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第二章 死者からの(ムチャな)伝言〈1〉

挿絵(By みてみん)


     1



 目が覚めると、見知らぬまっ白な天井が視界に飛びこんできた。


 起きようとしたら、かけぶとんの上からなにかで身体をしばりつけられていた。顔を上げると、ぼくは見なれた他人のベッドへ横たわっていた。


 これはぼくの部屋のベッドではない。つむぎのベッドだ。


 壁ぎわにしつらえられたベッドの頭の方には小さな勉強机があり、足元の壁には一面観音開きのクローゼットがある。


 本当ならベッドの壁ぎわには大きな窓があり、反対がわの壁の足元には部屋へ出入りするためのドアがあるはずなのだが見あたらない。


 ぼくはつむぎの部屋を模した6畳ほどの白い牢獄にいた。


 身動きのとれないまま顔を左へ向けると、勉強机にだれかが座っていた。黒いマントの下からふたつの白いひざこぞうと華奢(きゃしゃ)な白い足がかいま見える。


 ぼくの覚醒に気づいた黒マントのだれかがキャスターつきのイスを転がして、座ったままぼくのかたわらへ平行移動してきた。


 黒いフードつきのマントで顔をかくした謎の人物がぼくの顔をのぞきこんで笑った。フードをひき下ろす左手首に赤い針刺し(ピンクッション)のリストバンドが見える。


「フッフッフッ。気づいたか、森崎寿幸。(なんじ)は今〈呪いのツム子さん〉たるわらわの虜囚(りょしゅう)……」


 ……〈呪いのツム子さん〉? これは夢だと気づいたぼくは全身に力をこめて身体を起こすと、かけぶとんの上からぼくの身体を拘束していた糸がぷつりと切れた。


 たいしたことのない呪縛からあっさり解き放たれたぼくは、自称〈呪いのツム子さん〉の小さくふくらみかけた胸に左手で触れた。


 黒マントごしにぽにゅっとした柔らかい感触が手のひらへつたわる。


 ぽにゅっ。


 もちろん、夢ならではの無礼講であり、ぼくをベッドへしばりつけるなどと云うおかしなマネに対するささやかなしかえしである(一応、補足しておくが、ぼくは現実でこんなことをしたことはないし、こんな暴挙におよぶ度胸もない)。


 ぴたんっっ! と、ぼくの頬が鳴り、黒フードマントの女の子がかくすほどの価値もない小さな胸を両手でかばいながら、キャスターつきのイスで反対がわの壁へ脱兎のごとく逃げた。


「ひああああっ! トシくんのエッチ! チカン! スケベ!」


(……夢の中でもほっぺたをひっぱたたかれると痛いんだなあ)


 と、妙なことに感心しながら、自称〈呪いのツム子さん〉の正体をまるっと看破したぼくはあきれ声でたずねた。


「なんのマネだよ、つむぎ」


 イスごと壁ぎわへ逃げた女の子が乱暴にフードをはねのけながら、わなわなとわめいた。


「そ、そ、それはこっちのセリフなんだよ! 久しぶりの再会なのに、いきなり人のおっぱい触るなんて! ……はっ、もしやトシくん、夢の中では、つむぎとかほかの女の子にエッチなことばかりしているんじゃ……!」


「……そんなことないって」


 ぼくは少しだけウソをついた。


「やっと〈中有(ちゅうう)〉の49日から解放されて、トシくんをおどろかせてやろうと思ってきたのに、逆にトシくんからおどろかされるなんて思ってもいなかったんだよ。……あとでゼッタイしかえししてやるんだから」


 なにやら小声でぶつくさとグチる黒フードマント姿のコスプレ少女に声をかけた。


「元気そうじゃん、つむぎ」


「トシくん、それはすっごく矛盾した発言なんだよ。死者に対する冒涜(ぼうとく)なんだよ。……て云うか、まあ、死ぬ前よりもずっと元気だけど」


(そうだ。つむぎはもう死んじゃってるんだ……)


 夢のせいか、つむぎがすでに死んでいることも、つむぎとふつうに会話していることにも違和感はなかった。

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