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竜の咆哮  作者: 春日 智英
幼少期
9/34

投獄

 ルムガンド王国、謁見の間。

 早馬に(またが)り女帝山を後にしたライアスは、城に到着して早々、国王の前に跪いた。


「——以上、報告となります」

 女帝竜との約束通り、ありのままを伝えたライアスは緊張のなか国王の判断を待つ。

 対して報告を受けたルムガンド王は、目を瞑って(もく)している。


 (きら)びやかに彩られた大広間の空気は重苦しい。

 下を向く端正な面持ちの頬を冷や汗が(つた)っていく。


 今までは、何も疑うことなく国王の命令に忠実であった。それが騎士として守るべきものであり、貫くものだと思っていた。

 しかしライアスは、幾分か慈悲のある決断をしてほしい、と思う自分がいることに気づく。自身が今まで持っていた信念が、揺らいでいるのを実感していたのだ。


「それで……そのままおめおめと引き返してきた、というわけか。……余が何と命じたか、失念したわけではあるまいな?」

 ルムガンド国王は、静かに怒りを膨らませながらライアスへと問い掛ける。


「はっ。当然にてございます。……しかし、かの竜が言うことも()にかなっており——」

「もうよい! ライアスよ、しばし頭を冷やしてくるがいい。……ウルズ!」

 国王は遂に怒りを露わにし、近衛騎士団の内の一人を呼んだ。


「ここに」

 壁際に控えていた二十代半ばの女性騎士が前に出る。美しいとしか形容できない容姿と、燃えるような赤にウェーブのかかった髪が気品を漂わせている。ウルズはライアスの傍まで歩み寄ると、跪く騎士の右斜め後ろに立った。


「へ、陛下! 何を!」

「ライアス、五日間独房での謹慎処分を命ずる。ウルズ、そやつを連れて行け」

 ライアスは慌てて顔を上げ国王へ訴えようとしたが、その言葉が国王に届くことはない。


「御意に。……ライアス、行くぞ」

 ウルズはライアスの両手首を素早く縄で結ぶと、ライアスを連れて城の地下にある監獄へと歩き出した。


—— — — —


 ライアスとウルズが去り、数分が経った謁見の間。

「私は軍議室へ向かう。大臣、占い師と各部隊の隊長達に来るよう伝えよ」

「御意にございます」

 国王は横に立つ大臣に向かってそう伝えると、自らも立ち上がり謁見の間を後にした。


—— — — —


 一方、地下監獄へ向かうウルズとライアス。ライアスは、自分が何故独房へと入れられるのかが理解できないでいた。

「ウルズ殿、何故私は独房へと入らねばならないのですか。……私は何か間違ったのでしょうか」

 未だ納得のいかないライアスは、騎士としての階級が上であるウルズに食い下がる。


 石の壁で囲まれた螺旋階段に、鉄靴の足音が悲しく響いていく。


「……陛下の広く深いお考えは私には分からぬ。ただ、私達騎士は、陛下の剣であり盾である。騎士の称号を剥奪しなかった、陛下のお心遣いを無駄にするな」

 階段の前を下りるウルズは、後輩を振り返ることなく答える。

「それは……」

 ——それは、何も考えず、ただ命に従うだけの傀儡ではないか。


 自身の信念。守るべきもの。

 騎士として何を貫き、何のために剣を振るうのか。


 ライアスの心は、かつてないほどに迷い、かつてないほどに揺らいでいた。


 ライアスが思考の迷宮に陥ってしばらくすると、鉄で作られた頑丈な扉が二人の目の前に現れる。

「さあ、着いたぞ。さて、お前の剣を一時(いっとき)預かる」

 ウルズは、ライアスが帯びる王国の紋章が刻まれた剣を引き抜く。


「くれぐれも変な真似は考えるな。……では、五日後に迎えにくる」

「わかりました……」


 自分の愛剣を片手に、コツコツと足音を監獄内に響かせながら遠ざかっていく女性騎士。


 ライアスはもはや何も言えず、ただ見送ることしかできなかった。

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