1ー1 転生 僕 誕生
私の腐った心に暗い火種が着いた。後悔はしてない・・・と思う。
腐女子、腐男子、もっと増えろー。
気がつくと僕はそこにいた。
まるで夢の中の出来事の様に体がとても重く、思った通りに動いてはくれない。
ぷにっとしたつきたてのお餅の様な柔肌。丸っこくて庇護欲を掻き立てる小さな腕。天井までがかなり遠く、それに対応したように家具や世界の全てが大きい。
お守りをしていたであろうメイド服を着込んだ女性は、僕の寝転んでいる物の柵に頭を乗せて眠っている。
その女性の身に付けている青みがかった金属製のシンプルな髪止めにおぼろげに小さな体が写っていた。
つらつらと身の回りの事を並べ現実逃避をしていた、薄々と感付いて居たが認めたくは無い。無いのだが認めるしかできない。
どうやら僕は赤ん坊になっている様だ。
しかし僕には17年の灰色な青春を歩んだ青年の記憶がある。おかしい。明らかに異常だ。
これは転生と言うものだろうか?それともたちの悪い人体実験か何かだろうか?
それだとどちらにせよ17年生きた僕は死んでいるんだろう。笑えないな。冗談キツイのレベルじゃない。
とりあえず記憶をたどり、あわよくばこうなった原因を思いだそう。何も無くとも何もしないよりはずっと良い。
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その日は殺人的に暑かった。照りつける日差しはナイフの様に痛みを伴いながら突き刺さり、セミがけたたましく鳴いて、アスファルトに落ちる汗は数分と掛からずに蒸発する。
そんな外を気だるげにやや猫背に成りながらとぼとぼ歩く165cmと小柄な人影。
そう、僕だ。
確かこのクソ暑い中外に買い物を押し付けてきた姉と妹に、恨みのこめた愚痴を吐き出していた。
『力業で部屋から引きずり出して家から追い出した癖に、なーにが私達はか弱いからお買い物頼めない?だよ!』
そんなことを言っていた気がする。
そんな姉と妹は出るとこは出て、締まる所はしっかりと引き締まった体をした美少女だ。
文武両道、才色兼備を地で行っている完璧な美少女だった。が、趣味が駄目だ。身内以外には好印象を持たせる事は出来るが身内は知っている。
――――彼女らが腐っていることを。
そう、腐った女子。腐女子だった。完璧な見てくれや性格はハリボテなのだ。
この頼まれた買い物も新作のBLゲーをメインに、ついでのペン先に原稿用紙だ。男子高校生がBLゲー買いに行ったんだ、一体何の辱しめを受けているんだろう。本当に笑えない。
クリエイティブな事をするためのペン先や原稿用紙はまだしも、BLゲー購入は精神を削る。
まるでAV借りるのが恥ずかしくて一般ピーポー向けのCDやDVDで挟んで隠しながら借りる、みたいに欲しくもないゲームの攻略本やゲーム雑誌で挟んでチラチラと辺りを警戒しながらレジへ運び二人分買う。
更にレジ打ちの店員は三十路位の優しい笑顔が特徴のおっさんだった。BLゲーを沢山買う俺を見て眉を潜め、笑顔をひきつらせて半歩下がる。
本当に最悪。帰りに見かけるおばさん達がBLゲーまとめ買いした僕を笑っているんじゃ無いかと、行きよりもとぼとぼと小柄な体を更に小さくして傾き始めた太陽を背に家に帰った。
ドアをかなり乱雑に引いて居間から流れ込む冷気を足元に感じながら、冷気の元へトストスと少し足音を出しながら歩いて行く。
ソファーにダルそうに体を任せてアイスを貪る妹と、携帯用ゲーム器を僕の取っておいた果汁100%のアップルジュース片手にプレイしている姉を見つけると、布教用だ何だと言って2つ3つも買わされたBLゲーを両手に持って投げつける。綺麗にキャッチされて僕の企みは失敗した。
そこから口喧嘩になって怒りを覚えた僕は近所のコンビニにジュースを買いに走って、大きな十字の交差点で信号待ちをしていて・・・、急ブレーキの高い音を聞いて・・・。
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ブレーキの音・・・、信号待ち・・・、これは交通事故が起きたんだろうか?じゃあ人体実験よりも転生の方がまだ強い。・・・・・・・・・僕は死んだのか。
せめて事故るんだったら、あの腐った姉妹のBLゲーもろとも・・・・・・!ってそれは嫌だな。BLゲーを胸に抱いて御陀仏とか末代までの恥になるよな・・・。笑えないと言うか笑われるのか。
ただただ天井を見つめて考えていたが、どうしようもないとなるとアホらしくなってきた。
僕はあー、うー、と意味の無い発生をしながら、
(偶然だけど二度目の人生を手に入れたんだ。精一杯青春を・・・・・・いや、人生を謳歌してやる!!!)
そんな決意を僕は手足をぱたぱたさせながら固めるのであった。