第四章 邪神退治〈17〉
「ガアアアアアアアアア!」
酔笑さんが天をあおいで咆哮した。ちいさな老人の腹が異様にふくれると、空へむかって大量の黒いドロドロを吐きだした。噴水のように放出された大量の黒いドロドロが空中で収斂し、巨大な怪物へとすがたをかえていった。
3つの翼をもつ異形の黒い蛇・邪神クンネセレマクの本体である。
全身ゴツゴツギザギザのうろこでおおわれていて、細長い蛇身の中央に背びれのような大きな皮翼が1枚生えていた。その両わきに小さく細長い皮翼が2枚ある。
悪霊化した4人の蛇首はすでになく、大きな口にまがまがしい牙がのぞく。紅くかがやく3つ目のひとつは宗重さんの斬撃でつぶされている。
「グルルルゥ……」
邪神クンネセレマクが不快げにちいさくうめいた。酔笑さんがうごきを封じているらしい。
「いまじゃ! いまのうちに邪神を……!」
守人神よりもさきにうごいたのは邪神クンネセレマクだった。大きな頭を真下へふるうと酔笑さんの上半身をぞぶりと食いちぎった。
「「酔笑どのっ!?」」
「トシくん下がって!」
その場にとりのこされた酔笑さんの下半身がほろほろとくずれて邪神クンネセレマクの口へと吸いこまれていく。
「ギアアアアアアアアア!」
邪神クンネセレマクが歓喜の雄叫びをあげた。全身がぎちぎちときしみ、その形態をかえていく。
額の紅い目がめりこんで角が生えると、宗重さんの斬撃でつぶされた目が復活した。さらに両目の上にふたつの目があらわれる。2枚の細長い皮翼のつけ根から恐竜のよう2二本の腕が生えた。もはや蛇ではなく竜だ。
「守人神を喰ろうたかよ!」
「すさまじい邪気ぞよ!」
するどい殺気をまとったイレンカさんの口元に悽愴な笑みがこぼれる。
ぼくをかばうように立つつむぎが背中でぼくに念押しした。
「トシくんはあくまで後方待機なんだよ。その刀は攻撃のためじゃなく、防御のためにつかうんだからね」
「……わかった」
ぼくは不承不承うなづいた。自分の無力さは昨日の戦闘で思い知っている。認めたくないけどしたがうしかない。
「トスプ・イレンカ・エピル・クムイフム!」
イレンカさんが丸みをおびた扇のような炎のようなフォルムの七支刀をかざすと、独特な韻律の呪文のひびきに七支刀がリン……! と呼応した。
七つの切先が放電すると、大気をふるわす轟音とともに邪神クンネセレマクへ青白い雷撃がたたきこまれた。
「ギヒイイイイイ!」
「むぅんっ! 葬らん! とうとうとうとうっ!」
黒胴赤糸威の大鎧を身にまとった宗重さんが太刀を縦横無尽にふるって、光る斬撃を巻きちらすと、つむぎも叫んだ。
「トスプ・ラムハウケ・ロシヌ・セッ!」
邪神クンネセレマクの頭上からなにかが落ちてきた。つむぎが宗重さんの屋敷で縫いあげた檻だ。ちゃっかり攻撃に転用するようだ。
邪神クンネセレマクを檻でムリヤリとじこめると、頭上のフタがしまった。柵の上部についていた爆弾が一気に爆発し、檻の中に白煙がたちこめる。あくまで密閉式の檻であるらしい。
つむぎの檻が消えるや否や、イレンカさんがたたみかける。
「猫丸っ!」
大型トラックほどに巨大化した猫又の式神・猫丸が邪神クンネセレマクを強襲した。
「犬丸っ!」
宗重さんも号令し、巨大化した式神・犬丸を邪神クンネセレマクへけしかける。
「烏丸ちゃんも!」
つむぎもおくれじと巨大化した八咫烏の式神・烏丸を邪神クンネセレマクへさしむけた。
濃霧のようにただよう白煙で輪郭もさだかでない邪神クンネセレマクへ3体の式神が飛びかかり、フルボッコのお手本みたいな多重攻撃を決めた……はずだったのだが、微細な振動が地を這って足元へ迫ってきた。




