二章 有志、集う
知らなかった人、知らなかった場所。これからも...
降りると、そこは先程まで使っていた居間の様な場所だった。
「先程まで使っていたリビングです。まぁ、それは名ばかりで客室ですね。ほとんど皆さん、いらっしゃいませんし。」
私はここに来てから一時間弱だが、ここにまだ見ぬ人も含め、ここにいるとは思えない。
「ほとんど自室に籠っています。身体に悪いですよね。」
あはは、と曖昧な笑みを浮かべる鏡花。私は鏡花はもっと静かだと思っていたが勘違いだったらしい。
「自室?」
「えっ、ああ、はい。女子階は二階なので、後で千夜さんが案内してくれると思います。」
少々時間遅れだった私の質問に面食らった様だ。
そんな話をしながら一階の、居間の更に奥へ進む。
「次に紹介するのは絲山博士です。」
イトヤマ、ハカセ?なんて、珍妙な名前だろうか。
「ああ、別に博士さんでは無いですよ?」
余りにも莫迦すぎた。けれど、突然言われたら戸惑うのも当然だ。
「分かっているさ。」
不満は隠し通せなかった。年下に八つ当たりなんて情けない。
「はーい、こちらです。」
ドアの前には火気厳禁、イトヤマ在住と書かれている。きっと、裏にはイトヤマ外出と書かれているに違いない。鏡花はドアを開け、絲山博士―、と気軽に呼びかけた。対する、絲山某は、
「鏡花ちゃん、いらっしゃい。」
と穏やかに、しかし、私が目に入ると
「ち、千夜さん!」
と、尋常ならぬ様子。あれは敬意。否、警戒である。しかし人違いと気付けば安定した態度だった。
「なぁんだ、正岡さんだったか。驚いた、結構似ているものだから。」
私のことを知っていることを知り、先程千夜が携帯電話を使っていたことを思い出す。
そこは少し暗めの照明に電子機器で溢れかえった部屋だった。
「こう見えても絲山博士は大学教授だったのです。去年、辞職しましたが。」
「うう、耳が痛いです。」
どうやら、鏡花と仲は良いよう。本来の目的は自己紹介。
「正岡 四季です。宜しくお願いします。」
取り敢えず、礼をする。
「ええと、親切にどうも。僕は絲山 (イトヤマ アキラ)です。宜しく。」
印象は普通の青年。ここがこんな電子機器で一杯でなければ。
「博士はIT関連でも有名人でした、千夜さんに負けて支配権でこき使われています。」
何もわからないが、とんでもない賭けをしたのは分かる。
「いつか話すよ。」
とにこやかに彼は言った。
「さっ、次に行きましょう。四季さん。」
鏡花は何故か、急ぎましょうと言う。
そして少し長い廊下を抜け、最初の居間らしき場所に着いた。
「何故、急いだの?まだ時間は、」
言いかけた時に玄関が開いた。端に付いた風鈴が乱暴に鳴らされる。
「おかえりなさい、夏樹さん!」
「ああ、ただいま。」
なんて気の抜けた声。直感ではあったけれどそのナツキさんとやらとはそりが合わなそうだ。
現れたのは同年代、いや、少し上の茶髪の少年。優等生でも不良でもないただの、どこにでもいそうな学生だ。
「夏樹さん、こちらが先程の四季さんです。
メール、届いてますよね?」
「あー、見た。」
やる気のなさがだだ漏れで居間のソファに背を預けていた。
「俺は夏樹、湊。宜しく。」
雑な回答。少し、腹が立ったので言い返そうかと思ったがさらにイラついたら嫌なので
「ええ、宜しくね。」
とだけ、言っておく。
「紹介は終わったの?」
二階から千夜が降りてきた。眠そうに見えたのは気のせいだろうか。
「はい、終わりました。ところで、何をなさって?」
「お昼寝。」
気のせいでは無かった、か。衿子、信用していいのでしょうか。
「おお、四季。似合ってるね。」
「そうですか?和服など、そんなに着ないのですが。」
和服を普段着にしている人も大分減っただろうに。千夜は何故かしっくりと合う。
「あとで何かしら洋服は買って来ますね。」
「二人とも似てるんだな。」
ソファで寝転んでいた湊が言う。何故、皆口をそろえて言うのだろう。むしろ、母上に似ている。
水原一派の仲間たち?と言いますか。紹介です。紹介回です。特に何もないです。ごめんなさい。
読んでくださり光栄です。
吉城 桜