ある晴れた夏の日にニンジャ その1
新・章・開・幕!
ツカサが人生で何度目かの入院生活を経て、ようやく退院した頃。
季節は既に夏真っ盛り。
病院の快適な冷房の下でしばらく生活していたツカサは、その退屈ながらも自堕落な生活を惜しみながらも、迷うことなく外へと足を踏み出す。
「………暑っ」
そして外に出た瞬間に後悔した。
全身を満遍なく焼いてやろうとするカンカン照りが容赦なくツカサのやる気と元気を奪い取り、更には、
「ニニンガシ! ニニンガシ!」
ちょうどどこかへ向かおうとしていた謎のニンジャ装束集団と出くわしてしまったのである。
「は?」
「ニニン……?」
そのダークエルダーとはまた違う系統の戦闘員達は、みな統一された灰色のニンジャ服を身につけ、二振りのクナイを両手に持ち、ご丁寧に顔に『下忍』と書かれた仮面を被っている。
そういえば今朝のニュースでも、最近活動を再開した悪の組織があると言っていた。その組織の名は確か……。
「あっ、思い出した! 九九流忍者集団『陰逸』!」
「ニサン! ニサン!」
下忍達が拍手をしてくれる。どうやら正解だったらしい。
──九九流忍者集団『陰逸』。
間接的に見知った情報でしかないが、彼らは古くから受け継がれてきた悪の忍者集団の末裔らしい。
一時は時代の背景で暗躍していた彼らであったが、当時の『正義の心を持つ、魔を祓うシノビ』達に敗北し、組織は壊滅。
その後はより深い闇の中へと逃れ、力を付けるその日まで潜伏し続けている。
……と、SNSで胡散臭いアニメアイコンが呟いていた。
ネットの情報を鵜呑みにするのもどうかと思うが、その呟きと同時に古びた古文書のような物の画像まで貼られていては信憑性も出てくる。
恐らくはその対魔なシノビの末裔か何かが、注意喚起の為にとアップロードしたのだと、ツカサは勝手に考える事にした。
便利な世の中である。
「暑い中お疲れ様です。頑張ってください!」
「ニニンガシ!」
ツカサと下忍達は軽く頭を下げ合い、それぞれ別の方向へと歩みを進めた。
悪の組織同士が無理に争う必要はない。ぶつかるとしたらそれは、お互いの流儀に相手が反した時のみである。
「って、ちょっと! 何一般人に挨拶されて見逃してんだい! アタシらはただでさえ後発なんだ、ナメられてたらあっという間に忘れられるんだよ!」
「ニニン!?」
下忍共に囲まれるように歩いていた女の声に我に返ったのか、慌ててツカサを取り囲むように下忍達が動く。
そう、今のツカサはただの病院から出てきた一般人。
悪の組織がわざわざ見逃す理由はないのだ。
いっそ囲まれる前にダッシュで逃げてやろうかとも思ったツカサだったが、暑くてやめた。
真夏に追いかけっこは、逃げる側も追いかける側も、どちらもシンドイのは当たり前である。
そしてものの数秒で逃げ場を失ったツカサの前に、ひとりの女が歩み出る。
それは、赤くピッチリとした忍者服? に網タイツ、そして崩した文字で『上忍』と書かれた口元を半分だけ露出した狐面と二股のもっさりした赤い狐尻尾を付けた、なんかやたらと情報量の多いクノイチ。
「アタシは九九流忍法の使い手にして、『陰逸』が上忍。忍名を枢 環という。アンタに恨みはないが、大人しく逃がすワケにはいかないんだよ」
忍名というのは、ダークエルダーでいうコードネームみたいなものだろうか。ぶっちゃけバニー服×忍者服に狐要素を足したような格好の女性に凄まれても怖くもなんともないのだが、演じている本人は真面目なのだろう。
そしてなんというか、ちんまい。
ツカサも身長は高い方ではないのだが、それでも頭ひとつ分は下に目線を落とさなければならないとなると、相当低いと言わざるを得ない。
「……失礼を承知で言われてもらいますが、ひょっとして未成年……」
「未成年と違うし!これでもちゃんと成人しとるわ!! 失礼にも程があるだろ!!?」
「あ、ごめんなさい」
どうやら身長の件は地雷だったようだ。思いっきり素で怒られた。
「多少痛めつけて勘弁してやるつもりだったけど、やめだ。アンタは半殺しにして吊るす。吊るした上で蝋燭と鞭で徹底的に教育してヤる」
なんか怪しげなプレイじみた事を宣ってきた。
というか行軍中に見つけた一般人にかまけてていいのだろうか。
「殺れ、ゲニニン!」
「ニニンガシ!」
どうやら下忍と書かれた仮面共にはゲニニンという名前がついているらしい。
そんなどうでもいい豆知識を得つつ、ツカサの姿はゲニニン共の陰へと消えていき。
「白狐剣装!」
不幸にも一番前に出ていたゲニニン共をはじき飛ばし、ツカサは純白の狐鎧を身にまとった。
「な、なにが起こった……?」
部下に先行させていた枢環は当たり前のように無傷で、鞘の分解アタックに巻き込まれなかったゲニニン達と一緒に遠巻きにツカサの方を見やる。
しかして、その場に立つのは先程までの一般人に非ず。
白の直剣を右手に下げ、白狐モチーフの鎧に身を包むは無名の剣士。
無名と言いつつも、仮に名乗ったソレが気に入ったのか、ツカサは澱みなく剣を構え。
「我が名はハク」
慌てて若干距離を取るゲニニン達には一瞥もくれず、ただひとり、枢環と名乗った彼女にだけ顔を向ける。
「先に襲ってきたのはそちらだ。まさか反撃されたとて、文句は言うまい?」
この時この瞬間が、白狐と赤狐の因縁の始まりであるとは、この時は誰も想像してはいなかった。
今回はオーソドックスにニンジャ。
前回登場したスズは今のところ無関係。
忍者物の作品が世に溢れ過ぎていて、独自性を保つのが物凄い難しい気もしていますが、そこは闇鍋ヒーローものらしく、頑張って調理します。
まぁどんだけ目立っても作品の中心にはなりませんが。