第四章 邪神退治〈2〉
「ちょっと、酔笑さん! 勝手に風景とか書きかえちゃだめなんだよ! 刺繍地図の結界がゆがんじゃうかもかもなんだよ!?」
つむぎがとおくから酔笑さんをとがめた。
「おお、こいつは迂闊じゃった。すまんの、つむぎどの」
酔笑さんがさっと手をはらうと、元の植えこみにもどった。
境内のまんなかで鮫肌白鞘の太刀の束へ手をかけたまま、あたりのようすをうかがっている宗重さんへ、酔笑さんが云った。
「それがしは寺の四隅に勾玉結界をしこんできますじゃ。〈やっこさん〉結界より強力なものの方がよいじゃろう?」
「うむ。そうじゃな。よろしくたのむ」
「それでは森崎どの。それがしは結界をしこんでくるゆえ、休んでおかれるがよかろう」
「わかりました。ありがとうございます」
お礼を云って頭をさげると、酔笑さんが小走りで寺の隅へむかった。外見に似つかわしくない俊敏さにおもわず苦笑する。
ぼくが本堂へもどると、宗重さんがつむぎに仕事をたのんでいた。
「つむぎどの。刺繍地図で空間のゆがみなどないかチェックしてもらえんか?」
「はい。わかりました」
つむぎは手品みたいになにもないところから大きな刺繍地図をとりだすと、本堂のぐるりをかこむ回廊へひろげた。その上へうつぶせにねころぶと、端から地図のチェックをはじめた。
さて、ぼくはどうしよう? と、かるく途方にくれていると、宗重さんから声をかけられた。
「……ときに少年。おぬし、人を斬ったことはあるか?」
「いやいやいやいやいや、ないですないです!」
宗重さんの問いかけを、ぼくは即座に否定した。
時代劇とかならカッコよさげなセリフだけど、現実にはありえないですから!
そんなことをしたら逮捕されて〈少年A〉だし、少年法をまるっと無視したネットやテイゾクな週刊誌では、実名顔写真入りで個人情報がバラまかれるにきまってる。
「少年を戦力として期待しているわけではないが、もしも、万が一のときには、自分で自分の身くらいは守ってもらわねばならぬ」
「はい」
「戦力として期待しているわけではない」とハッキリ云われてしまうのは癪だが、本当のことだし、ぼくとしてもこれ以上つむぎや守人神たちの足手まといにはなりたくなかった。
「少年にはこれをさずける」
宗重さんがこぶしをつきだすと、そこには鮫肌白鞘の脇ざしがにぎられていた。
「そのすがたじゃなんじゃの」
ジャージすがたで腰に脇ざしをぶらさげるのは心もとないとふんだのだろう。宗重さんがぼくの肩へかるく手をそえると、紺色の着物に茶色の裁着けすがたと云う時代劇コスプレにかわった。
これであと印籠さえあれば、酔笑さんと『水戸黄門』ごっこができそうだ。
「……で、腰にこうじゃ」
宗重さんがぼくの腰帯をしめなおしながら脇ざしをさしてくれた。なんかお父さんに服を着せてもらう子どもみたいで気恥ずかしい。
「お、なかなか似あうの」
宗重さんのセリフに、刺繍地図の上へねころびながら空間のゆがみとやらをチェックしているつむぎが顔をあげた。
「うんうん。トシくん、かっこいいんだよ。馬子にも衣装だね」
「茶化すなよ、つむぎ」
ぼくはつむぎの言葉をまにうけて、すこしてれた。……いや、馬子にも衣装ってバカにされてるか。




