第三章 守人神たち〈16〉
「つむぎちゃん、屋敷にトラップをしかけてほしいぞよ」
「……わかった」
拗ねた瞳でぼくをチラ見したつむぎが左手首の針刺し(ピンクッション)から緑色の糸のついた細い針をぬきだした。
その手をさっとふりはらうと、どう云うわけかぼくの身体が緑色のヒモで簀巻きにされ、近くに生えていた松の木へミノムシよろしくつり下げられた。
「一体なんのマネだ、つむぎ?」
「トシくんがイレンカちゃんとイチャイチャしてると気が散るんだよ」
やつあたりもよいところだと辟易したが、ぐるぐる巻きにされたこの状況では、まんま手も足もでない。ほかの守人神たちも、
「色難去ってまた一難ですじゃな」
とか、
「色男はつらいのお、少年」
とか、
「これはこれでかわいいぞよ。このストラップほしいぞよ」
とか、
(あらあら大変)
などと、無責任なことを云いあいながら、ぼくの姿をながめて笑っていた。助けてくれるつもりはないらしい。
おおらかと云えば聞こえはよいが、どうにも守人神たちは緊張感に欠けている気がする。
「トスプ・ラムハウケ・シタイキ・ロシヌ・セッ!」
つむぎが針刺し(ピンクッション)から白い糸のついた針を2本たばさんでふるうと、巨大化した針が宙を舞い、屋敷のぐるりに檻のような刺繍を縫い描いていった。
屋敷をめぐる柵の上には、マンガみたいな黒くて丸い爆弾が山ほどぶら下がっていた。邪神クンネセレマクが屋敷へ足をふみ入れると、上のフタが閉まって爆弾が盛大に爆発する仕組みであるらしい。
つむぎの刺繍針がトラップを縫いあげると、描かれた刺繍が透明化した。いつの間にか2本の針がつむぎの指の間におさまっていた。
「やんややんや」
「おみごとにござる」
「さすがはわらわの妹だけあるぞよ」
(まだ守人神として日もあさいのになんとすばらしい)
「なんもなんも。ブイッ!」
つむぎが守人神たちの賛辞にエヘンとたいらな胸をはり、顔の前で横向きのピースサインをかざしてこたえた。
「……いばってないで、とっとと下ろしてくれ」
手足の自由をうばわれて松の木へつり下げられたままのぼくがひかえ目にお願いしたのだが、
「おやおや、トシくん一体そんなところでなにをしているのかな?」
みんなに褒められてゴキゲンなつむぎは、ぼくの言葉をまるっと無視してわざとらしい小芝居をみせた。
「すなおにすごかった。だから下ろしてください、つむぎさん」
「ん~、あんまし心がこもっていないんだよ? でも、ま、いっか。つむぎは心がユーラシア大陸のようにひろいから、このへんで許してあげるんだよ」
ユーラシア大陸のように心がひろく、モンゴル大平原のように高低差のない小さな胸の少女から恩赦がでた。
身体に巻きついていた緑色のヒモがシュルシュルとほどけて消えて、ぼくは地面に尻餅をついた。理不尽な呪縛から解き放たれたぼくを尻目に、守人神たちが鳩首してつぎの行動を確認した。
「ここで一句。〈それではと、拠点さだめん、いずくにか〉さて。では拠点をどこへ移しますかな?」
「先の話にもでた針八幡宮か瑞巌寺でござろう。そこいらの民家ではキヤイキナスさまには手狭じゃからな」
「針八幡宮は? あそこは2000年前イレンカちゃんとつむぎの住んでたパワースポットだよ?」
「いやさ、つむぎちゃん。刺繍地図の結界にはパワースポットとかないぞよ。それに針八幡宮は丘の上じゃから、籠城戦以外には不向きな地形ぞよ」
「すると、ここは瑞巌寺でござるか?」
「そうじゃな。たいらかな場所に建っておるし、ここからじゃと針八幡宮よりちかい」
「よし、決まりぞよ」
イレンカさんが手打ちして話をおえた。守人神たちが移動の準備にとりかかる。




