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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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夏だ! ビーチだ! 黒タイツだ! その1

 ミンミンと、蝉の大合唱が五月蝿く聞こえるようになったお盆前。

 サンサンと日が照る中、日に焼けるのすら醍醐味とばかりに集う者共がいる。

 「らっしゃーい! かき氷はいらんかねー!?」

 そこは老若男女問わず、あらゆる世代の者達が吸い寄せられるようにして集まる、大地と海とを分ける境界線。

 「ダークエルダーの食堂から、特製レシピを持ち出した焼きそばだよー! 食わなきゃ損だ、一度は寄っとくれェ!」

 その浜辺と呼称される一区画に、今ダークエルダーの魔の手が伸びんとしているのだ。

 「さあさ! こっちの仕切りから先は『波なしサーフボード』の区画だよ! ダークエルダー特製の、波が無くても乗れるサーフボードさ! ガッチガチに安全装置が効いてるから速度はそれなりだが、今までにない体験ができるよー!」

 純白の砂地の上に、黒々とした全身タイツ達が多くの屋台を並べ、善良な一般市民から金を巻き上げている凄惨な光景である──!


 「……で、ホントに何やってんだ?」

 「見てわからんのかブレイヴ・エレメンツ。海水浴客相手の商売だ」

 そう言って黒雷は、ちょうど焼きあがった豚串を紙袋へと入れて、小さな子供へと手渡す。

 「さぁ坊や、焼きたて熱々だから気を付けて食べるんだぞ」

 「うん、ありがとぉおじさん!」

 「おじっ……!?」

 子供から代金を受け取った姿勢のまま動かなくなった黒雷を、ブレイヴ・エレメンツのサラマンダーとウンディーネは半目で見つめていた。


 こうなった話の発端は、数日前のこと──


 

 ◇



 「諸君、海へ行きたいかぁぁぁ!?」

 『おぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!』

 ある日のダークエルダー支部にて、カシワギ博士を中心とした集会が開かれた。

 その際の議題はひとつ。『夏だから海に行こう!』と、ホワイトボードにでかでかと書かれたもののみである。

 夏を満喫したいという熱い……いや暑苦しいまでの熱意が、今この瞬間の支部を沸かしていた。

 「ならばお盆前の一週間、神奈川のとある浜辺を確保した! 諸君らには、交代で屋台や海の家を経営してもらいつつ、バカンスと洒落こんでもらう!!」

 『いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉおおおうっ!!』



 ◇



 以上、回想終わり。

 「……まぁ色々あってな、バイトのようなものだ」

 そんな内部事情をヒーロー相手に暴露するワケにもいかず、黒雷は適当に流してまた串を焼く作業へと戻るのであった。

 「今回は別に誰の迷惑になる行為をするつもりはない。こんな暑いし人の多い場所で貴様らとやり合う気も毛頭ないしな。……どうだ、ここは休戦としないか?」

 ダークエルダーとしても、商売に出向いた先で騒ぎを起こしたくはないし、自身の担当の時間さえ終わってしまえば後は休暇も同然なのである。

 誰一人として好戦的な者はいなかった。


 「んー……まぁオレ達も偶然遊びに来ていただけだし、なぁ?」

 「そうやって大人しく商売をしている内は見逃しましょう。ただし、少しでも騒ぎを起こしたら容赦なく叩きのめしますので、そのおつもりで」

 「ふ、承知した。君たちもせっかく来たのだから、楽しんでいくといい」

 どうにか休戦協定を結ぶ事ができ、周囲にいた黒タイツ達もホッと胸を撫で下ろす。

 「さぁ、気を取り直して。……いらっしゃいいらっしゃい! 口に入れた瞬間に蕩けてしまうような、絶品の豚串はいらんかねー!?」

 ヒーローと悪の組織。ふたつの勢力から、利害の為に見張られたこの浜辺は、もしかしたら今日本で一番安全な場所なのかもしれない。

 だがしかし、そんな場所でも、敵が現れないとは限らないのである。



 ◇



 「呂布イカだ、呂布イカが出たぞぉぉぉ!!」

 『な、なんだってぇぇぇぇえええ!!?』

 誰もが優雅に遊んでいたお昼頃。俄に水際が騒々しくなり、海へと入っていた誰もが安全を求めて陸へと上がる。

 「な、なんだその、呂布イカって……?」

 「あんたらヒーローなのに知らないのか!? この辺で出没する海域無双を謳うヤベーイカだよ!」

 サラマンダーの疑問に、逃げる男が答えた。彼は綺麗なフォームで走り去り、後に「待ってよかっちゃーん!」と4人組の男が追い掛ける。

 「いや……分かんねぇよ……?」

 とりあえず百戦錬磨の猛者という事だろうか?


 「一班は一般人の避難を誘導! 二班は戦闘準備、敵の出現に備えろ!三班四班はバックアップに回れ!」

 黒雷は豚串の屋台を諦め、指示を出しつつ一応持ち込んでいた真紅のトンファーを手にブレイヴ・エレメンツと並び立つ。

 「すまんが予想外の事態のようだ。良ければ手伝ってもらいたいのだが……?」

 「いやだから呂布イカってなんだよ」

 サラマンダーの問いに、黒雷は答えない。代わりのようにウンディーネが刀を抜き、構えた。

 「元々私達でも難しい相手。敵とはいえサポートを得られるのならこちらも構いませんわ」

 「そうか、流石はヒーローだな。快く承諾してもらえるとは思っていたぞ。……では久々の共同戦線と行こうか!」


 久々の共闘に、内なる悦びを隠しきれない黒雷。しかしその構えに油断はなく、並び立つウンディーネも例外ではない。

 「だっから、呂布イカって! なんっなんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ただ一人、蚊帳の外へと置かれたサラマンダーの叫びが虚しく響く。

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