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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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漢達のその後 その2

 激戦の後、3日ほど眠っていたツカサの下へヴォルトが情報を引っさげてお見舞いへとやってきていた。

 「そうね、まずはアナタが気になる愛しの椎名ちゃんから、かしら……?」

 ヴォルトは楽しげに笑いながら、おそらく報告書のような物の束であろうファイルを広げる。


 大人形態のヴォルトは元々スレンダー美人系の姿なので、脚を組みながらそんな物を広げられては相手が精霊だと分かっていてもドキドキしてくる。いやまず精霊という存在がそこまで気安いはずもないのだが。

 「端的に言えば、彼女は要リハビリかしらね。精神的な負荷からは脱したから、後は薬が抜けるのと心の回復を待てば、自然と喋る事はできるようになるはずだと医者は言っていたわ」

 あんな可愛い子、この組織が放っておくわけ無いものね、なんてヴォルトは言って。ツカサへと1枚の紙片を渡してくる。

 そこには丁寧な字でびっしりと彼女の今後の予定が 書かれていて、最後の最後に「気功とやら、今度教えてくれよな。カゲトラより」という一文で締められていた。


 色んな意味で驚いて綺麗な文字なのに目が滑る。

 なんとか読み込んで分かった事は、椎名は今後しばらくは入院となり、全快したら組織が後ろ盾となって学校へと通わせるらしい。

 その後の進路は本人の希望次第、とするそうだ。

 完全なる被害者のアフターフォローとしては最高のものではなかろうか。

 「あと、裏見恋歌って子が椎名ちゃんに会いたがっていたわね。アイドル部に勧誘するんじゃないかしら」

 「……分からなくは……ないけど。彼女はアイドルというより歌手って感じなんだよなぁ……」

 精霊すら太鼓判を押すほどの美声なのだ。そんな子は可愛さを売るアイドルよりも、オペラとかの方面が向いているように思うのは、ツカサが素人だからか。

 「その辺は彼女達次第ね。じゃあ次の報告にいくわよ」


 彼女はそう言って、また1枚用紙を捲る。

 「霧崎龍馬について。彼は昨日に目を覚まして、今なお入院中。腹の刺傷の具合は良好だけれど、アナタがトドメに蹴り飛ばしたのが相当効いた様子らしいわ。後遺症は残らないけど、しばらくは安静といったところね」

 「仕方ないだろ。こっちは立っていたくもないのにワガママ言うからだ」

 「あら、別に私は責めたりしていないのだけれど?」

 「君の顔が「あーあ、やっちゃったわねー」って言いたげにしていたからっ!」

 「はいはい、この表情は私の電気信号ひとつで微細に変えられる事を忘れないようにねー」

 くすくすと笑うヴォルトにからかわれながら、手持ち無沙汰だったツカサは傍にあったお見舞い品の林檎を剥く。

 ヴォルトに剥いてもらおうなんて考えはない。

 「あら、気が利くわね。あーん……」

 「はいはい」

 皮を剥いて、6つに切ったその場でヴォルトに一口目を渡す。もはやこんな関係も慣れたものである。


 「……んんっ。やっぱり食べ物って美味しいわね。『娯楽』って偉大だわ」

 「君達にしたら娯楽だろうけど、俺達にとっては生命維持なんだよ。……というか、三日間寝た後に林檎って食べて大丈夫なのかな……」

 「不安なら私が貰うわよ?」

 「食べたいだけだろう、君は……」

 イチャイチャしてるだろう。これ、精霊とオタクなんだぜ。

 閑話休題。

 「そうそう、あと2人ほど報告しなきゃいけなかったわ」

 「……ふたり?」

 ツカサ、思い至らない。

 此度の敵の親玉であった、春日井夜一郎忠文の事ならば覚えているが、もうひとりとなるとさっぱりであった。


 「クノイチよ」

 「ああ、あのクノイチ!」

 椎名を助けてからすっかり空気と化していたので忘れていた存在である。さすが忍者だ。

 「クノイチはウチの諜報部へと引き抜かれたらしいわね。元々優秀だと界隈では噂されていて、機会を伺っていたそうよ」

 「噂が流れるクノイチってどうなの……?」

 「私がその辺の機微とか、分かるわけないじゃない」

 諜報部界隈で有名とは、一体どういう具合で話が出回るのだろうか。彼女らも仕事として出回っているワケだし、「ウチの里から有望な忍者が出ましてな!」 「いやいや羨ましい限り。ウチの里では~……」なんて会話でもあるのだろうか。

 それはそれで夢が無さすぎる。


 「というわけで、はい御本人」

 「ドロンと参上っス!」

 突如病室の一角に煙が発生し、そこからスッと女性が現れる。

 それは椎名救出の際に見た事がある顔。

 彼女は何故かスっと膝を折り、頭を垂れる。

 「改めましてご挨拶を。……(わたくし)この度、ダークエルダー諜報部が末席に加わります、クノイチにございます。名を、『スズ』と賜りました」

 恐らく、社員コードネームの事だろう。クノイチなので『(すず)』とは、またありきたりな感じもする。(ツカサ)の言えた義理でもないが。

 「三日前、ダークエルダー程の組織に協力を申し出た対価を聞いたところ、「あ、じゃあウチで働かない? 給料も待遇も保証するよ?」と誘いを受けまして、了承したのはいいものの思ったよりも高待遇。罰則覚悟で挑んだのに実態は栄転という何とも不思議な事が起こりまして」

 「うん、自慢とかいいから。結局何が言いたいの?」

 ツカサからすれば、突然現れて跪いたと思ったら自慢話をされていたでござる、みたいな感じである。多少なら怒ってもいいだろう。


 「つまり、その待遇に私が耐えきれず、激務だという前線を希望したのです。そうしたら幼女博士に「あ、ではツカサくんの下に付いてくれるかね? 最近は彼が一番キツいはずだから」と言われたので……」

 「…………つまり、俺の部下?」

 「そういう事っス、いやそういう事です」

 なるほど確かに、最近やたらと病院との往復を繰り返しているのはツカサだけである。デブリヘイム事変の前後でもう3回は入院している為、傍から見れば一番ヤバい場所という判断になるだろう。

 「ついでに幹部候補生として、部下の扱いにも慣れろ、と博士は言っていたわ。アナタ、いっつもひとりで泥を被りに行くから」

 「そんなつもりないんだけどなぁ……」

 悪の組織の怪人として、やれることをやってきただけである。


 「そういう事で、私は今日からツカサさんの部下っス。いや部下です。何なりと使ってくださいっ……です」

 「いや、もう喋りにくいなら口調崩していいから……」

 「そうっスか? 助かるっス」

 いやー、どうにも若い人にヘコヘコするのって苦手なんスよねー、なんて笑うクノイチ、スズ。

 また珍妙な人物が入ったなー、なんてツカサはぼんやりと考えながら、また改めてヴォルトへと顔を向ける。


 「で、春日井のじいさんはどうなったんだ?」

 それが今、ツカサが一番気になるというか、懸念事項。

 たったひとりで、小国の軍隊とも渡り合える戦力を半壊寸前まで持っていった化け物である。警戒するのは当たり前だろう。

 「……知ったら、後悔するわよ?」

 しかもこんな時にだけ、ヴォルトは溜めるように言う。

 それで余計に気になってしまうのだ。

 「いいから教えてくれ。あのじいさんは、どうなった?」

 「…………それはね?」

 「それは……?」

 病室に今、緊張が走る。見回りに来た看護婦が何事も無かったかのように、花瓶の水だけ変えて出ていったから、実際はそんなでもないのかもしれないが。


 「ヤクザを辞めてウチの戦闘教官になったわ」

 「…………それが今日一番の衝撃だわ」

 そこでツカサは気力を使い果たし、ベッドへと倒れ込むように気を失ったのであった。

キリがいいような、悪いような。そんな感じで、第三章は終わりとなります。またキャラ紹介を挟みまして、第四章に入れたらなと。

今見たら、第三章だけで半年掛けてますね。お付き合いしてくれる皆様に感謝。


それと、この悪の美学も累計2万PV、5千ユニークをほぼ同時に達成いたしました。

いつかランキングに乗るという夢を掲げ、これからも精進いたしますので、末永くお付き合いくださいませ。

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