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竜の咆哮  作者: 春日 智英
幼少期
5/34

懸念

 人族がハク達の住む山に入り、木々を伐採し始めてから一週間が経過した。


 山の麓から中腹あたりまで、山頂から見ると綺麗に一本の線を引いたかのような道が出来上がっていた。

 その道の上では食料を持ってくる者や伐採した木を運び出す者、護衛の交代などで常に人族が行き交っている。


 人族は木々を伐採し道を整え、横穴を掘り、遂に今日、金や銀を求めて採掘を始めたのだった。



 女帝竜はこの人族の来訪に対し、二つの懸念があった。


 まず一つは、何かの拍子でハクが発見されないか、ということ。

 ハクは紛れもない人族であるが、その外見はあまりにも同族に比べて見すぼらしい。食事はしっかりとっているので、痩せ細っているということではない。

 ただ山暮らしをしているため、どうしても十分な服装は手に入らない。現にハクは今、山に生息している熊から剥ぎ取った毛皮を纏っているだけなのである。


 また、ハクとラドは大抵行動を共にしている。これを人族に見られでもしたら、彼らはどう思うだろうか。


 竜と共に生きる少年。竜の(プラーナ)を使って飛行などしない限りは、彼らにハクを導師であるかどうかは判断できないはずである。

 しかし、ただでさえ数少ない竜族と一緒にいるところを見られた場合。良くて救助、悪くて誘拐などの目的で人族が集まることは容易に想像できてしまう。


 次に、ハクとラドが興味本位で人族に接点を持ちにいかないか、ということである。

 一週間前の約束で、ハクとラドにはここに来ている人族と関わらないように言いつけてある。ただ、この一週間で、ハクとラドが彼らと関わりたくてうずうずしているのが目に見えて分かる。


 女帝竜も、単に人族とは関わるなと言っているのではない。

 では何故、彼らと関わってはいけないと言ったかというと。ハクとラドはまだ、この世界が孕んでいる闇を知らなすぎるのだ。

 つまり、人族に限らず人が誰しも持っている暗い部分。言い換えれば闇の部分に対し、あまりにも無知で、免疫が皆無に等しい、ということである。


 さらに言えば、この山に来ている人族はその中でも血の気が多い連中であったり、武装集団がいて危険だという理由もある。



 女帝竜が最初に想像していたよりも、人族の出入りが激しい。

 彼らの滞在が長引けば長引くほどに、懸念に過ぎないとはいえ子ども達の危険も高まっていく。

 今までは「竜の住む山」ということで、周囲の種族を近づけさせなかった。だが、今後の成り行き次第では、この慣れ親しんだ住処を変更せざるを得ないかもしれない。


 さらに、この人族の一通りの行動である。

 木々の収集や鉱石類の採掘。その目的が軍部拡張である、という可能性は十二分に有り得る。


 そう遠くない将来。

 過去の歴史を振り返れば、仮初めの平和がまた崩れ、ハクと今後現れるであろうもう一人の導師を中心に、戦乱が巻き起こるかもしれない。いや、十中八九それは巻き起こるであろう。


 ハクとラドには、戦乱の無い平和な一生を過ごして欲しい。切にそう願う母なのであった。


 しかし、現実とは至って残酷なものである。


 母の懸念通りに、この先に待ち受ける世界中を巻き込む戦乱の真っ只中に、子ども達は身を投じることになる。

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