第四章 邪神退治〈21〉
一方、最大出力の羽ばたきでつむぎを懸命にひっぱる烏丸だったが、つむぎの身体はすこしずつ確実に邪神クンネセレマクの口へとひきずられていた。
もはや、つむぎが邪神クンネセレマクの口へ呑みこまれるのがさきか、邪神クンネセレマクがブラックホールに呑みこまれるのがさきか、時間の問題だった。
針刺し(ピンクッション)のリストバンドのマジックテープがビリビリと音をたててはずれかけていることに気づいたつむぎが烏丸にやさしい声でささやいた。
「ありがとう、烏丸ちゃん。もうムリしないで」
「つむぎさま!?」
つむぎはなにかを悟ったように腹をくくると、ぼくらへ顔をむけて云った。
「宗重さん、みじかいあいだであんまりお話とかできなかったけど、やさしくしてくれてありがとう」
「つむぎどのっ!」
「イレンカちゃん。2000年ぶりに逢えてすっごく嬉しかった。トシくんネタで口ゲンカとかできてすっごく楽しかった。もっとたくさんケンカしたかったよ……」
「つむぎちゃん! あきらめるなぞよっ!」
「そうだよ! なにさいごのお別れみたいなこと云ってんだ、つむぎっ!」
「そうだに! がんばるだに!」
そんなぼくらの言葉を無視してつむぎはつづけた。
「そして、トシくん。……つむぎ、つむぎね、トシくんのこと、すっごく大好きだったよ……」
ムリヤリほほ笑んだつむぎの瞳から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
ぼくはまたつむぎを失うのか!? あんなクソみたいな邪神クンネセレマクに2度もつむぎを殺されて!? 冗談じゃない!
助けるんだ! 今度こそ助けるんだ! ゼッタイ助けるんだ! かんがえろ! あきらめるな! なにかある! ゼッタイなにかあるはずだ!
ぼくは灰色の脳細胞をフル回転させて必死に打開策を模索した。
無意識にこめかみへ手をあてたぼくはあることに気がついた。ぼくが刺繍地図の結界へやってきたとき、どうやって邪神クンネセレマクの黒いドロドロの中から救いだされたのかを。
たぶん、ぼくらはまだつながっているはずだ。
ぼくは一縷の望みにかけて逆転満塁サヨナラホームランを打つような気概でありったけの念をこめながら、つむぎへむかって左こぶしをつき上げた。
「つむぎーーーーーっ!」
ぼくの左中指から緑色に光る糸がつむぎの左中指へとのびていった。
ぼくの左中指とつむぎの左中指を結んだ〈お呪い〉。つむぎがぼくをひっぱることができたんだから、ぼくがつむぎをひっぱることだってできるはずだ。
「トシくん!?」
ピンとはった光る糸がつむぎの身体を空中でひきとめた。宗重さんに念のこめ方を教わっていなければできなかっただろう。
「少年!?」
「トシくんっ!?」
宗重さんとイレンカさんが瞠目した。
邪神クンネセレマクの巨躯はジリジリとブラックホールへ吸いこまれているが、邪神クンネセレマクの舌にからめとられたつむぎと邪神クンネセレマクとの距離はちぢまっていない。
ふらつく足どりでぼくの元へやってきたイレンカさんと宗重さんが、ぼくの背中に手をそえてふたりの霊魄を光る糸へとそそぎこむ。
光る糸の強度は増したように感じられたが、邪神クンネセレマクの舌からつむぎをうばいかえすだけの力はなかった。邪神クンネセレマクとぼくらの力は拮抗していた。
邪神クンネセレマクの巨躯はゆっくりとブラックホールへ吸いこまれていた。
ぼくとつむぎを結ぶ光の糸は邪神クンネセレマクがブラックホールへ吸いこまれていく分だけちょっとずつのびていく。
ついに邪神クンネセレマクの巨躯が首までブラックホールへ呑みこまれた。
ぼくはイレンカさんと宗重さんに霊魄をそそぎこまれているが、あくまで光る糸の補強だ。突然、ぼくはひざからガクリと落ちた。立っていられなくなった。
「もういいからっ! もういいからやめてっ! このままじゃトシくん死んじゃうよ!」
泣き叫ぶつむぎにぼくは血をしぼるような声でどなりかえした。
「うるさいっ! ……もうイヤなんだよ! こんなカタチでまた大切なだれかを失うのは! だれも守れないくらいなら、つむぎと一緒に消えちまった方がマシだ!」
「トシくん……!」




