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竜の咆哮  作者: 春日 智英
幼少期
26/34

ディオネ救出作戦

 分岐点右側、最奥地点より一キロメートル手前。


 最奥地点にて身構えている男二人を、ハクとラドは完全に視認した。

 どうやらまだ、男達はこちらを発見できてはいないようである。しかし、姿勢を低く保ちながら短刀を構えている姿を見るに、自分達が近くまで来ていることは勘づいているらしい。


 ハクとラドは、男二人のすぐ後ろに、布で包まれているディオネの姿を発見する。

「……いた。ディオネだ」

 ラドは気付かれないよう声を殺し、レントに最低限の情報を教える。


 ごくり、とレントの生唾を飲む音がハクとラドの耳に届く。恐らく初めてであろう緊迫した状況に、かつてない緊張をしているのだろう。


「大丈夫、落ち着いて。君なら必ずやれる。僕とハクがレントの目になる。レントは目を閉じて、集中してくれればいいから」

 ラドはそう言うと翼を羽ばたかせ、レントとハクの後方に位置づける。


「分かった……」

 レントは目を閉じ、大きく深呼吸をする。そして右腕を伸ばし、手を目一杯に広げた。

 ハクはレントの真後ろに回り込み、後ろからレントの手を支える。目を見開き、「火の術法」が目標の箇所に飛ぶように手の方向を調節する。


「もう少し上……、そう。……あともう少しだけ左……」

 ラドもその後ろから微調整を加える。


「ここだ。……よし、レント。いつでも大丈夫」

 ラドの声を聞き、レントはさらに集中する。


 そして、昨日ハク達に見せたよりも大きな火を、目標に向けて発射させた。


 —— — — —


 分岐点右側、最奥地点。


「旦那、いつになったら来るんだい? かれこれ五分くらい待ってるじゃないか」

 闇精族(あんせいぞく)の男は、近いうちに来るであろうハク達を身構えつつも、少し苛立ちを抑えられずにいた。


「黙って待ってろ。……足音が止まった。……ガキ共が仕掛けてくるぞ」

 狼人族(ろうじんぞく)の男はそれを(いさ)めつつ、先ほどから聞こえてくるハク達の足音に集中していた。そして、その音が途絶えたことに気付き、警戒をより一層強いものにする。


 短刀と小型の弓を構え直し、男達は目を凝らしてハク達の姿を探す。

 すると、男達の視界に小さな灯りが遠くから近づいてくるのが見えた。


「なんだ……あれ。……っ!!」

 その灯りは、レントが放った直径一メートルほどの特大の火の玉だった。物凄い速度で近づいてくる火球に男達は思わず息を呑み、横に飛び退いてそれを回避する。


 特大の火球は男達に当たることはなく、その少し手前の水溜まりに着弾した。

 着弾した美しい水色の水溜まりは一瞬にして蒸発し、辺り一面が水蒸気により何も見えない霧の空間と化す。


「くそっ! 何も見えねぇじゃねぇか!」

 飛び退いた闇精族(あんせいぞく)の男が悪態を()きながら短刀を振り回すが、その霧は一向に晴れる気配がない。


 それどころか、男達はその霧の中を飛ぶ竜に気付くことも(まま)ならなかった。


 —— — — —


「ハク、行くよっ!!」

 レントが火球を放った直後。着弾を確認する事なく、ラドはハクを背に乗せ飛び立った。

 ハクとラドは、奥で横たわるディオネの場所を把握し、火球の後ろを猛スピードで飛ぶ。


 火の玉が水溜まりに着弾する寸前、ハクとラドはディオネの隣にもう一つ布で包まれた何かがあるのを見つけた。

「ラドっ! あれっ!」

 火球が着弾し水の蒸発する音、そしてハクの驚きの声がラドの耳朶(じだ)に触れる。


 ラドは思考を巡らすが、良い結論は出てこない。

「ハク! ひとまずディオネを助けるんだ!」

 そして一瞬の逡巡(しゅんじゅん)の後、ディオネのみを救うことを決断した。



 当初、ラドの考えた作戦はこのようなものだった。


 この鍾乳洞の中に無数に存在する水溜まり。ここにレントの火の術法を着弾させ、視界を(さえぎ)る水蒸気を発生させる。

 その隙に、ラドがハクを乗せディオネの居る場所へと近づく。そして、ハクがディオネを拾い、再びラドに飛び乗り逃走を図る。


 もし、男達とディオネが密着した状態であったならば、ラドが単独で飛び、その両手足で引っ手繰(たく)る予定であった。

 荒事に慣れた大人二人を相手取るのは良策ではない。そう思ったラドが考えた、消極的だが現実的な作戦であるのだった。


 いくら竜族とはいえ、体長一メートル強しかないラド。背に乗せて飛べるのは子ども二人が精一杯である。

 ハクとディオネを乗せるだけであれば問題はなかった。

 しかし、ディオネの他にも、男達に捕らわれていた被害者がいたとなると、誰かを切り捨てる必要がある。見ず知らずの人物を助けるよりも、確実にディオネを救助することを選択した末の決断なのであった。



 男達の横を飛びながらすり抜け、ラドとハクは濃霧の中を突き進む。そして、直前に確認したディオネの居場所へと到着する。


「くそっ! どこだ!? ガキ共!!」

 後方から闇精族(あんせいぞく)の男の怒号が響く。


 ラドの背から勢いよく降りたハクは、手探りで横たわるディオネを掴み、ラドの背に乗せる。

「ハクっ! 急いで!!」

「もう少し待ってて!」


 ラドが急かすも、ハクはラドの背に乗らず、先ほど見つけたもう一人の捕らわれた人物の元へと走っていく。

 霧の濃度が少しずつ減っていき、緩やかに視界が晴れていく。


「ハク! ダメだ! 早く乗って!」

 ラドは内心で諦めつつ、ハクが走っていった方向へと飛び立つ。

 徐々に霧が霧散し、天井がはっきりと見えるようになる。


「……行って!」

 先ほどの一瞬で見つけたもう一人の被害者を、ラドの背に乗せて叫ぶハク。


(——これ以上は……時間が持たない!)

 背に乗せた二人を落とさないよう頭を低くし、ラドは晴れつつある霧の中を戻っていく。


「どこだって言ってんだよぉっ!!」

 闇精族(あんせいぞく)の男が叫ぶ中、ラドはその真上を通り過ぎる。


 ラドがレントの元へと到着する。そして急いでディオネ達を降ろし、再びハクの元へ戻ろうと振り返った。


 そこでラドの目に映ったのは、ほぼ完全に霧が晴れた視界の中、苛立つ男達と対峙するハクの緊張に満ちた面持ちだった。

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