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太陽の巨大樹 旅の後半


僕はその後、吐き出されたモノを確かめるために、銀の杯を覗き込んだ。

それは、煮えたぎったマグマのようにぐつぐつと泡を吐き出し、灼熱の赤色をしていた。


ふと頭を上げると、滝の上から何やら浮かんでるものに気が付いた。

それは段々とこちらに近づいてきて、とっさに近くにあった岩影に僕は身を隠した。


こちらに近づいてきたのは、巫女装束に似た物を着ている、角の生えた少女だった。

少女はきょろきょろと何かを探している素振りを見せた後、一言呟いた。


「あやつは、来てないのか・・・?」


どうやら、あの大オオカミのことを指してるみたいだ。

2人は知り合いだったのだろうか。

僕は、さっき燃え尽きて姿もない大オオカミにも、喋りあえる仲間がいたんだなと思った。

そう考えると、残されたこの少女はこれからどうするのだろう。


「またここで会おうと約束したのに・・・。」


独り言のようにそう言った少女は、足をそろえて崖下に向け、滝を見るように座り込んだ。

まるで彼氏を待つ、彼女みたいだ。

実際、そういう仲だったのではないかと邪推してしまった。


少女は、洞窟の入り口近くに置いてある銀の杯に気が付いた。

どうやら、この杯はいつもは置いてないようだった。

それもそうだ、こんな大自然の中、銀の杯が置いてあるなんて考えもしないだろう。


恐る恐る杯に近づき、中を確かめる素振りをする。

少女は、中にあるものを確かめると、一瞬、硬直したように身体が止まった。

少女の目が、吐き出された肉塊がマグマのようになったモノに吸い込まれていくように、虚ろになっていった。


「あ・・・んた・・・?」


少女は、銀の杯を両手に包み込むように持ち挙げ、顔の近くに持って行った。

彼女の目には何が移っているのだろう。


杯を持ったままの少女の顔には、一人残された身としての悲しそうな表情がそこにはあった。

涙が頬をつたう。

小さな背中が震えているのが分かる。


食われようとしていた僕が、何故か怨みの対象になっていることをこの時、感じた。

しかし、彼女は怨み憎しむ事をしなかった。


赦してくれたとも違っていたが、少女は、ゆっくりと杯に入っているものを口に付けたのだ。

ゆっくりと杯が傾かれていく。


「あんた・・・一緒に・・・」


彼女は倒れるように、落ちていった。

崖下では、轟音となって流れていく滝の水が靄となって、先がどうなっているのかを隠していた―――。




僕はあの後、崖を登っていた。

少女が落ちていったことに、やるせない思いを抱えながら、一つ一つ岩を掴みながら登った。

まるで、この冷たくも切ない崖下から抜け出そうとするように、一人孤独に登った。

指先が岩肌で所々切れてしまっていた。

指が凍えるように冷たく、切り傷も相まってどうしようもなく痛かった。

腕の力も、疲れてきたのか段々と入らなくなっていった。



夜明けも近かった。

うっすらと夜空が明るくなっていく兆候を見せていた。


やっと登り切った時には、日の出が出てきていた。

そして目前には、崖の上に佇む巨大樹があった。


日の出の光が後光の様に巨大樹の後ろから見えた。


気が付けば、何人もの人達が輪を描くように巨大樹の周りに集まっており、僕もその一人となっていた。

周りを見てみると、あのウサギの彼女も、麻布を被った人もそこにはいた。

すると、ある一人が声を高らかに上げた。


「亡き先祖達を敬いたまえ!私達を導きたまえ!祖先達よ、敬いたまえ!」


後から大声援となって連呼する。


『亡き先祖達を敬いたまえ!私達を導きたまえ!祖先達よ、敬いたまえ!」


僕は、隣にいた人物を見た。

その人は、カウボーイハットをしていて、いかにも西部劇に出てきそうなダンディーなオジ様だった。

僕と目が合ったその人は、腕を僕の肩に廻しこんでハグをし、笑いながらこう言った。


「なに、住んでたヤマが燃えちまったら、別のヤマに移ればいいんだよ。」


その突拍子もない言葉を掛けられながら、僕はこの旅が終わりに近づいているのを感じていた。



いつの間にか巨大樹の真上に太陽が昇っていた。

皆が太陽を仰ぎ見る。

その暖かく降り注ぐ熱量と、眩しさに幸福感を感じながら、ジッと見ていると視界がぼやけてきていた。


周りの人達の声が聞こえなくなる。

身体の感覚がなくなってくる。

あるのは太陽の光を見ているということだけだった。




















気が付いてみると、僕は落ち葉の上に横になって太陽の光を燦々と浴びていた。

上体を起こしてみると、山道の下り坂が足元に伸びていた。

家に帰る道だ。

僕はゆっくりと立ち上がり、家へと帰る道を歩き出した―――。


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