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第三章 守人神たち〈6〉

挿絵(By みてみん)


 相変わらず頬を染めたままのつむぎが布団へ手をかざすと、布団一式がパッと消えた。だるま落とし的落下感覚もないまま、ぼくらは畳の上に座していた。


 つむぎが自分の肩へぽんと触れると、一瞬で着ているものがネグリジェから半そでのセーラー服へ変わった。中学の夏服だ。

 つむぎは左手首に小さくまるい針刺し(ピンクッション)のついたリストバンドをはめていた。


〈呪いのツム子さん〉は赤と云う設定だったが、つむぎの針刺し(ピンクッション)は水色だった。


 それは生前ぼくがつむぎに頼まれて買ってきたものだ。たいした値段じゃなかったので、結局お金は受けとらず、プレゼントしたカタチになった。まさか霊界でもつけているとは思わなかった。


「トシくんも着替えよ」


 そう云ってつむぎがぼくの肩へ軽く触れると、普段着のジャージ姿へ変わった。中学の制服ではなくジャージにしてくれたところが「わかっているなあ」と思う。


「それじゃトシくん、ほかの守人神(もりひとがみ)さまたちのところへ挨拶しにいこっ!」


 つむぎがぼくの手をひいて云った。



     2



 ぼくらの寝ていた和室のひろさからなんとなく想像はついていたが、ここは相当大きなお屋敷だった。


 庭も余裕でフットサルができそうなほどひろく、ぐるりは高い土塀でかこまれていた。外のようすをうかがうことはできないが、ちょっとした高台に建っているらしい。


「つむぎ。ここは今の麻蒜間(まひるま)市で云うとどこなの?」


「市の南がわ。文化会館とか図書館とか郷土資料館のある公園のところ」


「ああ。あそこか」


 アクセスの便が悪いことで市民から不評な文化施設の密集地だ。


 特に文化会館は高台の上に建つため(つまりここだ)、急勾配の階段か長く蛇行する道路を通らなければならない。バリアフリーを全力で逆行していたため、先日、エレベーターが設置されたばかりだ。


「城を築くにはちょうどいい地形だったんだね」


「ここってお城なの?」


「一応。かつてこの一帯を治めていた豪族・犬山伏(いぬやまぶし)氏のお屋敷だもん」


 つむぎはぼくらの寝ていた和室のとなり部屋の障子の前に正座した。ぼくもつられて正座すると、つむぎが部屋の中へ声をかけた。


「おはようございます。つむぎです。お邪魔してもよろしいでしょうか?」


「おお、つむぎどの。遠慮のう入られい」


 威厳のある野太い声が障子の向こうからこたえた。つむぎが障子を開けると、いろいろツッコみどころ満載の光景がひろがっていた。


 部屋のひろさはぼくらが寝ていたのと同じ20畳ほど。床の間には鹿角でできた刀かけに大小の太刀がかけられていた。ここまではなんの問題もない。


 つむぎ曰く、ここは室町時代の武家屋敷……だったはずなのだが、床の間の壁面に50インチを越える大型の4KプラズマTVが埋めこまれていた。


 30代と(おぼ)しきたくましい男の人が、ひじかけのついた大きな座椅子の上にあぐらをかき、TV画面をくい入るように見つめていた。


  しかも、部屋の主が身にまとっていたのは、ぼくらの地元のプロ野球チーム・麻蒜間(まひるま)ドリフターズのユニフォームだ。かたわらの盆には外国のビールの小ビンとおつまみのアタリメが載っている。


部屋の(あるじ)が時代劇さながらに(まげ)を結い、小さな口ひげとあごひげをたくわえていなければ、完全にどっかのオッサンの休日の一コマと錯覚したにちがいない。


 きっと、昨夜見た(よろい)姿の人影がこの人なのだと思う。……そう云えば「葬らん!」とかダジャレ云ってたし。


「おお、野球少年! よいところにきた。はようこっちへこい。これを見逃すと後悔するぞ」


 部屋の主はこちらを一瞥(いちべつ)すると、すぐにTVへ向きなおり、ぼくらを手首の動きだけで招き入れた。


 TV画面に映しだされていたのはメジャーリーグの試合だった。


 シカゴ・ラディッシュズ対マイアミ・ガイガンズ。5回裏の攻撃で1アウト0対1。


 マイアミ・ガイガンズの打席に立つのは、日本が世界に誇るメジャーリーガー、トチロー外野手(41)だった。


 右利き右投げ左打ち。走・攻・守の三拍子が美麗にそろった理想の野球選手である。


 日米通算8年連続首位打者にして、17年連続打率3割。10年前には100年以上破られなかったメジャーリーグ年間最多安打記録を262本へ更新した。


 メジャーリーグ5年連続最多安打、日米通算4000本安打など、かがやかしい金字塔をいくつも打ち立ててきた〈生ける伝説(レジェンド)〉だ。


 今期はメジャーリーグ通算3000本安打と云う新たな記録を目前に控えていた。


「少年。この打席でトチロー選手が打てば、メジャーリーグ3000本安打達成じゃ!」


「え!? それじゃもう1本打ったんですか!?」


 ぼくも思わず身をのりだしてたずねた。メジャーリーグ3000本安打記録達成まで最短で1試合2安打以上と云われていたので、1打席目でヒットを放ったことになる。


「うむ。技ありの流し打ちであった」


「すげ~!」


 球場は異様な緊張感としずかな熱気に包まれていた。画面表示を確認すると、カウントは1ボール1ストライク。まだトチロー選手には余裕がある。

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