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竜の咆哮  作者: 春日 智英
幼少期
24/34

悲鳴

 ハク達はレントを先頭にして、村の外にあるという鍾乳洞へと向かっていた。


 村の出入り口は一つしかないのだが、村の子ども達は密かに、遊び場の外れに秘密の出入り口を作っていたのである。

 ハク達はその秘密の出入り口を通り、門番に見つかることなく外へと出たのだった。


「その鍾乳洞にな、綺麗な羽がいっぱい落ちてるんだ。赤とか、緑とか、奥に行くほどいっぱいあるんだ!」

 木々の隙間を縫いながら、レントは目をキラキラと輝かせて語る。


「へぇー、そんなに色んな色の羽が落ちてるんだ」

「ああ! きっとハクもラドもびっくりするぜ!」


 ラドが相づちを打ちながら、一行は森を奥へと進んでいく。ディオネはハクと手を繋いだまま、先行するレントとラドの後ろを歩いている。


「ねぇ、ハク……。もう大丈夫。手を離していいわ」

 時間が経つにつれ、さすがに気恥ずかしくなってきたのだろう。ディオネは火照った顔を横に逸らしながらハクに話しかける。


「だめ。だって、ディオネ……、手離したら帰っちゃうんでしょ?」

「ここまで来ちゃったんだから、もう帰らないわよ!」


 ディオネは照れくささを隠し、勢い良く手を離す。そして、思わず視界に入ってしまったハクの笑顔から目を逸らした。

「はぁ……。本当に調子が狂うわ……」

 もはや口癖になりつつある台詞がディオネの口から漏れる。


「——着いたぞ! ここがとっておきの場所だ!」

 こうしてディオネが乙女心をくすぐられているうちに、ハク達は目的の鍾乳洞へと辿り着いた。


「ここがそうなんだ。なかなか広そう場所だね」

「広さだけじゃなくて、けっこう奥まで続いてるんだ。まだ一番奥までは行ったことないんだけど」


 ラドの言う通り、その鍾乳洞の入り口は、大人二人が並んで入ってもかなり余裕があるほどの大きさだった。

「じゃあみんな、足下が滑りやすいから気をつけろよ」

 レント、ラド、ハク、ディオネの順に、その薄暗い入り口の奥へ入っていく。


 鍾乳洞の中は、かなりの湿気とひんやりとした空気が漂っていた。

 つらら状の鍾乳石、石筍せきじゅんと呼ばれる地面から突起した岩、そしてそれらが繋がった石柱が所狭しと並んでいる。また、あちこちに水色の小さな水たまりができており、天井と反射することで幻想的な水色の空間を創り出していた。


 初めて見る、自然が創り出した絶景に目を奪われながら、ハク達は奥へ奥へと進んでいく。


「あ、綺麗な羽って、もしかしてこれのこと?」

 最初にとっておき・・・・・の物を見つけたのはディオネだった。落ちていた黄緑色の羽を手に取り、珍しそうに様々な角度からその羽を見るディオネ。

 確かにその黄緑色は、普段見かける鳥達の羽ではない鮮やかな極彩色をしていた。


「ちぇっ。最初に見つけたのはディオネかよ……。まぁいいや。奥にもいっぱい落ちてるから、どんどん進むぞ!」

 レントは悔しそうにしながらも、多少の見栄を張りながら先頭を進んでいく。


 綺麗な羽探し。

 子ども達は無邪気なまま、鍾乳洞の奥に隠された秘密へと徐々に近づいていった。


 —— — — —


「おい、見たか?」

「ああ」


 生い茂る木々に隠れた二人の男達が、鍾乳洞の中へハク達が入っていくのを遠巻きに見ていた。


 片方の男は闇精族あんせいぞく。妖精族とほぼ同じような姿形をしているが、肌が褐色で髪の色が薄い紫色をしている。

 もう片方の男は狼人族ろうじんぞく。人族よりも若干大きな体つきをしており、何よりもその顔が狼のそれである。


 その二人は異なった種族であるにも関わらず、発せられている雰囲気の物々しさには似通ったものがあった。


「妖精族で黒の髪とは、これは珍しいな」

「ああ、それに竜族のガキまでいやがる。ちっとばかり手こずりそうだが、見返りは莫大だ」

 男達はニヤニヤしながら、後ろ腰に携えた短刀に手をかける。


「人族と、妖精族のもう片方はどうする?」

「どうでもいいな。大した額にはならん。邪魔なら消すだけだ」


 話し合いを終えた男達は、慣れた足取りでハク達の後を追い、鍾乳洞へと入っていく。


 その手には短刀の他にも、大きめの布と小型の弓矢が装備されていた。


 —— — — —



 歌いたい。


 昨日までのように。


 空を飛び、日の光を浴びながら、鳥達の鳴き声と一緒に。


 雲に乗り、風と踊り、どこまでも、どこまでも高らかに。



 ……でも、ここでは飛べない。

 ここでは喋れない。歌えない。



 歌いたい。


 誰か、誰か。



 ——助けて。

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