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流浪一天  作者: Lotus
第七章
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第七章 十七

「得とか言うな」

 樊樂が劉子旦を軽く睨む。すると孫怜は軽く笑った。

「いや、損得で言ってくれた方がいかにも周の旦那の考えそうな事で想像し易い」

「おい、旦那は別に全てを損得で決めてる訳じゃないぞ」

「フッ、分かってるさ。……城南か」

 孫怜は呟いてから考え込む。頭を整理しているのか、ゆっくりと頭を前後に揺らしている。

「気候が慣れるまで大変かも知れないな」

「こっちの奴等はどんな想像してんのか知らねえが、真夏に外でじっと陽に当たり続ける訳でなし、それなりに暮らしてりゃあ暑さはそれほどでも無いんだがな」

「お前みたいに肌が焦げた様な奴が言っても、説得力無いがな」

 

「呉琳は、どうだ?」

「ああ。俺が居なくなると分かれば少しは元気が出る様だ」

 孫怜は真顔で言ったが、すぐに笑った。

「お前が家で燻ってるからあいつも……」

「まあそうだろうな。勿論それだけじゃないとは思う。そんな単純なものじゃない。……琳は夢を見てるんだ。フッ、俺が『孫大侠』? 一体、何をすればそんな呼び名が付くのやら」

「で、どうする? 呉琳を置いては出られんよな……」

 樊樂はそう言って孫怜の表情を窺い、孫怜は真っ直ぐ樊樂の視線を受け止める。

「暫く待って貰えないか? 堯家村(ぎょうかそん)に琳を連れて行きたい。昔から世話になってる人が居てな」

「堯家村か……」

 樊樂は腕を組み、しばし考える。

 堯家村は金陽から西へ向かう街道と、樊樂らが武慶からこの呂州へ来た街道を更に北上して交わる位置にあり、今は廃墟である咸水の村もその近くである。金陽を出て最初の大きな宿場でもあり街の規模はこの呂州とあまり変わらない。

「そこなら琳を置いて貰える筈だ。お互い良く知ってるんでな」

「俺は……仕事の内容を言ったかな?」

 樊樂は胡鉄と劉子旦に振り返って尋ねた。

「あー、いや」

「まだ聞いてないな。でかい仕事とか言ってなかったか?」

「本当は、そんなでかくは無いんだがな。ハハ」

「それなら……うちの幇会は要らないだろう?」

「いや、人手は欲しかったんだ。ま、別にそれはもういいんだ。実は、人探しでな」

 樊樂は周維に命じられた内容を全て孫怜に教えるが、元々、周維が樊樂に伝えた内容も大して多くは無い。仕事の内容の説明はあっという間に終わった。

「なるほどな。しかし、旦那の狙いはなんだ? その劉建和って男と長い付き合いなのか? それとも、その武芸の秘伝書が真の目的か?」

「子供だよ子供。秘伝書はおまけだ。無くたっていい」

「旦那は『無くたっていい』なんて言ってないって」

 胡鉄がすかさず樊樂の言葉を訂正する。

「その秘伝書もその劉建和って人の物だから取り返したほうが良いんです。それに真武剣派も探してますから、もし奴等が先に手に入れたら中身を見てしまうに違いありませんよ」

「ん? もう見たんだろ? 旦那、言ってなかったか?」

「え? まだ見てないんでしょ?」

「確か真武剣派に貸して、戻って、今度は奪われて――」

「……もういい」

 孫怜が口々に言い合っている樊樂らに割り込むように言い、腕を上げて揺らした。

「つまり、その辺はどうでも良い事なんだな? 出来るだけ早く子供を見つけ出し保護して、秘伝書も出来れば手に入れると」

「まあ、そうだ」 

「なるほど。確かに人が足りないな。その徐という男は手下が居るって言ったな? どれくらいだ?」

「さぁ?」

 樊樂は真顔で首を傾げる。捕まえようとすれば必ず抵抗すると思われる賊の数は不明。

「あ?」

 孫怜はぽっかりと口を空けたまま樊樂の傾いた顔を眺めた。

「十数名……です。……おそらく」

 劉子旦が慌てて孫怜に言う。

「仕事というより『お使い』か?」

 孫怜は呆れ返って樊樂らを眺めれば胡鉄と劉子旦は俯いて目を逸らし、樊樂は肩を竦めていた。

「ま、俺は何でもいいがな。楽できるならそれに越した事は無い」

「いいや、きっちりやる。それだけは言っておくぞ。細かい事は道中考えるさ」

 樊樂は随分と心に余裕があるらしく、のんびりと構えている。

「人質だと言うのなら一刻も早く探し出さないと――」

 孫怜は真面目に言うのだが、樊樂はニンマリと満面の笑顔で、

「よし! 分かった! では一刻も早く飯にしよう。俺達はまだ起きたばかりなんだからな。お前も付き合え。その後、堯家村には俺達も一緒に行こう。探し回るんだからあっちから行っても良い。それから都に廻るか」

 樊樂は勢い良く立ち上がるとそう言って孫怜も一緒に来るよう促す。孫怜は食事を済ませていたが、三人に付き合う事にした。

 

「お前、城南に行ってもうかなりなるな」

 樊樂らが食事の間、孫怜は茶を啜って過ごした。樊樂の手許には酒があり朝っぱらから飲んでいる訳だが孫怜は勧められても断っていた。

「そうだな。もう二十年程か……歳ばかり喰ってるな。『若造』に戻りてぇよ。何も考えずに無茶出来るしな」

「樊さん、今も充分無茶だろ。やることが」

 胡鉄がニヤつきながら言うと孫怜は口元に寄せかけた茶碗を戻して薄く笑った。

「樊、お前はあの村には戻ってないのか?」

「んん? ああ、あそこにはもう俺に関係あるものは何も無い。知った奴も居ない筈だ。行く暇もねぇし、いいんだよ」

 孫怜の言った村とは樊樂の生まれ故郷の村の事である。この呂州から近いが樊樂は城南に行ってから一度もその村の事を口にした事は無い。昔、孫怜が樊樂から聞いた話では呂州で孫怜と出会う前は親と共に各地を転々としており、その村の事もあまり覚えていないらしい。

「怜。俺はお前らに出会って、生まれて初めて江湖ってのは面白いもんだと感じたんだ。この呂州でな」

「随分馬鹿をやったな」

 もう樊樂と孫怜二人だけの話で、胡鉄と劉子旦には分からない。食事を続けながら耳を傾ける。樊樂は自分の杯に酒を注ぎながら話を続けた。

「そういや、あいつらどうしてる? おっ、そうそう、あの女、……(せん)? あれ、どうした? 元気か?」

「嬋……慕容嬋(ぼようせん)か」

「あれも俺達と歳が変わらんだろ。もう小母さんだな。まさかとは思うが誰かあいつを娶ったんじゃなかろうな?」

「どうだろうな」

「何だ。知らんのか?」

「もう随分昔にどこか行ったまま行方は分からん」

「そうか……あいつ、じっとしてればいい女だったが……今どうなってるか見たいもんだな。他は?」

「他?」

「ほれ、武のおっさんやら、あと……うーん、()に、それから()だったな? もう皆バラバラか?」

 


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