導師
数日後。
ハクとラドは、母である女帝竜の前で、それぞれ一人前の竜となるべく修行を積んでいた。
ハクは自力で飛べるようになるため。
ラドは炎を吹けるようになるため。
ハクは紛れもない「人」である。分類上の正式名称は、人族。当然の如く翼の類は生えていない。
通常であれば、いかに努力をしようとも空を飛ぶことなど不可能なのである。
しかし、ハクは念ずることによって、未だ未完成ながらも竜の翼を生み出すことができるのだった。
この世界に生きる者は、体内に気と呼ばれるエネルギーを宿している。人であれど、竜であれどそれは同じ。
人族であれば人の気、竜族であれば竜の気を宿す。
例えば、ごく一般的な人の気を宿すもの。これは特殊な力を持たないが、知能が高い。しかし、総じて短命である。
竜の気を宿すものは、炎や吹雪などのブレスを吐くことができるが、繁殖能力に乏しい、などそれぞれに特徴がある。
この気は、それぞれその種族の身体的な特徴と密接に関わっており、種族間を超えて身体と気が交わることは無いとされている。
これが、種族が異なる者たち夫婦の間に、子を授かれない理由である。
しかし至極稀に、身体と気とが異なる存在が、種族という壁を超えて誕生することがあるという。その存在は過去に四人確認されており、同時に世界に変革をもたらす者として「導師」と呼ばれ、伝承と共に語り継がれている。
伝承では過去に導師が現れる際、二人同時期に現れるという。そして、過去二回とも二人の導師が決裂し、世界中の種族を巻き込みながら大戦へ発展していった、とのこと。
このような歴史から、導師は災厄を招く者として一部から疎まれ、新たな時代を創生する変革者として一部から崇拝されているのである。
「やった! 少し飛べたー!!」
物心ついた時から体内に竜の気を宿すハクは、順調にその力を自分の物にしつつある。
「凄いじゃないハク! ラドも負けてられないわね」
「むー、火を吹くの難しいよー」
ハクとラドの母である女帝竜は、当然の如く過去二度起きた大戦を知っている。何せ二度目の大戦に参戦した当事者でもあるのだから。
ハクを託された時から、心優しい導師と成るべく、愛情を注いできた母。
しかし子を想うからこそ、導師に待ち受ける運命と、いずれ相見えるであろうもう一人の導師の話は未だ出来ずにいるのだった。