第四章 邪神退治〈18〉
「これはっ!?」
「なんぞよっ!?」
「みんなかたまって! トスプ・ラムハウケ・エプレキネ・ヤ!」
「つむぎっ!?」
「ガアアアアアアアアア!」
白煙の中でゆれる影が咆哮すると、イレンカさんの雷撃を越える轟音が腹の底をつき上げ、刺繍地図の世界が白く染まった。
つむぎの防御をふるわせるほどの衝撃波にぼくはなすすべもなくうしろへふき飛ばされた。宙にういた身体が地面にたたきつけられゴロゴロところがっていく。頭をかばうだけで精一杯だ。
「痛ててて……」
なんとか身体を起こしたぼくは周囲の光景に慄然とした。
邪神クンネセレマクを中心に半径1km四方が更地と化していた。
酔笑さんが勾玉防壁をほどこした瑞巌寺本堂と僧坊、そして〈勾玉籠目神法陣〉以外はなにもかもふき飛んでいた。
さいしょの闘いのときも邪神クンネセレマクの衝撃波でぼくは意識をうしなったが、まわりのものが消えてなくなるほどの威力はなかった。
しかし、酔笑さん、すなわち守人神を喰らって邪神クンネセレマクは相当パワーアップしているらしい。
「グフルルルルル……」
宙にうく邪神クンネセレマクがのどを鳴らして不気味に嗤っていた。その足元にちいさななにかがころがっている。式神の猫丸と犬丸だった。空から攻めていた烏丸のすがたはない。
守人神たちはなんとか邪神クンネセレマクの攻撃をしのいだようだが、それでもみな片ひざをついていた。
「退くぞよ、猫丸、犬丸」
イレンカさんの命令で猫丸と犬丸のすがたが消えた。
ぼくははなれたところに落ちていた脇差しをひろうと、よろめきながら守人神たちの元へ歩みよった。つむぎがぼくに気がつくと駆けよって身体をささえてくれた。
「大丈夫、トシくん!?」
「ああ、なんとか。つむぎは?」
「平気なんだよ」
ガシャリ、と重い音を立てながら、大鎧姿の宗重さんが一歩前にでると、邪神クンネセレマクへ光る斬撃を放った。
「むぅんっ! 十文字斬りっ!」
切先を下から上へとはね上げ、左から右へとよこなぎする。ふたつのすさまじい斬撃が邪神クンネセレマクの胴体を斬りつけたが、かたいうろこには傷ひとつついていなかった。
それどころか、第1波の攻撃すら邪神クンネセレマクにはほとんどダメージをあたえていなかった。
宗重さんが太刀を杖に肩で息をした。もう大技をくりだすほどの余力はないらしい。
「おのれ、邪神クンネセレマク。目にもの見せてくれるぞよ……!」
イレンカさんが巨大な七支刀を身体の前でよこ八の字にふりまわすと、凜とひびく声で詠唱した。
「トスプ・イレンカ・エピル・イッネトイマ!」
七支刀を邪神クンネセレマクへむかってふりおろすと、邪神クンネセレマクの頭部から尻尾へかけて一刀両断するかのごとくギキキキキッ! と、火花が散った。
「ギヒイイイ……」
邪神クンネセレマクはちいさく身じろぎしたが、うろこの表を傷つけるに終止した。
「バカな! 渾身の一撃ぞよ!?」
膨大な霊魄をうしなったイレンカさんが七支刀を地面につき刺して、なんとか身体がたおれるのを防いだ。
邪神クンネセレマクが妖しく光る紅い4つの目を細めてぼくらを睥睨すると、ぼくらから顔をそらせてゆっくりと刺繍地図の蒼穹をあおいだ。
「なんのマネじゃ?」
宗重さんがいぶかしむと、邪神クンネセレマクが天にむかって小刻みにのどを鳴らした。
「ケキキキキキキッ!」
すると、刺繍地図の空へ赤い亀裂がちいさく走った。
「……気づかれた!?」
イレンカさんの言葉につむぎもうなづいた。




