンコウは拡げていた鉄扇をパチンと閉じ、ウンディーネに向けて“かかって来い”とジェスチャーをする。

 【ああでも、どうせなら奥義のひとつくらい見せてから倒れてもらえるかしら……?】

 再びの笑み。異性からすればそれは、それだけで骨抜きにされそうなもの。だが同性からすれば、単純に小馬鹿にされているとしか思えないという絶妙な表情である。

 そして案の定、ウンディーネもその挑発に乗る。乗ってしまう。なまじ今までの人生において上手く世渡りをしてきた者にとって、それはどうしようも逃れられない罠なのである。


 「……いいでしょう。なら、最大の一撃を受けてみなさい」

 怒りに声を震わせながら、ウンディーネはその剣を高く構える。そしてそれと同時に、ウンディーネを中心に波紋のように広がる水の波。

 「うおっ、退避退避ィー!」

 見学席と化していた黒タイツ達の所まで届くほど広がったソレに、貂蝉アンコウは避ける事無く平然と尾ヒレを浸す。

 その笑みは変わらず。まるでそんなもの避ける価値もないとでも言いたげに。

 実際に、今のままではそれは薄く広がった水溜まり程度だ。普通ならば、誰もそれを脅威だと認識しないだろう。

 そのままで終わるならば、だが。

 「水刃・逆巻(さかま)け」

 ウンディーネのその声に反応したか、ただの水溜まりだったソレが急に大きく蠢く。

 螺旋を描くように突如ソレは回転し、水量を増しながら天へと登る。

 それはもはや竜巻。蒼穹へと登る龍が如く、ソレは中に取り込んだ者を水流と水圧によりぐしゃぐしゃに捻り潰しながら、高く高く舞上がる。


 そして、その中心に座するウンディーネも、ただ黙っているわけではない。

 目を閉じ心を研ぎ澄まし、己と(やいば)を一体とする。その為の精神集中を行っているのだ。

 「……この研ぎ澄ませた刃に、斬れぬモノなし」

 ──己を真の刃としたその瞬間、あらゆるモノを一刀にて斬り伏せる、最強の刀と成る。

 「奥義!」

 ウンディーネの開眼と同時、捻れ荒くれていた竜巻に一条の閃光が走る。

 周囲から見ても一瞬。何が起こったのか、黒タイツの誰もがざわめく中、竜巻が文字通り縦に割れた事で、その状況を理解する。

 “ウンディーネが、竜巻を斬ったのだ”と。

 「……龍断(りゅうをたつ)天女一閃(てんにょのいっせん)

 その声と共に、分割された竜巻は勢いを無くして消失し、その後にドチャリという音と共に、ふたつに別れた肉塊が落ちてきた。


 「……おい、まさか殺したのか?」

 「馬鹿な、あの貂蝉アンコウを……一撃で?」

 黒タイツ達のざわめきも遠く、ウンディーネはゆっくりと息を吐き脱力する。

 そこから、思考が戻る迄に数秒。そしてその数秒こそが致命傷であった。

 【残念ハズレ♡】

 「なっ……!?」

 突如砂の中より現れた、触手のようなもの。

 それは今まさに脱力したばかりのウンディーネの首へと巻付き、軽々と持ち上げてしまった。

 【チョウチンアンコウが獲物を狩る為に何をするか、それを知らなかったの?】

 その声の主は、触手の先にある者。そう、砂の中より這い出たのは、今まさにウンディーネにより両断されたと思われていた貂蝉アンコウであった。


 【見事に私の“エサ”に食いついちゃって。しかもその後にその油断。隠れているのに笑ってしまいそうになってしまったわ】

 くつくつと、妖艶に嗤う貂蝉アンコウ。

 よくよく見れば、そのウンディーネの首へと巻き付くそれは先程まで提灯をぶら下げていたものであった。

 【私はね、提灯を分身として自身と瓜二つの姿へと変えられるのよ。……だって、私自身が極上の獲物だもの】

 貂蝉アンコウはいつの間にかその擬態させた提灯と入れ替わり、砂の中へと潜っていたのだ。つまり切り裂かれたのは提灯部分だけであり、それこそがエサだったのである。

 「……! ……ッ」

 【ほらほら、もっと足掻かないと死んじゃうわよ?】

 首を絞められ呼吸を止められたウンディーネは必死に刀を振るうが、そんな力の入らないものでは簡単に鉄扇によってうち払われてしまう。

 それでも二、三度切り付けようとして全てうち払われ、四度目にして遂にその手から刀が離れた。


 【ほら、ガンバレ♡ ガンバレ♡】

 宙ずりにされ、呼吸もできず、刀を握る事すらできなくなったウンディーネを、貂蝉アンコウは容赦なく(なぶ)る。

 必死に触手に手を掛け、どうにか気道を確保しようと足掻くウンディーネの、その無防備な腹に向けて拳を振るったのだ。

 「    」

 軽いジャブの連打ではあるが、力の入らないウンディーネにとっては重い一撃に等しい。それでも最初は懸命に耐えていたが、5発を超えた辺りで意識を失い、やがて完全に脱力してしまった。

 【おっとイケナイ。殺してしまうところだったわ】

 満面の笑みを浮かべながら、恍惚の表情でそれを眺める貂蝉アンコウ。このまま触手にちょっとでも力を込めれば、花を手折るの同じくらい簡単にウンディーネの首は折れるだろう。それでなくても、このままでは酸欠で死ぬ事になるのだが。


 「エルゥ!!」

 そんな時、浜辺に謎の鳴き声が響き、貂蝉アンコウの頬に強烈なパンチが炸裂した。


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