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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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ある晴れた夏の日にニンジャ その3

 「……って事がありましてね? 」

 「キミ、一度お祓いでも行った方がいいんじゃないかね?」

 退院直後に悪の忍者集団に襲われたツカサは、ハクに変身しそれを撃退する事に成功した。

 だが、その集団を率いていた枢 環(くるる たまき)という赤い狐のような上忍に逆恨みされてしまったのである。

 という話を翌日にカシワギ博士へと報告したら、真顔で有名な神社を紹介されたのであった。

 「いやまぁ、キミの運の無さはとりあえず置いておくとしてじゃ」

 カシワギ博士はそう言うと、デスクの引き出しから一枚の紙を引っ張り出し、ツカサへと手渡す。

 それにはちょっとお高そうなマンションの紹介と、簡単な案内図、それに独身男性ではちょっと手が出しにくいお値段が書かれている。


 「なんです、チラシの裏にでも書いてろって事ですかね?」

 「あー……キミは裏が白地の紙を渡されたらそう解釈するタイプかね。そうではなくて、そのチラシの通りマンションの紹介じゃよ」

 博士は半分呆れながらも、近場のモニターへと不動産のホームページを映し出し、チラシと全く同じ物件を表示させた。

 「この物件は見ての通り少々家賃は張るが、暮らす者が快適に過ごせるようにと最高の工夫を凝らした物件での。ご存知の通り、我々ダークエルダーが監修したものなんじゃ」

 なにひとつご存知ありませんでしたが。

 「で、この物件がどうしたって言うんです? ……まさかこのヒラ戦闘員に、そこへ引っ越せとか言わないでしょうね?」

 「勘が冴えるのう」


 どうやら当たってしまったらしい。

 「今の独身寮みたいな場所で十分なのですが」

 「残念ながら決定事項なんじゃ」

 博士は早々に諦めろと言わんばかりに、クリアファイルへと纏められた書類をツカサへと差し出す。

 そこには既に、ツカサのサインが必要な箇所以外は全てが完璧に準備された関係書類が挟まっており、組織としての正式文書として引っ越すようにと書かれた用紙すら用意されていた。

 「キミ、ワシのじっけ……優秀な部下としてそれなりに認知されていてな? それに加えここしばらくの活躍と、ヴォルトとの契約関係も相まって、いつまでも同じ待遇にしておくのも周囲の士気に関わる、とな」

 パフォーマンスの一環でもあるんじゃよ、と博士は語る。

 「もちろん家賃補助もあるし、限りなくキミへの負担は最小限に抑えるつもりでいるんじゃ。ただ成功例のひとりとして、「この組織で活躍すればこんな生活もできる」という所を周囲に見せて欲しい。それが上層部の意向ではあるんじゃ」


 毎度毎度、振り回してしまってすまんのぅ、なんて博士は笑う。

 まぁ振り回されてはいるが、それが全てマイナスな結果になったわけではない。それに、

 「謝らないでくださいよ。これでも、結構楽しんでますから」

 その突拍子もない行為に付き合うのも、なかなか楽しかったりするのだ。

 「ツカサくん……。では既にキミの荷物は我らの精鋭部隊が運び出しているから、さっさと書類にサインをして新住居を見に行くんじゃ。ついでに今日はこれで上がってよいぞ。先日の作戦での特別休暇を、キミは即入院したので消化していないからの」

 いい事を言ったつもりが、全然響いていないらしい。というか既に荷運びをしているとは、最初から有無を言わせる気など無かったということか。

 まぁ組織の命令だと言われた時点で、無理に逆らう気なぞなかったが。


 「カシワギ博士。要望通り、私の部屋も整えてあるのかしら?」

 博士とツカサが話す横で、ずっとフワフワ浮かびながら煎餅を齧っていたヴォルトが言う。

 「もちろんじゃよ。その為に1階のスペースをごっそり()()する許可をもぎ取ったんじゃから」

 どうやらヴォルトには、この件が始めから伝わっていたらしい。ツカサが入院している間はカシワギ博士の下で過ごしていたはずなので、当然と言えば当然だろうか。

 知っててツカサに伝えなかったのは、悪戯心のせいだろう。今もツカサの表情をニヤニヤしながら見ている事から、ほぼ間違いない。可愛い事をするようになったものだ。

 「……というか博士、今改造って言いませんでした? 改装ではなく?」

 微妙なニュアンスの違いだろうが、この天災発明家であるカシワギ博士がそう宣うのだから、実際に改造してしまった可能性が高い。

 内装を変えるとか、模様替えとかのレベルではなく、基礎から打ち変えてあらゆるギミックを満載するとか。


 「……その辺は部屋にマニュアルが置いてあるでの。大丈夫、使いにくくはしとらんよ」

 「やっぱり遊び心満載なんじゃないですか、やだー!」

 そのツカサの嘆きは誰にも通じず、結局はツカサが折れて書類にサインをし、帰宅という名の新居への引っ越しをする事となったのだった。



 ◇



 「ここが私達の新たなハウスね」

 博士との会話より一時間ほど後。

 ツカサとヴォルトは、一応前の住居から荷物が運びされているのを確認した後(本当になにひとつ残っていなかったので、管理人に鍵を返却して退散した)、電車に乗って十数分。

 ダークエルダーの支部からさほど離れていない場所に、そのマンションはあった。

 駅からも遠くなく、スーパーや病院などの施設は通いやすい場所にある、いわゆる一等地に近い場所。

 それが、これからツカサ達が暮らす事になるマンション、『なにかすご荘』である。

 このネーミングセンスよ。


 「……ヴォルトや、君は既にインターネットの闇によってミーム汚染されているんだね?」

 「汚染されてるなんて、レディに対して使う言葉ではないわよ、ツカサ。私は雷の精霊として、電子で管理される全てを閲覧できるだけ。そしてその情報の中から、貴方と話しやすい言語を選んでいるだけよ」

 精霊の姿のままなら、人と話す必要性すらなかったから、とヴォルトは楽しそうに笑う。

 確かに、今は可愛らしいお人形さんの中に入ってはいるが、元々はザ・雷の精霊! みたいな紫電を纏う球体状だったのだ。人と関わる理由も無かったのだから、そりゃあ会話の必要性も感じなかったのだろう。

 それはつまり、共に生活するツカサの影響をモロに受けやすいというわけで。

 「……うん、色々気を付けるよ」

 多分ツカサが所有するアレやコレやのせいで、ヴォルトの性格が歪んでいってしまっているのだろう現状に、少しだけ罪悪感を覚えたのだった。


 「まぁまぁ、今はそんな事どうでもいいじゃない。早速中に入りましょうよ」

 ヴォルトに促されてようやく中に入れば、そこは広々というか、明らかに他の部屋すらも取り込んだであろう空間が広がっていた。

 元の部屋から持ち込んだ荷物を広げてもまだ部屋に余りがある状態なんて、ツカサには初体験である。

 マンションなのに何故か部屋の中に2階へと通じる階段すら用意されていて、風呂とトイレも別、地下室もある、小部屋も多数、温泉付き、ダイニングキッチン……どう考えてもやり過ぎである。

 「広い……広過ぎるッ」

 壁は防音・耐電圧・耐衝撃性・防刃に優れた謎の素材、外には多少なら家庭菜園を作れる庭と目に付きにくい位置にある防犯設備、そして居住者が普段使いやすいように厳重かつ簡略化されたセキュリティシステム。

 どう考えても要人が住むような場所である。ツカサには似合わない。間違いなく分不相応な場所だ。


 「ツカサ、貴方が特別扱いなのではなく、私がダークエルダーにとって要人なのよ。その私と契約しているのはツカサなのだから、これくらい享受してもバチは当たらないわ」

 ずっとそわそわしているツカサを呆れた目で見ながら、ヴォルトがそう宣う。

 確かに、雷の精霊なんて存在はVIPなんてものじゃ済まない。人類史に寄り添うように存在している、地水火風を含めたあらゆる属性の最先端が彼女達精霊なのである。

 普段は人間と関わろうとすらしない彼女達が、こうして人と暮らしていること自体がレアケースなのだ。

 もちろん彼女達にも人前に姿を表した理由があるだろうし(ヴォルトはその辺をボカして話してくれないが)、同じく精霊の力を操るブレイヴ・エレメンツもツカサと同じように精霊と寄り添って暮らしているのだろう。

 そう考えれば、この待遇も納得……なのか?

 「考えるのはもう辞めなさい。感じるのよ」

 「アッハイ」

 ツカサは かんがえるのを やめた!


 何はともあれ、こうしてツカサは、新たなる生活を手にしたのであった。

ニンジャ出てきてませんが、サブタイはこれで間違ってないです。

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