人狼事件
全力で走って戻る。途中何度もエミリーの笑顔が浮かんだ。心配だ。きっと街にいる、そう信じるしかない
そして街に着くとクライ民族の人たちが何やらざわついていた。しかし俺が中に入った瞬間ピタリと辺りが静まり返った。
「おお!お帰りジョン君、お使いは無事に済んだかい?」と副隊長のタールさんが話しかけてきた。
「あ、はい、これが貰った塗り薬です」そう言い俺はタールさんに渡した。
「で、あの・・」俺がエミリーの話を出そうとするが
「ありがとう助かったよ、ところで一緒にいたエミリーはどうしたんだい?」と先にタールさんにエミリーの話を振られる。タールさんは感謝を述べた後に冷たい目線を俺に送った。
「はい、それが朝起きたらいなくなっていて・・この街に来ていませんか?」俺は必死だった。周りはまたざわつき始めた。
タールさんはしばらく無言になり、息を吸い込んだ瞬間
「こいつを取り押さえろ!!!!」と力強く言った。俺は驚く間もなかった。
「何すんだ!やめろ!!」と叫んで暴れたが、抵抗むなしく俺は周囲の人間に押しつぶされるように取り押さえられた。
そして俺は地下の牢屋に入れられた。手錠もかけられ、冷たい床の上に座ることしかできない。鉄格子で出来たものだ。
混乱に乗じて数発殴られたみたいだ、気づくと口から少し血が出ている。
「くそ・・俺が一体何したって言うんだよ・・・」怒りが込み上げてくる、悔しさも悲しみもだ。
そんな中、階段を下りる音がした。
「おい!ここから出せ!」と俺は鉄格子を蹴り飛ばす。
「まぁまぁ落ち着いて」とそこに現れたのは一人の青年だった。不敵な笑みを浮かべている。
「誰だよお前、エミリーはどうした!檻からだせよ!」俺はとても冷静になれなかった。
「エミリーは消えたんだ、人狼に食べられたんだよ、そして人狼は君だ」見下すような目で青年は言った。
「どういうことだ、人狼って何のことだよ、意味が分からない」俺は頭が混乱状態だった。少し疲れているせいもあるのだろう。
「簡単に説明すると、毎晩クライ民族の人が一人ずつ行方不明になっていた、これは誰かが意図的に殺害したものだと推測される、殺人事件、通称人狼事件。そして民族の一部の人たちで協力し犯人捜しを開始した。」青年が淡々と話し始めた。俺は無言で聞いている。
「その犯人捜しの仕方がお使いだったってわけ。お使いに行かせた人がいない間に民族の内の誰かが消えれば犯人は民族の中にいる。逆に民族の中の人が消えなかった場合はお使いに行った人が犯人って訳だよ。」そして青年は吹き出す。
「そしてジョン、君がお使いに行った日には民族の人はだれ一人と消えず、君の連れが消えたんだから君が人狼事件の犯人だったってことだよ」お腹を押さえて青年がクスクスと笑い出す。
「笑い事じゃねーんだよ!俺が犯人なわけないだろ!」おれは怒りと共に青年の結論を否定した。それと同時に自分に対する疑念も湧いてきた。
「まぁ君がどう思おうと勝手だよ、ただそういう理由で君はここにいる、もうすぐみんなでここを出るから僕も行くよ、じゃあね」とそそくさと青年は帰ろうとしている。
「おい、待て!助けてくれないのかよ!お前は何しにここに来たんだよ!」自分でも無様だと思うがこうするしかないのだ。
「僕は君が何も知らずにここにいるのはかわいそうだと思ってね、事実を教えてあげたんだよ、あと僕の名前はジャック、よろしくね」そう言い残して青年は階段を上っていった。
再び静寂に包まれる、絶望が俺を襲った。