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流浪一天  作者: Lotus
第八章
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第八章 八

 広間を抜けて屋敷の正門までの前庭に出ると、洪破人ら用心棒達の姿があった。みな剣を構え、じっとしている。彼らと向き合い、同様に身構えている人物が二人。顔の下半分を黒い布で覆っていた。

 用心棒達の後方に周維が立っている。

「求さん。彼らはあなたを訪ねて来たと言っています。二人とも手土産を持参して来られましたが、何とも物騒な土産です。それに全く渡そうとはしません。よく分からない方々ですねぇ」

「一体……彼らは?」

「求さんはご存じない? ならば、家を間違えたんでしょうかね。ハハ」

 周維は随分余裕があるようで暢気に冗談を言ったが、二人の来訪者はどちらも刃物をこちらに向けている。一人は刀、一人は短剣の様な物を両手に持っていた。

「求持星!」

 一人が求持星の姿を認め、辺りに響く大声を出した。

「倚天剣は手に入れたか?」

 求持星はその場で応じる。

「お前は誰だ!?」

「劉毅様がお待ちだ。此処まで来たのならもう命じられた『もの』は手に入れただろう? すぐに戻るべきだと思うが?」

 覆面の男は名乗るつもりは無いらしい。洪破人らに注意を払いながら時折求持星に視線を送る。

「劉毅様? お前達は九宝寨の人間か? 顔を見せろ!」

 求持星は歩き出し、洪破人の隣まで進んだ。得物は何も携えていない。

「何を言っている? 俺達は、どう見ても賊だ。顔を晒す訳が無かろう? お前とて我々と同じ筈だが……お前は何故顔を隠さない? 此処の者達に親しげに近づいて後に倚天剣を奪う算段だったか?」

「……お前達は、九宝寨の者じゃないな。そんな声には聞き覚えが無い」

 求持星は両手を握り締めて直立の姿勢のまま二人の賊を睨み付ける。

「ハッ。おぬし、九宝寨の全ての人間の声を覚えているのか?」

 もう一人も布で隠れた口を動かした。

「お前達が居ても居なくてもどうでもいい下っ端なら、俺にも分からんがな」

「……求! お前は劉毅様の命を遂行する意思があるのか!」

 得物を突き出して吼える賊に、洪破人らが反応して皆僅かに間合いを詰めた。

 洪破人は賊を睨み付け、

「こんな夜中に叫ばないで貰いたいな。用件をさっさと言えよ。それからそれを呑むかどうかを相談しなければならん」

「その男、求持星は九宝寨の盗賊だ! お前達が手に入れた倚天剣を奪うために此処に居るのだ!」

「お前らもなんだろ?」

「……倚天剣とその男を渡せ! そうすれば大人しく出て行こう!」

 求持星が一歩前に進み出る。すぐに洪破人が声を掛けた。

「求さんよ。行く必要は無いんじゃないか? 戻って寝てても構わないぜ?」

「フッ、あいつらと行こうなど……微塵も考えてない。おい、お前達、俺が受けた命を本当に劉毅様から聞いたのか? 倚天剣を奪うだと? 奪ってしまってはどうにもならなくなるんだがな」

 求持星の言葉を聞いた二人の賊は顔を寄せ、何やら話している。その時、求持星の許へ周漣が静かに近づいた。

「九宝寨の者でないのなら、この二人は何者ですか?」

「……少なくとも北辰の者では無いだろう」

 求持星は小声で呟いた。 

 洪破人は身構えたまま求持星と周漣をちらっと見る。

「お二人さん、あー、一応下がって貰えると有難いんだが……」

 二人とも丸腰で賊と向き合っている。周漣などは相変わらず白く細い指を揃えた手を重ねて腰の前に置き、一切の感情が途絶されたその表情と目の前の殺気に満ちた刃が、かなり不釣合いである。

「お前達……よくこの人の前でその得物を出して居られるものだ。相当腕に自身があるのか……まさか知らぬ訳ではあるまい? 九宝寨の、北辰の人間ならば……」

 求持星は二人の賊を見ながら僅かに周漣の方に体を傾ける。その言葉を聞いた賊は、また何やらひそひそと言葉を交わしてから、

「お前と倚天剣に用があるのだ。他人を傷付けたくないのなら大人しく来て貰おう。倚天剣を見せろ。手に入れたんだろう? ん?」

 賊は求持星以外は全く興味が無い様で、ただ立っているだけの周漣を無視している。

(周婉漣を見た事が無いのか……。北辰なら有り得ん。しかもたった二人で此処へ乗り込んでくるとは……何も知らないのか。そこは俺と、同じか……)

 求持星は賊を暫く眺めてから、

「そんな物は無い」

 両手を広げて何も携えていないのを見せる。

「此処にあるのは確かなのだろう? ならば、本来の役目通り、奪って帰ろうではないか。求持星、我々も助勢しよう」

 その時、ずっと後ろで見ていた周維がやって来て周漣の横に並んだ。

「持ち主に掛け合って貰えませんかねぇ? 確かに私が都から持ち帰りましたが、もう人に差し上げましてね」

「ほう。その者は何処に居る?」

「あちらに」

 周維は後ろを振り返る。先程まで居たその近くに建物に上がる為の小さな石段があり、そこにいつの間にか来ていた夏天佑が腰を下ろしていた。手には剣がある。

 夏天佑は何も言わず、ただ求持星らのやりとりをぼうっと眺めているだけだった。

「それが、倚天剣か? 本物かな?」

 賊の一人が周維にそう言ってから持ち主であるという男を観察する。

 

「求持星」

 周漣が賊を見たまま言う。

「決まりましたか?」

「……」

「あの者達を、どうするのです?」

 求持星はじっと周漣の横顔を見る。その白い頬を見つめながら、

「あれは、うちの……九宝寨の者じゃない。あんたを知らない人間は居ないからな。追い返すまでだ」

「追い返す? 始末せずとも良いと?」

「あんたやあの、夏天佑どのなら容易いだろうが、俺はどうかな。奴らの目的は俺の監視か何かだったのだろう。俺が――」

「ならばあなたに任せます。私達は関係の無い事。見せて貰いましょう」

 周漣は求持星を見ないまま言い、口許だけが微笑んだ。

 


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