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流浪一天  作者: Lotus
第八章
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第八章 二十一

「人は大勢此処に居るだろう?」

「此処からは既に(はん)さん達が出ています。各地の支店の者も。しかしただ手を増やせば良いという状況でもないんですよ。色々とね」

「人探しの経験なんて俺には無いがな」

「では、秘伝書を追うというのはどうです? 洪淑華(こうしゅくか)の遺した秘伝。一番欲しがるのは誰でしょうねぇ?」

「洪淑華?」

 夏天佑が椅子に預けていた体をゆっくりと起こす。

「ええ。洪淑華ですよ。夏さん」

 周維は急に笑みを消し、真剣な表情で夏天佑を見返した。

「劉さんが持っていた秘伝書がそうだと言うのか?」

 周維は大きく頷き、劉健和に視線を移した。劉健和は夏天佑に顔を向ける。

「殺された親父が持っていた物で……本物かどうか分からなかったんですがとにかくそうだとしか言わず……」

 劉健和は随分と丁寧な口調で夏天佑に説明する。求持星の時の様にその喋り方に夏天佑が何も言わなかったのは、劉健和には自分に親しく話し掛けさせたくないという事では無さそうである。洪淑華という名を聞いて夏天佑は顎に手をやりながら床を見つめて何やら考え込んでいた。

「洪淑華……」

「もし本物であったなら持ち主である劉さんの手に戻さねば。手を離れる事になったとしても倚天剣同様、持つべき者の手にあるのが望ましいと思いませんか? 徐が売り払ってしまえば行方は益々分からなくなります。夏さん。中原ではすでにこの話は結構広がっているのです。真武剣派も動いて――」

「真武剣派が?」

 周維の言葉を遮り夏天佑は顔を上げて即座に訊いた。

「ええ。その秘伝書は一度真武剣の手に渡っています。総帥も見たと思います」

「……」

 夏天佑は今度は周維の顔を見たまま固まってしまった様に動かない。

「すぐに劉建碩(りゅうけんせき)どの、劉さんのお父上に返されましたが、直後にお父上は何者かに殺されている……」

「何者か? 徐という奴じゃないのか? まさか真武剣派がやった可能性もある、という事か?」

「それは何とも。しかしまぁ徐が武慶から消えて、真武剣派はこれを追う体勢を取っています。そうなのか、そう思わせたいのか……」

「徐と真武剣派が繋がっているという事は無いのか?」

「んー、今の段階では考え難いですねぇ。劉さんはどう思いますか?」

 劉健和は首を捻る。

「全く考えもしなかった。今思い返してみても……全く接点は無さそうだが……。もし繋がりがあったのなら奴らに度々何かをさせたりする、という事だろう? 徐と他のごろつき共はいつも何もしないで決まった宿にたむろしていたんだが、いつも周辺をぶらぶらするばかりで街の者から忌み嫌われていた。何かをしようとしていたとは聞いた事が無いな」

「秘伝書が本物、或いは陸皓が本物と思ってしまう程の内容だったなら、陸皓は絶対に手放さない。洪淑華の秘伝は絶対にだ」

 夏天佑はまた床を睨んで考える姿勢のまま言った。その後は黙り込んでいる。

 求持星は夏天佑の様子を横目で見ながら、

(陸皓を良く知っているのか? 真武剣派の総帥と北辰の総監ならお互い見知っては居るだろうが……今のは、もっと深い繋がりがある様な……。何故陸皓が洪淑華の武芸にこだわるんだ? 武林の大家だから、それだけ興味を持つという事か?)

 求持星の視線に気付かないのか無視しているのか、夏天佑はただじっとして考え続けた。

「他にもそんな人は居ますかねぇ? どうしても欲しがる人とか」

 周維が夏天佑に訊ねる。そんな事を夏天佑に訊くという事は、夏天佑は洪淑華の秘伝書となにがしかの関係が昔からあったという事なのだろうか? 求持星と劉健和はそんな事を考えつつ夏天佑の様子を窺っていた。

 

「随分と良い餌を手に入れたものだな。それで劉さんを連れて此処まで戻ってきた訳か」

 夏天佑の言葉に周維はただ笑みを返すだけである。

「何処まで行くつもりだ? 東方にはあまり近付きたくはないな。求さんはどうなんだ?」

「俺は……確かに北辰に近い処は遠慮したいが……だが徐がそっちに行ったのなら仕方が無い」

「洪、お前も行くのか?」

 夏天佑は後ろを振り返って洪破人にも訊く。洪破人はこの時初めて口を開いた。

「命令なら」

「東淵でもか?」

 夏天佑が洪破人の目を覗き込むように顔を傾けると洪破人はスッと目を逸らし、

「……仕方無い」

「ハッ、誰一人乗り気じゃないんだな」

 夏天佑が呆れた様に言うと洪破人はあわてて、

「そんな事ねぇよ。何が何でも徐をひっ捕まえてやるさ。俺も旦那も武慶で徐に会ってる。全くの無関係じゃねぇんだ」

「ふーん」

 夏天佑は正面に顔を戻して腕を組んだ。

「夏さん。真武剣派も人質を取られています。彼らが先に徐を捕まえるかもしれませんが、それでも良いんです。劉さんの息子さんも助け出される訳ですからね。秘伝書の方はどうなるか分かりませんが。あ、そうだ、太史さん。新しい知らせはありますか? 皆さんの居る間に聞いておきましょうか」

「はい」

 太史奉は皆を見回してから、おもむろに口を開いた。

「この徐という男、全く名が出てきませぬ。昔付き合いがあったという者でさえ『徐』としか知らないと言っているそうで、いつから武慶に居たのかも良く判ってはおらず、その昔の知り合いという者が言うには都に居たそうです。劉どのにお聞きしたのですが武慶でも徐の存在が知られ始めたのはせいぜい四、五年前。知られる様になったといっても武慶の誰もが知っているという程ではないようですね」

「武慶も広いのでね。中心の市街周辺の住民はまぁ、知っているといった程度」

 劉健和が補足し、再び太史奉は続ける。

「先程夏天佑どのが東淵と仰られましたが、徐は東淵に縁者があるという様な事を言っていた事があるらしく、あまり近い親類では無い様で今も付き合いがあるのかどうかは不明ですが、その者も徐と申すそうです。これについては此処からは非常に遠い街ですから確認はまだ先になります。報を待つよりこちらから行って調べる方が良いでしょう」

 


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