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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第四章 『悪の組織と夏のデキゴト』 前編
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ある晴れた夏の日にニンジャ その2

 謎の九九流忍者集団『陰逸』によって半殺しにされかかったツカサは、ダークヒーロー・ハクとして彼らに立ち向かう。

 白狐モチーフの白い鎧をその身に纏い、純白の直剣を構える姿は正しく歴戦の兵士(つわもの)

 洋風の剣士対古くから生き延びた忍者集団。病院の前という、ご近所迷惑甚だしい場所で行うには勿体ないほどの好カードである。

 「ええいコヤツめ、まさか俗に言うヒーローというヤツだったか!」

 「……悪いがヒーローを名乗る気は無い。このまま見逃してくれるなら、俺だって敵対しないつもりではいるんだ。素直に引いてはもらえないか?」

 「ハン! 我々を舐めて掛かっているな? これでも我らは由緒ある悪の忍者集団。たったひとりのヒーローにビビって引いたとあっちゃ、組織の名折れなんだよ!」

 「ニニンガシ!!」


 多少の脅しで逃げてくれたらどれだけ楽かと思いきや、彼女達は逆に随分と殺る気に満ち溢れてしまった。

 まぁ確かに、組織の看板の背負った以上、彼女らが敗北するイコール組織の敗北である。ましてや戦いもせずに逃げるなぞ、復活したての組織からすれば、顔に泥を塗るどころか泥でできたパイを全身に投げられたような屈辱であろう。

 いつの世も、組織にとって大切なのはメンツである。

 「……名折れ、か」

 ハクも悪の組織に所属している以上気持ちは理解できる。ハクだって、ブレイヴ・エレメンツに戦う前から「お前ら弱いだろ、逃げとけ?」とか言われたら間違いなく反抗するだろう。


 「いやいや、失礼した。お互いに矜恃(プライド)があるのは当然。無意識にそれを蔑ろにするところであった」

 目を覚まさせてくれた彼女らに感謝しつつ、ハクは改めて剣を握る手に力を込める。

 入院生活で鈍った身体を無理やり起こすように。マスクの下の眼力だけは鋭く。

 「かかれ!」

 「ニニン!」

 ヒーロー相手ならと戦法を変えたのか、彼らゲニニン共が最初に選んだ攻撃は、四方八方からの鎖分銅の投擲。

 剣の間合いの外から攻撃できて、当たれば身動きを封じられ、こちらが避けるにもかなりルートの限られるという、合理的な手段である。そして何よりとても忍者らしい。


 「だけども、俺を相手に金属じゃあ分が悪い」

 そう言ってハクは、ただ軽くポンと音を立てる程度の合掌を行う。そのアクションに特に意味はないが、これから何かが起こりますよ、という合図にはなる。

 「ニシガハチ!?」

 ゲニニン共が驚くのも無理はない。彼らが投擲した鎖分銅は、その全てが本来の軌道から逸れ、空中の一点目掛けて引き付けられるかのように飛んで行ったのだから。

 もちろんヴォルトによる磁力操作のお陰である。

 「そしてひとぉーつ!」

 無論、その隙を見逃すハクではない。斬ったら派手に火花が飛び散る非殺傷スタンソード『白狐剣』を手に、まずは手近なゲニニンから斬り伏せる。

 「ふたーつ! みぃっつぅ!」

 続け様に二人、三人と斬り倒した所で、ようやく他のゲニニン共が我に返り、腰に差した忍者刀を抜くが、

 「ニロクジュウニィ!?」

 その忍者刀すらも宙へと舞い、鎖分銅と同じく一点へと吸い込まれていく。


 「正体は磁力だ! 金属武器は控えろ!」

 さすが上忍か、枢環は仕掛けに気付き、他へと注意を促していた。しかしその忠告も遅く、動揺している隙に既にゲニニンは半分以上が地へと伏せてしまっている。

 「ニニン!」

 しかし、それで怯える彼らではない。すぐさま身に付けた金属製品を投げ捨て、ある者は徒手空拳でハクへと迫り、ある者はその場に立ち止まり印を結び始める。

 「あっ、くそ! 忍者だからその手があったか!」

 ハクが印を結んでいる忍者に気付いてももう遅い。虚をつけないゲニニン達は徒手空拳だとしてもそれなりに強く、迂闊に隙を見せようものなら関節技をキメようと、虎視眈々と狙ってくる。

 対するハクの使える武器は、現状手に持った白狐剣のみ。ゲニニン達もそれを理解しているからか、なかなか間合いに入ろうとしない。

 万事休すである。


 「ニゴ(じゅう)!」

 印を結び終えたゲニニン達は、一様に手を地面へとつく。一瞬の土煙の後、そこに現れたのは5台の虎の姿を模した戦車。

 高さ1mほどのそれは、一斉に口と思わしき場所を開けると、中の砲塔から同時に火炎を放射した。

 発射の瞬間まで徒手空拳のゲニニン達を相手にしていたハクには、当然避ける暇もない。ゲニニン達が飛び退いた次の瞬間には、ハクへと五条の火炎放射が殺到する。

 火柱、後に爆煙。

 ハクを囲むように放射された炎は、中心点でぶつかり合い巨大な火柱を発生させ、爆散した。

 跡に残ったのは焼けたアスファルトと、屈んだまま動かない、鎧に焦げ跡ひとつないハクの姿。

 「ニ、ニロクジュウニ!?」

 「貴様、何故あれを食らって平気なのだ!」


 確実に仕留めたと思っていたのか、枢環ですら動揺を隠さない。そして、それを成したハクは悔しそうに膝を叩いてから立ち上がる。

 「……本当は、まだとっておくつもりの切り札だったんだ。だが使わされた以上、隠しておく意味もない。悪いが実験台になってもらうぞ」

 そう言ってハクは、ベルトに装着していたデッキケースを開く。それと同時に白狐剣からは一枚のカードが排出され、『ガードリーフ』と書かれたその葉っぱの絵柄をしたカードは何処かへと消えていった。

 デッキケースの中には、まだ複数枚のカードが残っており、ハクはそれから一枚を無造作に取り出すと、白狐剣のスロットへと差し込む。


 ツカサが入院中に、カシワギ博士が趣味で白狐剣へと取り付けた『リーフカードシステム』。

 葉っぱ模様のカードによって様々な能力が印加され、ハクの一時的な強化を行える画期的なシステムである。

 入院中にお見舞いに来たカシワギ博士に、「お前はなるべく、生きろ」と言われた事から、なんの作品に影響を受けたかは推して(はか)るべしである。

 “パワー・ブレイド”

 白狐剣から機械音声が鳴り、同時に剣から巨大なエネルギーブレードが発生する。

 「スラァァァァァァッシュ!!」

 間髪入れずの回転斬り。取り囲んでいたゲニニン達は、虎戦車ごとエネルギーの刃に討たれ、地に伏せた。


 「くそ……よくもやってくれたな」

 さすが上忍、枢環はギリギリで回避したようだが、赤い尻尾の一部が焼けたのかチリチリになっている。

 「ハクと言ったな。次に会った時は容赦しないぞ、覚えていろ!」

 それだけ吠えると枢環は地面へと何やらを叩きつけ、周囲へと広域の白煙を発生させた。

 そしてその煙が晴れる頃には、枢環共々ゲニニン達の姿は残っていなかった。

 「……先に襲ってきたのはそっちだと言うのに、理不尽だよなぁ」

 変身を解いたツカサは、退院直後の理不尽に嘆きつつ、後処理を組織のオペレーターへと頼み、その場を後にしたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが俗に言う忍ばぬNINJA… (説明しようっ!NINJAとは!原型である忍、2つ目にニンジャおよびシノビ、3つ目にNINJAというかんじでせつめいする!((文面幼稚化 忍…古来の日本に…
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