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悪の組織とその美学  作者: 桜椛 牡丹
第三章 『悪の組織ととある抗争』
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そして、漢同士の決着を

 闇夜に沈んだ港は、もはや死屍累々と言っても過言ではない有様となっている。

 幸いにも死者はおらず、半死半生の者は素早くワープ装置を通してダークエルダーの施設へと直行した。

 轟沈した大陸マフィアの船はダークエルダーの海上戦力が素早く取り囲み、脱出してきた者や船内に取り残された者を拿捕・拘束し更生施設送りとしている。中には抵抗する猛者もいるが、海戦用に特化した怪人スーツの前では子供の駄々っ子に等しく、次々と無力化されている。

 そんな中、港での激戦を経て倒れ伏した3人の影の内、立ち上がる者がいた。


 「……まったく、老体に厳しい奴らじゃ」

 漢はやれやれと首を振り、ゆるゆると立ち上がる。

 春日井夜一郎忠文である。

 その足腰はあれだけ殴られたのにも関わらずしっかりしていて、一見外傷も何も無いさまを見せられては、本当に人間かと疑ってしまう程のタフネスだと関心する他ない。

 「……いい加減、倒れておけよ、師匠……」

 「全くだ……。こっちは痛みでこれ以上動きたくないんだ……」

 それに釣られるように、残り2つの影も立ち上がる。

 霧崎と黒雷。方や長ドスで腹を刺されて重体、方や超加速による反動でもはや喋るのすら辛い身体である。


 「お前らこそ倒れておけ。……しかし、憂さ晴らしすらまともにできんとはなぁ。せっかくここまで登りつめたというに、難儀な話じゃわい」

 漢は皺だらけの口元を妖しく歪め、面倒くさくなったのかその場にどっかりと座り込んでしまった。

 どうやら闘う気はもうないらしい。

 「貴様が生きていれば障害になると……排除したと思っておったんじゃがな。まさか敵に囲われて生き延びておるとは。……その他にも想定外が多すぎて、人望の無さが祟ったようじゃなぁ」

 まるで憑き物でも落ちたかのような、今までのような覇気を感じない表情で漢は語る。

 あれほど部下にキツく当たっておいて人望も何も無いだろうとも思うが、自身の人を見る目の無さも含めて嘆いているのだろうか。


 「……いい歳のくせに大それた野望なんか抱くからだ。……ダークエルダーなんてのに喧嘩を売った時点で、間違っていたんだろうさ」

 霧崎もまた、黒雷と二度も拳を交えた。

 傭兵という雇われ戦力としての戦闘であったが、あの時点で警戒されるだけの戦力を示してしまったのだから、いずれは敵として認知されていただろう。

 そうでなくても、春日井は霧崎を排除し自らの築いた基盤を大陸マフィアへと売り渡そうとしていたのだ。発見が早いか遅いかの違いだけで、ダークエルダーは間違いなく彼の野望を阻止する為に動いていたはず。

 何もかも、ダークエルダーという組織を甘く見過ぎたのが敗因となるお話だ。


 「ふん。……貴様らもいずれ、この国に住み続けるという選択が誤りだったと気付くじゃろうて。この国はこれから、どんどん騒がしくなる。ワシは国外から悠々と傍観するつもりじゃったのに、それを邪魔しおってからに。……本当に、難儀な話じゃて」

 漢はそれっきり黙り込み、未だに無傷の海上戦力に囲まれた状態でワープ装置をくぐって行く。あれだけ2人の全力をぶつけたのだ、もう暴れる力もそれほど残っていないだろう。そうであって欲しい。

 そうして港からほぼ全ての戦力が撤退し、残るは霧崎と黒雷とバンドメンバーのみとなった。撤収作業はまた別働隊が到着次第行うため、現状の黒雷達はこれにて作戦終了、となる筈なのだが。


 「さて、じゃあ椎名をこちらに渡してもらおうか」

 なんて、霧崎が拳を構えて言うものだから、残ったメンバー全てに緊張が走った。

 「言うと思ったよ。お前、ハナから引き取る気だったんだな?」

 しかし黒雷は動じず、分かっていたとばかりに拳を構える。

 「なんだよ、その身体で抵抗する気か?」

 「お前こそ、これから無職になる元ヤクザ上がりがあの子を迎えられるとでも?」

 両者は向かい合い、じりじりと距離を測る。腹を刺されたとはいえ、病院での適切な治療を経た後の霧崎と、たった今内臓と右腕をやられた黒雷とでは喧嘩にすらならないはずだが。

 「椎名をこれ以上戦場に出させるものか」

 「あの子の治療ができるのはウチだけだ。その後は学校に通わせて、進路はあの子の好きな所を選ばせる。なんか文句あるのか?」

 とはいえ両者が退く気のない以上、避けられない喧嘩なのだから仕方がない。


 「お前をぶちのめして連れて行くぞ、ツカサ」

 「なんならお前もウチに入れよ霧崎。歓迎するぞ」

 その問答を最後に、霧崎が跳んだ。

 「はァァァ!」

 一撃で決着を付けるべく、気功のオーラを全開にし、最短まっすぐ一直線で黒雷へと向かってくる。

 今の黒雷には避けるチカラすら残っていない、そう読んでの一撃だろう。

 確かにそれは間違ってはいない。元に黒雷はその場より動く事もできず、構えたまま立ち尽くすのみだ。

 「疾ッ!」

 それでもなお手加減せずに繰り出される、霧崎の右拳。頬の辺りを狙ったソレは、間違いなく黒雷の意識を刈り取るのに十分過ぎる程の威力を持つ一撃。


 しかしそれは、黒雷の左手によりあっさりと止められた。

 「なっ……!?」

 「そりゃあ同じ()()使()()なんだから、スーツの分だけこっちが有利だろうよ?」

 そう宣う黒雷の、普段は金色に輝くスーツのラインは、今は真紅に近いモノへと色を変えている。

 それは先程の戦闘からちょくちょくと見られた、黒雷の気功のチカラが発現した証。

 それが今はベルトを中心に全身へと広がり、強い光源として港を照らしている。

 「それじゃ、目が覚めたらさっきの話、考えてみてくれ。決して悪いようにはしないから、さ」

 そう言って黒雷は、霧崎を左腕だけの力で上空へと放り投げる。

 そして、

 「必殺、俺の……って、これじゃまんまか」

 なんてひとりで呟きながら、落ちてきた霧崎へと全力の回し蹴りをお見舞した。


 再びの静寂。

 黒雷の勝利である。

近々、息抜きに書いた短編小説でも別に投稿しようかと考えています。

悪の美学とはまた毛色の違うラブコメ(そもそもラブコメ要素が薄いのは重々承知)のつもりで書いていますので、興味が沸いたら一読お願いします。

こちらの週一更新をメインに、時々更新するような形で考えていますので、何卒……。

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