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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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夏だ! ビーチだ! 黒タイツだ! その2

 神奈川のとある海水浴場にて、ブレイヴ・エレメンツと黒雷が肩を並べて立っていた。

 その手には、夏のビーチには似つかわしくない得物達。そもそも格好がバトルスーツとバトルドレスと甲冑風の黒いのなせいで、場違い感が半端ないのだがそれはさておき。

 不意に、重い銅鑼の音が閑散としてしまった浜辺へと大きく響く。

 それは一定の間隔で鳴り響き、海中より徐々に上昇してくるようにも感じる。浜辺に居残る者達には、それは死神の足音同然に聴こえているだろう。


 そして遂に、死神はその姿を表した。

 それは、烏賊(イカ)である。ただ八本の足で砂を踏み締め、二本の触角で珊瑚製の方天戟を携えているだけの。

 それは、チョウチンアンコウである。ただ尾ヒレが二股に別れ、人魚と見紛うばかりの肢体とそのありのままの美しさで、一目見た周囲のオスを骨抜きにしてしまうだけの。

 それは、ウツボである。ただその長い胴を誇示するかのように直立し、3mはあろうかとするその体長と同じ長さの大槍を携えているだけの。

 そしてそんな三体に率いられている者共は、文字通りの雑魚達である。ただその数は一軍といっても差し支えないほどおり、そのどれもが武器を携え、鋭い眼光を陸の生物へと向けている。

 その全てが浜辺へと姿を表した時点で、銅鑼は最後とばかりに大きく鳴り、そして止んだ。


 「ウソ、だろ……。呂布イカだけでなく、貂蝉アンコウに華雄ウツボまで……?」

 彼らを知る黒タイツはその恐怖で身を震わせ、その姿を見た他の黒タイツ達にも恐怖は伝播する。畏怖に身体を縛られ尻もちを着く者や、「俺、帰ったら幼馴染に告白するんだ」とか「こんな事ならウチのパソコンのデータ消去しておけばよかった」と嘆く者が続出する中、凛と立つ三人の中の一人がたった一歩前へと出る。

 「怯えるな!!」

 その声は普段使わない拡声機能を使用したからか、本人が思っていたよりも大きく響き、自陣どころか敵陣の隅々まで声が届いてしまったようで軽く後悔したようだが、さておき。

 その人物……黒雷は、持ち前の演技力で恐怖をひた隠しにしたまま、目の前の軍を率いる者へと向け、更に大きく声を張る。


 「そちらに御座(おわ)すは、天下に名を轟かす呂将軍とお見受けする! 不躾な質問で申し訳ないが、それだけの軍勢を率いて、地上に一体何をしに参られたか!?」

 その声と意味が届いたのか、呂布イカはぬるりと前進し、静かな、だが確かに響く声で、こう宣った。

 【強者】【気配】【我ら】【戦場(いくさば)】【求むる】【手合わせ】【願おう】

 発声器官が人間とは違う為か片言のように話すが、日本語は通じるようだ。

 そしてその言葉の意味はまた、黒雷達にもきちんと伝わる。即ち、

 「身体は闘争を求める……?」

 侵略でも地上見学でもなく、強そうな者の気配がしたから「ポ〇モンバトルしようぜ!」並の気軽さで勝負を仕掛けに来た、という事のようだ。


 そんなのありかよ、なんて地上の誰もが思っているだろう。しかし地域や種族が違えば、考え方や思想なんて丸っきり違う事だってある。現に呂将軍が率いる者達は、その誰もが猛者との闘争を前に心を踊らせ、舌なめずりをする者さえいる始末。

 そして彼らには、目と目が合ったなら逃げるという選択肢はまず有り得ないと言わんばかりに、彼らにしては悠長だと笑われるほどゆっくりと陣形を組み始めていた。

 「これは……逃がしてはもらえませんわね」

 ずっと沈黙を保っていたブレイヴ・ウンディーネが、黒雷を抜いて前へと立ち、そう告げる。

 だが彼女の眼光もまた鋭く、手に持つ刀と同等に剣呑な光を帯びている。

 彼女もまた、闘争に意味を求めるタイプなのだと、黒雷は身震いを我慢しながら思う。


 「つまり、敵だろ。伝説の英雄並に強いのかは知らないけど、オレ達なら勝てるって」

 続いてブレイヴ・サラマンダーがウンディーネと並び、その大槍を軽く振り回して調子を確かめる。

 彼女らの並び立つ後ろ姿は正しく壮観であり、黒雷ならこの一枚絵だけでご飯三杯は余裕である。

 そして黒雷とて、黙ってはいられない。

 「各班、座り込んだ者を叩き起こせ! 我ら悪の組織の前に、ヒーローとはいえ少女が立ったのだ! 無様な格好のままでいられるのか!?」

 その叱咤は確かに効果があり、恐怖に怯えた者達もひとり、またひとりと立ち上がり、己が得物を構える。

 避難誘導をしていた者達も合流し、ようやく人数差は五分五分よりちょっと不利な程度。しかし誰しも士気は十分であり、情けない声を出すものは、もういない。


 「ウンディーネ、あれをやるか」

 「あれね、なんだか久しぶりの気がするわ」

 黒タイツ達が陣形を組み直す間、ブレイヴ・エレメンツは声を張り上げ、この場に集う者全てに届けとばかりに、名乗りを上げる。


 「熱き心は焔の如く!並み居る悪をぶっ飛ばす!

猛き炎の戦士!ブレイヴ・サラマンダー!」


 「心の水鏡は刃と成りて。写る悪を切払う。

静かなる水の戦士。ブレイヴ・ウンディーネ」


 「「尽きぬ勇気は希望の光!」」


 「「精霊戦士!ブレイヴ・エレメンツ!!」」


 その堂々たる名乗りに対し、魚人達の目も爛々と輝く。

 さすが闘争の民、地上風の名乗りにも臆する事はない。

 【参る】

 呂布イカの一声と共に銅鑼が鳴り、それが開戦の合図となった。

 海水浴場にて、魚人と黒タイツが衝突するという異例の事態が、今始まる──!

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