第三章 守人神たち〈12〉
「にしても、つむぎ。ここって刺繍地図の結界なんだよね? 電波とかとどくの?」
つむぎが肩をすくめて嘆息した。
「イレンカちゃんと宗重さんが、TV観たいとかゲームしたいってうるさいからアンテナ立ててといたんだよ。それくらいなら邪神クンネセレマクに干渉されることはないから」
邪神退治の間にTV見たいとかゲームしたいってどんだけわがままなんだろう(そりゃまあ、ぼくもトチロー選手のメジャーリーグ通算3000本安打をリアルタイムで見られて嬉しかったけど)?
て云うか、刺繍地図の結界にアンテナとか立てられるのか。つくづく霊界(幽現界)の仕組みは複雑怪奇だ。
……などと、とりとめのない会話の中で和気藹々(わきあいあい)とつづく食事だったが、ふいに宗重さんが真顔でつぶやいた。
「しかし、解せぬ。昨夜の戦闘で邪神に大いなるダメージをあたえたことはまちがいないが、ここまで気配を断てるものかの?」
「まだダミーの民衆の霊魄を吸いあげた気配もないですじゃ」
酔笑さんもいぶかしむ。
「昨夜の反撃でかなりのエネルギーを消費したはずぞよ。つむぎの防御がなければ、わらわたちも危ういところじゃった」
「虫の息ってとこなんじゃない?」
楽観的な意見を吐露するつむぎにイレンカさんが釘を刺した。
「こたびはウサギのような臆病さをもってのぞむがよいぞ、つむぎちゃん。ヤツがわぬしの霊魄を吸いあげたことや〈さかさ五芒〉を試みたことですら、わらわたちの想定外だったのじゃからの。まだなにかわらわたちの知らぬカラクリや奥の手があるとみるべきぞよ」
この世界が結界と気づけば、邪神は結界の破壊を試みるはずだ。しかし、いまだその動きがない。
すなわち、邪神はまだつむぎの結界に気づいていないか、破壊するだけの力がないと云うことだ。
「いずれ草たちが邪神の潜伏地をかぎだしてくるであろう。のんびり待とうぞ」
「草?」
「いわば、忍者ぞよ」
「守人神の式神さんのことなんだよ。このひろい刺繍地図結界の探索にあたってる」
ぼくのハテナにイレンカさんがこたえ、つむぎが補足した。
カシカシと部屋の外から障子の桟をこする音がした。いつの間にか通路に小さな影が控えていた。
「苦しゅうない。遠慮なく入るぞよ」
イレンカさんの言葉に障子が開いた。いきなり小さなネズミが数10匹飛びこんできたのでおどろいた。
「うわっ!」
ネズミの次にあらわれたのは猫だった。2本の尾をもつ三毛猫である。云わば猫又。ネズミを追うわけでもなく悠然としている。
猫の次は犬だった。がっしりとした体躯の白い犬である。額に小さな角が1本生えている。
そして、犬の背には3本足のカラスがとまっていた。つむぎの刺繍地図にも描かれていた八咫烏だ。
動物たちは大広間の下座へ横一列に整然とならんだ。これが守人神の式神だそうだ。
「ご苦労さまぞよ。首尾はどうじゃった、猫丸?」
イレンカさんの言葉に猫又がこたえた。
「刺繍地図の下半分のさらに半分をウチと犬丸とで探索したにゃんが、邪神の気配はなかったにゃん」
「犬丸はどうじゃ?」
「しかりわん」
宗重さんの問いかけに犬丸がうなづいた。
猫丸はイレンカさんの式神でメス。犬丸は宗重さんの式神でオスらしい。
しかし、語尾に「にゃん」とか「わん」って、にゃんとも安易なキャラづけではある。
「烏丸ちゃんはどうだった?」
つむぎの言葉にこたえたのは八咫烏だ。
「ワタシと忠吉たちも刺繍地図の下半分、猫丸ちゃんたち未探索の半分をまわってみたけど、邪神の気配はなかっただに」
「忠吉たちはどうじゃった?」
「いなかったチュー」
酔笑さんの言葉にネズミたちも甲高い鳴き声でこたえた。




