第三章 守人神たち〈15〉
(みなさん、ご無事ですか?)
白蛇神キヤイキナスさまが2mほどの低空を這うように飛んできた。
「大丈夫でござる」
太刀を白鞘におさめた宗重さんがこたえると、みなその言葉にうなづいた。
「キヤイキナスさま、これを」
イレンカさんが有翼の黒蛇からのこされた鈍色に光る球体をさしだすと、白蛇神さまはそれを躊躇なく丸呑みした。
ペコッ! とあごの下がへこむと、鼻の穴からあえかな黒い煙がふたすじもれて霧消した。白蛇神さまが細い舌をだすと、二股の赤い舌先にソフトボール大の白く光る球体があった。
「つむぎちゃん、頼むぞよ」
イレンカさんの言葉をうけて、つむぎが白蛇神さまの舌先にのせられた白い球体を両手で大事そうにうけとった。つむぎは白い球体を自分の額に押しあててささやいた。
「苦しい想いをさせてごめんなさい。あなたの来世が実り多きものでありますように」
白い球体を右手にかかえなおし、左手の人さし指でなにもない空間をなぞると、指の動きにあわせてファスナーがあらわれた。
「……?」
つむぎがファスナーをひき下ろすと、その向こうへ真珠色に淡くかがやく茫漠とした空間がひろがっていた。つむぎが白く光る球体をそっと向こうの空間へ押し流すとファスナーを閉じた。ファスナーが閉じきると同時にファスナー自体も消えた。
「今のは?」
おおよそのことは察しているが、一応つむぎに確認してみた。
「〈さかさ五芒〉の贄になった〈犠牲者〉さんの魂。キヤイキナスさまが浄化して、つむぎが刺繍地図の結界から幽現界〈中有〉へと送りだしたんだよ」
「のこるはあとふたりぞよ」
昨晩の闘いで倒したもうひとりの〈犠牲者〉の魂もきちんと浄化して〈中有〉へ送りだしたそうだ。ぼくが気絶している間の話である。
「しかし、敵襲とはどう云うことじゃ? 草どもを散らしたばかりなのに接近する気配を感じとれんかったし、屋敷の周囲にはりめぐらせた結界も破られた気配がしなかったが」
「結界は破られているようですじゃ」
「む……? なるほど、そのようじゃの」
酔笑さんの言葉に周囲へ顔を向けた宗重さんがなにかを察知したようすで得心した。
「邪神がどこへ身をひそめているかはわからぬが、わらわたちがここにいることは気づかれたであろうぞよ」
「屋敷をなおすはたやすいが、それでここが刺繍地図の結界とバレても困る。どうする? ここで敵を待ちかまえるか、それとも拠点を移すか?」
破壊されたのは屋敷の一部で、さっきまでぼくたちがいたところに被害はない。このまま屋敷にとどまっていても問題はないように思われたが、イレンカさんは腕組みしたまま沈思した。
「……気配なく迫りきたるカラクリがわからぬゆえ、ここへとどまるは危険であろうぞよ。この屋敷にトラップをしかけ、拠点を移すが得策と思うがどうじゃ?」
「異存はありませんじゃ」
「つむぎもイレンカちゃんに1票なんだよ」
「儂も同意しようぞ」
イレンカさんの提案にほかの守人神たちが賛同した。
「トシくんはどう思うぞよ?」
いきなり戦力外のぼくにまで話をふられて狼狽した。
「え? ぼくですか? ……イレンカさんの云うとおりでよいと思います」
「ふにゃ~ん! トシくんがそう云うなら問題ないぞよ~!」
と、相好をくずしたイレンカさんにまたぞろだきつかれた。
「少年の意見が最重要っ!?」
「イレンカちゃん、トシくんにデレすぎなんだよっ! ツンとかヤンとかないとキャラに奥ゆきでないんだよっ!」
「ここで一句。〈えこひいき、ならぬ巨乳の、エロひいき〉性春ですなあ」
3人から噴出した不平不満を、イレンカさんは柳に風と受け流した。
「冗談ぞよ。場をなごませようとしただけぞよ」
「……あの、だったらいいかげんはなしてくれません?」
イレンカさんにだきしめられるのもなれてきたけど、やっぱり照れくさいし……心地よい。




