第三章 守人神たち〈1〉
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目が覚めると、うすぼんやりとした天井に大きな杉板の木目が見えた。見知らぬ天井だ。なんかここのところ、目覚めるたびに天井の景色がちがっている気がする。
顔をなでるひんやりとした空気に木と畳の香りがただよっていた。あたたかく身体をつつみこむ洗いたての白い布団カバーの糊の効いたゴワゴワとした肌ざわり。旅先の旅館で迎える朝の雰囲気だ。少しそっけない感じも悪くない。
(……あれ? ぼくって旅行へきてたんだっけ?)
寝ぼけているせいで自分の置かれた状況を把握できずにいた。
天井を眺める視界の左がわから柔らかな光がさしこんでいた。顔をそちらへ向けると障子が外の光をやわらげていた。
ぼくは20畳ほどあるひろい和室のまん中に敷いてある布団で寝ていた。頭の方には立派な床の間も見える。
顔を向けたぼくのあごの下になにかがコツリとあたった。小さな頭だ。視線をさらに下へ移すと、よっく見おぼえのある女の子がすやすやと安らかな寝息をたてていた。
織機つむぎ(享年13歳)だ。
布団のあたたかさで気づかなかったが、つむぎはぼくの左手に右手の指をからませたままぴったりとより添うように眠っていた。
……って、なにコレなにコレどーゆーコトっ!? どどどどどうしてぼくとつむぎが同じ布団で一緒に寝てるワケっ!?
ぼくはつむぎから密着している身体だけでもひきはがそうとしたのだが、高熱をだして寝こんでいる時みたいに、関節がふわふわとして力が入らなかった。身体が動かない。
今すぐ可及的すみやかに現状の説明を要求したいところだが、つむぎがあんまり気もちよさそうに眠っているので起こすのもためらわれた。
かろうじて動く首だけ元へもどして天井をあおぎながら、自分になにが起こったのか必死に思いかえしてみた。
つむぎの夢告に刺繍地図。どしゃ降りの雨。黒いドロドロ。4人の悪霊。邪神クンネセレマク。邪神と闘う3人の人影……。
……ひょっとして。これって夢じゃなければ、ぼくは死んでるってこと?
だとしたら、北斗神拳伝承者云うところの「おまえはすでに死んでいる」状態だったのはいつだろう?
美雲パークタウンで邪神クンネセレマクの黒いドロドロに呑みこまれた時? 黒いドロドロの中で4人の悪霊にすがり憑かれた時? 刺繍地図の世界で邪神クンネセレマクの反撃を受けた時?
……よしんば、仮にぼくがもう死んでいたとしたら、いつ死んだのかなんて考えるだけ無意味だ。死んだらおわりじゃんか。
あれ? でもちょっと待て。たしか、つむぎは人が死んだら〈中有〉で49日かけて現世から霊界へ移行する準備をするとか云ってなかったっけ?
もしや、ここって〈中有〉?
いやいや、つむぎは云っていた。〈中有〉はあたたかい光の海のようなところだって。〈中有〉からは現世や霊界へ干渉することはできないって。
とすると、つむぎがぼくのとなりで寝ているのはオカシイ。つむぎの添い寝は霊界からの甘美(?)な干渉だ。
てコトは、ぼくはまだ死んでない? 生きている? じゃあどうしてつむぎが一緒に寝ている? どうしてぼくはつむぎのぬくもりを感じている?
……つむぎが生きかえった!?
ぼくの灰色の脳細胞が楽観的な可能性を示唆して即座に否定した。
哀しいけれど、それだけはありえなかった。つむぎの夢告以降すべてが夢まぼろしだったとしても、つむぎが亡くなったことだけは残酷で絶対的な事実だ。
ぼくは一気に冷静さをとりもどした。




