第三章 守人神たち〈19〉
巨大化した犬丸によりそいながら、ぼくらのまえを歩くつむぎへたずねた。
「イレンカさん、どこへむかったんだろ?」
「さあ? さっきのお屋敷じゃないかな?」
「……ふつうにかんがえればそうか。あ、それとつむぎ」
「なあに?」
「おまえ、大丈夫か?」
「なにが?」
「いや、さっきお屋敷ですごい檻つくってたじゃん。ぼくにも夜どおし霊魄をそそぎこんでくれてたって云うし。霊魄を消耗してつかれてるんじゃないかとおもって」
おそらくは杞憂にすぎないのだろうが、ここ数年ベッドで病臥しているつむぎしか見ていないぼくにとって、つむぎが外を元気そうに歩いているすがたはうれしくて、ちょっと心配だった。
それに半そでのセーラー服。つむぎはなにも云ってないけど、さいしょに見たときからぼくにはわかっていた。生前、つむぎが1度もそでをとおすことのなかった中学の制服だ。
邪神クンネセレマクとか云うわけのわからないヤツさえいなければ、つむぎはふつうにそのセーラー服を着て、中学生活をエンジョイしていたはずなのだ。
そうおもうと胸がしめつけられるほどやるせない気分になった。
たぶん、ぼくの声のトーンがぼくの感じている以上に重かったのだろう。つむぎは目を細めると、子どもをなだめるような口調でやさしく云った。
「やっぱトシくんはトシくんだね。大丈夫だよ。ムリとかしてない。トシくんは実体があるから、さっきのお食事とか、つむぎとかが直接触れて霊魄をそそぎこむ必要があるけど、本来、霊体のつむぎたちはお食事とかしなくても、こうやってキヤイキナスさまのおそばにいるだけで勝手に充電って云うか、霊魄の補充はできてるんだよ」
「そっか。ならよかった」
「つむぎは今のトシくんよかぜんぜん元気なんだよ。スーパーつむぎ人なんだよ。……ひょいっと!」
つむぎは一歩小さくふみだすと、助走もなしで美しい伸身前方宙返り1回半ひねりをきめた。
「ホラね?」
こちらをむいてとくいげにほほ笑むつむぎのすがたにぼくは赤面した。
「……つむぎ」
「ん? なにかなっ?」
賞賛の言葉を期待しているであろうつむぎへ客観的事実を冷徹に述べた。
「パンツ丸見えだったぞ」
小さな白いハートマークの散りばめられたピンク色の布地が空中をくるっくるまわっていた。くるっくる。
「ひああああっ! トシくんのエッチ! チカン! スケベ! どうしてそんなとこばっかり見るかな!? どうしてそんなとこばっかり見るかな!?」
すでにめくれてもいない短いスカートの前を押さえながら赤面するつむぎがわめいた。
ムリクリめくって見たわけではないので文句を云われても困るが、どうして〈そんなとこ〉ばっかり見てしまうのかは、ぼくにもよくわからない。自覚はない。わざとじゃない。
1秒くらいの光景が10秒くらいの感覚で網膜にしっかり焼きついてしまうのは、哀しい男の性としか云いようがない。こればっかりはしかたない。
……とまあ、ぼくらがクダラナイかけあいをしていた同時刻、イレンカさんは宗重さんの武家屋敷へと舞いもどっていた。
屋敷の四隅にほどこされた〈奴さん〉結界を調べていたイレンカさんは、庫裡ちかくにおちていたさいごの1枚を手にとった。
折り紙の〈奴さん〉は、たてに破り捨てられていた。




