そのベルト、実験段階につき その2
カシワギ博士とツカサは、連れ立ってトレーニングルームまでやってきていた。他の部屋よりも広く頑丈に作られたそこは、今も数人の戦闘員達が組手や自主トレーニングなど思い思いに過ごしている。
「まずは変身前後のデータを取る所からじゃな。機材を設置するからベルトの調整でもしててくれい」
そう言われても、ベルトの調整なんてそんなに時間がかからない。早速手持ち無沙汰になったので変身ポーズでも考えようかとボーッとしていた所、カゲトラを前にかなりの人数がツカサを囲んでいる事に気付く。
「?えーっと……?」
「気にしないでくれ。みんな何だかんだと新戦力に期待してるだけだから」
とカゲトラに言われても、ツカサとしては囲まれているだけあって圧迫感がすごい。突っ立ってるだけだから余計に居心地も悪い。そんな微妙な空気。
「よし、準備完了じゃ。ツカサ、もう変身してよいぞ。そのベルトは装着者の意志と音声入力だけで変身できるようになっとる」
「あっはい」
ようやく声がかかり、ツカサも居心地の悪さから解放される。まぁそれでも、遠巻きに囲まれている状況には変わりないのだが。
「……では、いきます。──変身!」
特にポーズをとることもなく、その場で発声するだけの変身。それでも、現場では大いに状況が変化していた。
まず、ツカサを中心に雷雲が轟く。そして何条もの雷がツカサの身体を打ち据え、周囲からその姿を覆い隠した。思わず誰もが救出に向かおうかと動き出そうとした瞬間、その雷は唐突に止んだ。
「ゲホッ……。博士、こういう事になるなら先に説明してくださいよ……」
未だ晴れぬ煙の中から浮かぶ一人の影。ただそれは、雷に打ち据えられる以前とは大きく異なっていた。
まず、煙を払う様に腕が振るわれた。ただその力は本人が思うよりも強かったのか、周囲に充満していた煙が突風と共に散る。
次に、影が一歩を踏み出した。ただし足音は元来のものよりも遥かに重く、甲冑が鳴らすような金属音を伴っている。
そして全身が露わになった。
そこに出で立つは漆黒の鎧。過度な装飾は一切なく、胴体から四肢に流れるように金色のラインが引かれている。仮面には雷をモチーフにしたであろう二本のアンテナのような角と、赤紫に輝く大きな目が備わっていて、凛々しくも禍々しい雰囲気を醸し出している。
「ツカサ……正直かっこいいわ」
「おっ、そう?ありがと」
ただ中身は変わらずの特撮オタク。設置された鏡を見たり跳ねたりしながら、うおーすげーかっけー等一人で楽しんでいらっしゃる。
「ほれツカサくん、遊んでないでデータを取るぞ」
「おっと、そうでした」
──ヒーローに対してほとんど無力であったダークエルダー。しかし、今日からそこに漆黒の戦士が加わる。その出来事が運命の賽子をどう転がすのか、今はまだ誰にも分からない。