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第三章 守人神たち〈8〉

挿絵(By みてみん)


 白蛇神さまのインパクトにかくれて看過していたが、シュールな光景が今ひとつ。


巨大な白蛇神さまがとぐろを巻くそのかたわらで、こちらを背に丸めて座りこむ髪の長い女の人がいた。


 ボサボサのうしろ髪は下ろしたままだが、顔の左右で8の字のみずらに結っていた。絵でしかみたことのない古代人の髪型である(ただし、8の字みずらは男の人の髪型だったはずだけど)。


「くぬっ! くぬくぬくぬっくぬっ! ていっ! ていていていていっ!」


 これまた武家屋敷には場ちがいな大型液晶ディスプレイを前にした女の人の背中が小刻みにゆれていた。


 カチャカチャカチャカチャッ! と軽くせわしない操作音。


 大型ディスプレイから流れるビシュイーン、ザクッ、ギアアア! と云う電子音。


 女の人は夢中でPCゲームに興じていた。このゲームは知っている。無料オンライン・ゲーム『モンスター・ハンティングHG』だ。


 いろんな巨大怪獣をひたすらなぎ倒すアクションゲームである。


 今まさにリアルで邪神クンネセレマクを倒そうとしているのに、ゲームの中でおなじようなことをしていて楽しいのだろうか?


「イレンカちゃん、みんな集まったよ」


 つむぎのあきれ声にイレンカとよばれた女の人が背中でこたえた。


「ちょっち待つぞよ。もうすぐケリがつくゆえ。てていていていっ!」


 ディスプレイでは長い赤髪の女剣士が幅広の双刀をふりまわし、巨大な4本腕のゴーレムをめったやたらに斬り刻んでいた。ゴーレムのライフゲージが徐々にけずられていく。


 赤髪の女剣士が深く腰を落とすとエコーがかった声で叫んだ。


『飛竜波斬剣!』


「きゃほーっ! きたぞよっ!」


 赤髪の女剣士が目にもとまらぬ速度でゴーレムの周囲を旋回し、光る斬撃をくりだした。あっと云う間にゴーレムのライフゲージが消滅し、ゴーレムが地に伏した。


 敵を倒したことを告げる電子音に「CONGRATULATIONS!」の文字が躍る。数人のキャラクターがならんでこぶしをつき上げていた。


「いっひっひ。セーブ、セーブ」


『ちょっちヤボ用できたゆえ落ちるぞよ。ほんじゃまたぞよ、みなの衆』


 イレンカさんのあやつっていた女剣士がそう云うと、ゲームからログオフした。イレンカさんがディスプレイへ軽く触れると、ディスプレイやゲームのコントローラーが消えた。


「いや、すまんすまん、待たせたぞよ」


 ちっとも悪びれることなくふりかえったイレンカさんの姿にぼくは思わず赤面した。


 イレンカさんは目力の強い怜悧(れいり)な美少女だった。歳は高校生くらいだと思う。


 猫科の動物を彷彿(ほうふつ)とさせる細くしなやかな体躯(たいく)にまとっていたのは、淡いピンクのシルクのキャミソールと、ゆったりしたタップパンツだけだった。ひらたく云えば、下着である。


 その上、つむぎが全身全霊をこめて嫉妬羨望しそうな巨乳だった。先端の小さなふたつの突起がキャミソール越しに陰を落とす。こう云っては申しわけないが、思いっきしエロい。


 さりげなく視線を足元へ落としたぼくのところへ、イレンカさんが一直線に歩みよると力一杯だきしめた。


 豊満で柔らかいおっぱいがぼくの顔に押しあてられて前が見えない。なんとも罪深い心地よさである。


「逢いたかったぞよ、トシくん! ようも今日までわが妹ラムハウケちゃんに尽くしてくれた! そなたにはきちんと礼を云っておきたかったのじゃ。ありがとうぞよ!」


 心あたりのないぼくは、甘美な拷問の前に窒息寸前だった。これがウワサに名高い〈ぱふぱふ〉の破壊力か!? これで昇天するなら本望! ……とか冗談云ってる場合じゃなく。


「ちょ、ちょっと、トシくん困ってんじゃん! ブレイク、ブレイク!」


 つむぎがボクシングのレフェリーよろしく、ぼくとイレンカさんとの間に割って入ると、ぼくたちを強引にひきはがした。ホッとしてガッカリ。


「……えっと、あの、妹さんって?」


 まだ頬の赤いぼくの問いかけにつむぎがこたえた。


「イレンカちゃんとつむぎは前世で姉妹だったんだよ。ラムハウケはイレンカちゃんの妹だった時のつむぎの名前」


「前世で姉妹……」


 云われてみると、ふたりの面影にはどこか通じるものがあった。胸部に通じるもののないところが、つむぎにとっての不運と云えよう。


「そう云えば、自己紹介がまだじゃったな、トシくん。わらわの名はイレンカ。2000年前、最初に邪神クンネセレマクを封印した守人神(もりひとがみ)であるぞよ。以後よしなに」


 昨晩、七支刀(しちしとう)で邪神クンネセレマクを攻撃していたのが彼女だ。


「森崎寿幸です。こちらこそよろしくお願いします」


 そう挨拶して頭を下げると、イレンカさんがぼくの頭をくしゃっとやさしくなでた。


 顔を上げると、イレンカさんはうるんだ瞳で愛おしげにぼくの顔をながめていた。よほど妹想いであるらしい。

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