第一章 呪いのツム子さん〈7〉
そんな中、不可解な連続飛び降り自殺事件がTVのワイドショーでオカルトチックにとりあげられたからたまらない。
小学生の間でひそかなウワサ話にすぎなかった〈呪いのツム子さん〉が、一躍全国区の話題となって人口に膾炙した。
さすがにTVで呪いの根源とおぼしき魔女の名前が語られることはなかったが、インターネット上では〈呪いのツム子さん〉にまつわる都市伝説がまことしやかに書きこまれていた。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、長いこと病床に伏し、クラスメイトから忘れ去られたまま亡くなった少女の悪霊である。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、生前、彼女のお見舞いにこなかった少女たちを呪い殺している。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、ネグリジェの上から黒いフードつきのマントを身にまとっている。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、赤い針刺し(ピンクッション)のついたリストバンドを左手首にはめている。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、緑色の糸を呪った相手の首にまきつけて夜空へつるし上げ、大地にたたきつけて殺す。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、緑色の糸を通した縫い針を供物にすると、呪った相手の目をくりぬいて殺してくれる。
曰く〈呪いのツム子さん〉への供物の縫い針には、自分の血を少しだけ吸わせなければならない。
曰く〈呪いのツム子さん〉への供物の縫い針には、呪った相手の血を少しだけ吸わせなければならない。
曰く〈呪いのツム子さん〉への供物を待ち針にすると、自分が目を刺されて殺されてしまう。
曰く〈呪いのツム子さん〉への供物をふとん針にすると、自分が下あごから舌を刺しつらぬかれて殺されてしまう。
曰く〈呪いのツム子さん〉は、椿油が苦手。髪に椿油を塗っておくと〈呪いのツム子さん〉には襲われない。
……etc、etc。
ぼくとしては、織機つむぎの趣味だった刺繍を想起させる設定が〈呪いのツム子さん〉にそこはかとなく盛りこまれていることがいささか不愉快ではあったものの、〈呪いのツム子さん〉のキャラはひとり歩きをはじめていた。
もはや、つむぎと 〈呪いのツム子さん〉が同一視されることもないだろうと高をくくっていた矢先に〈4人目〉の事件が起きた。
〈3人目〉とされる犠牲者がでてから9日後。しかも、小6の時のぼくとつむぎのクラスメイトだった安達由佳。云わば 〈呪いのツム子さん〉の関係者。
美雲パークタウンで暮らす女の子たちの間に不穏な緊張が走った。
ぼくもインターネットの書きこみで気づいたのだが、自殺者のでる周期は、きっちり1日ずつ短くなっていた。
よしんば〈5人目〉の犠牲者がでるとしたら、安達由佳の死の8日後になる可能性が高い。
それが6月22日である。
奇しくも、その前日はつむぎの49日法要にあたる。
49日と云うのは、仏教において亡くなった人が成仏し生まれ変わる日なのだそうだ。
これがなにかの暗合なのか、偶然の一致なのかはさだかではない。
ぼくの中学(およびその周辺)では、つむぎの転生するであろう49日をもって少女連続自殺事件の呪いが解かれると考えるむきもなかったわけではない。
しかし、織機つむぎ、すなわち〈呪いのツム子さん〉の49日にまつわる話題がインターネットなどの俎上にのぼることはなかった。
そんな書きこみでもした日には、自分が呪われて〈5人目〉の犠牲者になるかもしれないと云う恐怖からであったらしい。
ぼくたちはただ「6月22日になにも悪いことが起こりませんように」と祈るしかなかった。