第三章 守人神たち〈13〉
烏丸はつむぎの式神でメス。忠吉たちは酔笑さんの式神で赤ちゃんっぽく性別不明。
ただ、男の守人神にはオスの式神、女の守人神にはメスの式神がつくらしい。だとすれば、忠吉たちはオスの式神と云うことになる。
解せないのは、烏丸だけ語尾が「カァー」とかじゃなくて「だに」であることだ。キャラづけが徹底していない。
また、猫丸・犬丸・烏丸とくれば、ネズミたちはネズミ丸のはずなのに、忠吉と云うのもどこか釈然としない。
しかも数10匹まとめて忠吉って忠吉たちはひとつの意識を共有する分身だと云う)。
いずれにしろ、安易なネーミングセンスではある。
(それでは、ひきつづき刺繍地図の上半分も二手にわかれて探索してください)
白蛇神キヤイキナスさまがそう告げると、式神たちの身体が燐光を放った。白蛇神さまが式神たちへ霊魄をわけあたえたらしい。
式神たちはしずかにぼくらの前を横ぎると、ふたたび外へ飛びだしていった。
「ここで一句。〈こそこそと、邪神ひそむは、地図の北〉となれば、北東の針八幡宮の裏あたりじゃろうか?」
「たしかに、あのあたりの丘にひそんでいそうな気もするのう」
「北西の竹林とかはどうかな?」
「瑞巌寺の奥か。戦さ場としては厄介ぞよ」
4人の守人神たちが意見をかわしあう。刺繍地図に見るおよそ500年前の地理はよくわからないが、針八幡宮や瑞巌寺は現在の麻蒜間市にもあるので、おおよその見当はついた。
針八幡宮はJR新麻蒜間駅の先にある大きな神社だ。初詣や夏祭りによくいく。
瑞巌寺にいったことはないが、大型ショッピングモール・エレクトラの近くにあるので、その前はよく通る。
あのあたりは古くからの住宅地なので、昔は竹林だったと聞かされても想像するのはむずかしい。
とにかく、今後の邪神退治の作戦は潜伏先が判明してからと云う結論に落ちついて、昼餉はおだやかにおわった。
5
宗重さんが自室へしりぞき、酔笑さんが空になった懸盤を庫裡(台所)へ下げにいくと云うので、ぼくもお手伝いしようと思ったのだが、
「森崎どのはそれがしどもより霊魄の安定に時間がかかるゆえ、のんびりいたされませ」
と、断られた。さしあたりやることがない。
つむぎに屋敷の案内でもしてもらおうか? と思っていたら、甘い香りにうしろからだきつかれた。この豊満な柔らかさは消去法で論じるまでもない。イレンカさんだ。
「トシくん。わらわと一緒に『モンスター・ハンティングHG』をプレイするぞよ。それはもうエキサイティングぞよ~?」
「もうイレンカちゃん、いちいちトシくんにくっつかないで! ……トシくんもデレデレしないっ!」
おかどちがいのつむぎのヤキモチがぼくの方へと飛び火するのもかまわず、イレンカさんがことさら艶っぽい声でその火へトポトポと油をそそぐ。
「よいではないか、なあトシくん?」
ここで迂闊にも「はい」などとこたえようものなら、さらなる修羅場が待っているのは自明なので返答に窮していると、障子がガラリとひき開けられた。
「少年! キャッチボールしようぞ! 儂のツーシームを披露してしんぜよう!」
ふたつのグローブと白球を手にした宗重さんが完爾と笑う。
「だめぞよ~。トシくんはわらわと『モンスター・ハンティングHG』に興ずるところぞよ~」
「なにを云う、イレンカどの。男は男同士、白球で語りあうのが青春ぞ!」
「わぬしのへなちょこツーシームなぞ、こないだわらわが打ちくだいてくれたではないか」
「あ、あれはその、イレンカどのをあえかな女性と思うて手加減したまでじゃ!」
「ほう、とんだフェミニストじゃのう。ならば、わぬしの本気とやらを見せてもらおうぞ」
ぼくから身体をひきはがしたイレンカさんが不敵な笑みをうかべると、あっと云う間にソフトボール選手のような短パンのユニフォーム姿に変わっていた。
手には木製バット、頭にはメットをかぶっている。いきなり準備万端、いきなり臨戦態勢である。……金属バットでないところがすごい。
「おう、おもしろい。イレンカどの。表にでられよ。いざ尋常に勝負せん。今日こそ目にもの見せてくれるわ」
この会話から察するに、イレンカさんと宗重さんはしばしば野球対決をおこない、イレンカさんが全戦全勝しているらしい。
「ちょっち待っておれ、トシくん。わらわのホームラン、わぬしに捧げるぞよ」
「少年。坂東武者の生きざま、その目に焼きつけるがよい」
実年齢(?)はさておき、外見16歳の美少女に全力で挑まんとする外見32歳のむくつけき武士と云う構図が、絵的になんとも大人気なかった。
て云うか、邪神退治の使命も忘れて野球対決している余裕なぞあるのだろうか?




