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第三章 守人神たち〈14〉

挿絵(By みてみん)


「……なあ、守人神(もりひとがみ)ってふだんヒマなの?」


「さあ? つむぎが〈中有(ちゅうう)〉から合流したの一昨日(おととい)だよ。知るわけないじゃん」


 ぼくの質問につむぎが肩をすくめてこたえた。生前、文化系インドア派だったつむぎも、このノリにはついていけないらしい。


 あきれたぼくらが二の句もつげずにいると、屋敷の外からバリバリとすさまじい破壊音がとどろいた。


「ひゃあああ!」


 つづく酔笑(すいしょう)さんの悲鳴にイレンカさんと宗重さんが大広間を飛びだした。つむぎとぼくもおっとり刀であとへつづく。


 長い廊下を走るイレンカさんは戦闘モードに変化していた。


 服装は短パンユニフォーム姿のままだが、メットの代わりに金のティアラをいただき、バットの代わりに背中へまわした幅広(はばひろ)(さや)から七支刀(しちしとう)をひきぬいていた。首元に勾玉(まがたま)と小さな円鏡のついたネックレスがゆれる。


 宗重さんも野球のユニフォーム姿そのままだったが、腰には鮫肌白鞘(さめはだしろさや)太刀(たち)()いていた。


「キシャアアアッ!」


 邪神クンネセレマクと(おぼ)しき奇声とともに、屋敷のすみから火の手があがった。


 ぼくらが酔笑(すいしょう)さんの元へ駆けつけると、庫裡(くり)の天井が破壊され、あたりは火の海と化していた。


 ぽっかりと空いた天井からこちらを睥睨(へいげい)していたのは巨大な有翼の黒い蛇だった。ふたつの(あか)い瞳が(あや)しく光る。


「邪神クンネセレマクじゃない!?」


 ぼくの言葉に燃えさかる庫裡(くり)のすみで体勢をととのえなおしていた酔笑(すいしょう)さんがひざをついたままこたえた。


「正しくは邪神クンネセレマクの一部、悪霊化した女性(にょしょう)のひとりじゃ!」


偵察役(ていさつやく)!? しかし、この屋敷には結界がはられていたはずじゃぞ!?」


「うろたえるな宗重(むねしげ)どの! まずは眼前の事実のみ受け入れるぞよ! すべてはヤツを(ほふ)ったあとで検証するぞよ!」


「ちりぢりと、ちりぢりとちれ……!」


 酔笑(すいしょう)さんが口撃(こうげき)ならぬ攻撃呪句(こうげきじゅく)を云いおわらぬうちに、有翼の黒蛇が大きな口から衝撃波を発した。酔笑(すいしょう)さんが破壊された屋敷のおくへふき飛ばされる。


「トスプ・イレンカ・エピル・クムイフム!」


 イレンカさんが丸みをおびた(おうぎ)のような炎のようなフォルムの七支刀(しちしとう)をかざすと、独特(どくとく)韻律(いんりつ)の呪文のひびきに七支刀(しちしとう)がリン……! と呼応した。


 七つの切先が放電すると、有翼の黒蛇へ青白いムチのような雷撃がたたきこまれた。


「ギアアアアアア!」


 空中で身もだえする有翼の黒蛇へ向かって、つむぎが右手をくるっとまわすと手の中に木製の輪っかがあらわれた。


刺繍枠(ししゅうわく)っ!」


 つむぎのはなった木製の輪っかが半透明になって有翼の黒蛇へ飛んでいく。


 半透明の刺繍枠(ししゅうわく)が巨大化し、有翼の黒蛇の身体をしめつけた。有翼の黒蛇が硬直(フリーズ)する。本来、刺繍枠(ししゅうわく)刺繍(ししゅう)用の布をピンとはって固定するための道具だが、つむぎは相手の動きを封じるための武器として使用していた。


 刺繍枠(ししゅうわく)の呪縛から(のが)れるべくなんとか身じろぎしようと抵抗する有翼の黒蛇へ、つむぎが左手首にはめられた水色の針刺し(ピンクッション)から小さな刺繍(ししゅう)針をはなつ。


「クロスステッチ!」


 つむぎのはなった刺繍(ししゅう)針が50cmほどに巨大化し、有翼の黒蛇を空中のなにもない空間へ縫いとめていく。


「むぅん! 葬らんっ!」


 宗重さんがバットスイングとは逆の動きで横なぎに太刀を一閃(いっせん)させると、光る斬撃が有翼の黒蛇を一刀両断した。


「ギヒャアアアアアア!」


 有翼の黒蛇が断末魔の悲鳴をあげ、黒い霧になって空へ溶けた。霧の中から(にび)色に光る球体がのこり、ふわふわと地表へ降りてきた。


 サッカーボール大の光る球体をイレンカさんがやさしくうけとめた。すでに七支刀(しちしとう)(さや)ごと消えている。


「……滝の雨、屋敷の(ほむら)、消しにけり」


 燃えさかる屋敷のおくから酔笑(すいしょう)さんの言葉がひびくと、屋敷の燃えているところにだけバシャッ! と大量の水が降ってきて一瞬で屋敷は鎮火(ちんか)した。もうもうと白煙があがる。


酔笑(すいしょう)さん、大丈夫?」


 つむぎが白煙のおくへ声をかけると、酔笑(すいしょう)さんが煙を手ではらいながらもどってきた。


「ここで一句。〈大丈夫、不覚じゃったが、ケガはなし〉なに心配ご無用ですじゃ」

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