第四章 邪神退治〈3〉
「では、少年。刀をぬいてかまえてみよ」
「はい」
ぼくは脇ざしをぬいてかまえた。はじめて手にした脇ざしの吸いつくような金属の光沢に、武器としての刃物としての殺気と云うか、迫力を感じた。
おそらく、実際の脇ざしはもうすこし重いのだろうが、それほど重さは感じられなかった。金属バットくらいだとおもう。
「刀のもち方はバットとおなじじゃ。まっすぐかまえて切先は相手ののど元へむける。そう、それが青眼のかまえじゃ」
ぼくのとなりで宗重さんも太刀をぬいてお手本のかまえを見せた。あとで知ったはなしだが、これは今の剣道のかまえではなく、むかしの剣術のかまえだと云う。
「腕をひきあげると同時に左足を一歩まえにだし、ふりおろすと同時に右足をふみこむ。これが面打ちじゃ」
ヴンッ! と風を斬る宗重さんの力強い太刀筋にぼくは瞠目した。ふだん木製バットで素振りしているので、よい素振りの音はわかる。
ぼくも見よう見まねで脇差しをふりおろした。
「おう。やはり野球経験がものを云っているようじゃな。はじめてにしてはさまになっておる。ほれもう一回。面! 面!」
宗重さんの号令にしたがって1回2回と脇ざしをふるう。数回ふるうと全身のバランス感覚とか力の加減がみえてきた。
「実際に邪神どもと闘うときは、刃に念をこめるのじゃ。バットでボールをとらえたときのような感覚じゃな。さすれば斬撃をくりだすこともできよう」
つぎに宗重さんが教えてくれたのは、刀を横なぎにはらう胴打ちだ。
「右ななめまえに一歩ふみだしながら、胴! こうじゃ」
これまた見よう見まねで脇ざしを左から右へとふるう。剣道経験のないぼくはどうでもよいことに気がついた。
「これってバッティングとは逆のうごきなんですね」
「逆?」
「ほら、バッティングってこうじゃないですか?」
ぼくは脇ざしで野球の素振りをしてみせた。右打者はホームベースの左がわに立って身体の右から左へバットをふるう。
ぼくはシロウトかんがえを披瀝した。
「胴打ちのうごきが理にかなっていれば、右打者も左打者とおなじ右バッターボックスへはいれませんか?」
野球において左打者が有利とされるのは、バッターボックスから一塁までの距離だ。打撃後、ホームベースをまたいで一塁へ走る右打者より、左打者の方がより一塁にちかい。
そのちょっとした距離から生まれる〇コンマ数秒が一塁への走塁成功率をあげる。右利きのトチロー選手が左打者なのもそのためだ。
宗重さんはぼくのような疑問をもったことがないらしい。太刀をかまえ、胴打ちとバッティングのうごきをためす。
「うむ。どちらもふりやすいの。しかし、胴打ち打法じゃとボールを打つ瞬間、手首が交差するか。バットコントロールに支障をきたすやもしれんが、逆にインパクトの瞬間、手首が固定されてバットへ力がつたわりやすくなるかもしれんの……。いや少年、これは実際にボールを打って確認してみないことにははじまらんぞ」
宗重さんがなにもないところへ手をかざすと、四角い鉄のフレームでかこわれたトスバッティング用のネットがあらわれた。ぼくのシロウトかんがえを本気で検証してみるつもりらしい。
剣術の稽古が新(珍?)打法の練習へとシフトしかけたとき、本堂をつきあげる衝撃音が走った。




