第二章 死者からの(ムチャな)伝言〈2〉
「それよりなんだよ?〈中有〉の49日って?」
「ああ、うん。えっとね、人は死んだら肉体と云う物質からはなれて、魂だけの存在になるの」
「ふむふむ」
「魂は現世、ようするに物質界から霊界へと移行するんだけど、いきなり霊界へ移行することはできないわけ」
「と云うと?」
「たとえば、世界最高峰8000メートル級のチョモランマ登攀に挑むとするじゃん? そう云う時って一気に頂上までのぼらないで、酸素とか気圧の低い高地へ身体をならすため、山の中腹で数週間すごしたりするでしょ?」
高地順応と云うやつだ。富士山ほど高い山でなくても、高山病で頭痛や吐き気にさいなまれることがある。
「現世から霊界、この世からあの世へと移行するためには、魂を霊界へなじませる必要があるの」
「〈中有〉ってのは、亡くなった人の魂が霊界へ入るための待合室って云うか、ベースキャンプ的なところってわけか?」
「うんうん、そゆこと。死んだ人の魂は〈中有〉と云う現世と霊界のはざまで49日かけて、自分が死んだことを自覚したり、たくさんの過去世の記憶なんかをとりもどしながら、霊界、すなわちあの世へ順応するの。そして、この間〈中有〉にある魂は、現世にも霊界にも干渉することができない」
ちなみに〈中有〉はあたたかい光の海のようなところだそうだ。その中をくらげみたいにぷかぷかとただよっているらしい。
そんなことより腑に落ちないセリフがあった。〈中有〉にある魂は現世に干渉することができない?
「ちょっと待て。……てことは、こっちで起きてる連続自殺事件はつむぎと関係ないんだな?」
「も~、トシくんまで本気でそんなこと疑ってたわけ? あるわけないじゃん。知らない人を呪い殺すだけの不条理なパワーがあったら、原因不明の病で死んだりしないって」
「じゃあ、なんでそんなコスプレしてるんだよ?」
先につむぎは冗談で〈呪いのツム子〉と自称した。現世のできごとを知らなければ云えるはずがない。
「コスプレじゃないもん! ……あ、て云うかコスプレなのかな?」
よくわからない脳内プロセスを経て、ひとり合点したつむぎがつづけた。
「〈中有〉では現世や霊界に干渉することはできないけど、どっちのようすも知ることはできるんだよ。……つむぎはこうなるのを阻止しようと思ってがんばってたのに、まさか逆に〈呪いのツム子さん〉なんて魔女に祀りあげられるとは思わなかったよねえ」
「……こうなるのを阻止?」
意味深長なつむぎのつぶやきを問いただそうとした時、つむぎはハッと我にかえると、床を蹴ってイスごとぼくの方へ急接近してきた。
「そうだ、トシくん! こんなふざけてる場合じゃないんだよ!」
「最初からふざけているのは、つむぎだけだと思うんだけど」
「よいからちゃんと聞いて。つむぎはトシくんに助けてほしくてここへきたの。トシくんの助けがないと美雲パークタウンに〈5人目〉の犠牲者がでる」
「〈5人目〉の犠牲者!?」
おどろくぼくにつむぎが真剣な面もちでうなづいた。
「そう。〈5人目〉の犠牲者がでると〈さかさ五芒〉が完成して、2000年前この地に封印された邪神クンネセレマクが復活しちゃうんだよ。そうなると、もっと多くの人が死ぬことになる」
「〈さかさ五芒〉? 邪神クンネセレマク?」
いきなり、中二病のオタクたちが聞いたら小躍りしそうな不可解単語が飛びだしてきたが、つむぎはラノベやアニメに接点がない。
ぼくは正真正銘の中二だけど、中二病は発症していないはずだ。
「でも助けるって、なにをどうすればいいんだよ?」
「まずはじめに、つむぎの部屋から刺繍地図をもちだしてほしいの」
「刺繍地図?」
「つむぎが最後まで縫いつづけてた大っきなシーツ」
云われて思いだした。つむぎが亡くなった時、いつもつむぎのかたわらに丸められていた大きな刺繍のシーツが消え失せていたと云う話を。これまで忘れていたことの方がふしぎだ。




