委員長のやる気の無い声
時は正午。
昼休みの始まりを告げるチャイムに生徒達の表情は明るくなり、思い思いの場所へ弁当や財布を片手に出ていく。
が、働かないアリのように物事には一定数例外が出来る。机の上が一時間目から変わっていないレイだ。顔が如何にも考え事をしている顔だ。教師や同級生が話しかけても僅かに返答するだけで碌に反応しないので皆もう放置している。失恋や親戚の不幸と推測する者や、ウンコ我慢しているだけと言う者までいる。後者は隣の女子にに叩かれていたが。
生きるためにレイは考える。
どうする?逃げるか?いやどこに?ここより安全な場所があるか?しかしこのままは安全だと言えるのか?いや分からない。警察に匿ってもらうか?でも何て言う?神に命を狙われている?誰が信じてくれるんだ?分からない。考えても仕方ないのか?だが後で後悔するのかもしれない。
まて考えを整理しよう。なんでこんな自分はビビッているんだ?たまたま夢を見ただけではないか。
それで寝不足から階段でこけただけじゃないか。なんだ簡単なことではないか。なにも怖い事はない。
時計を見るともう昼休みだ。さて、購買に何か買いに行こうか。皆に何て言うか言い訳を考えておこうかな。
整理と言いながら垂直に立つ包丁の事をレイは考えていない。否、目を逸らしているのだ。
レイは逃げるように購買に向かって歩き出した。
さて時は進んで五時限目。悲劇の幕が上がり出す
「きりーつ、れーい」
委員長のやる気のない声で五時限目が始まる。いつもと同じ日常にレイはまた安堵する。
やっぱり夢は夢なんだ。何であんなに過敏なっていたんだろう。
頭のどこかに警報をならし続ける自分がいる。そんな自分を無理矢理抑え授業に集中し始める。ところが教科書もノートもまだ何も出して無い事に気付く。鞄も床に置きっぱなしだ。
無駄な一日を過ごしたな。
自嘲気味な笑みを浮かべ、座ったまま教科書とノートを取り出そう腰を曲げる。クラスの皆から視線を浴びるが仕方ないだろう。いや、これは俺を見ているのか?俺の横の窓のような…?
その時耳を壊そうと、鼓膜を破ろうとする勢いで轟音がつんざく。細かいリズムが何度も繰り返される間はとても長いような、いや一瞬だったような気がする。ガラスがが降ってくる。状況を把握できない。意味も分からないままレイは顔を上げる。驚いた顔はしない。いやできないのだ。真顔のまま思考が止まる。
ただ今はっきりしているのはクラスメイト達が血濡れになって倒れていることだった。
絶叫をあげることも出来ない。身体が勝手に動くような感覚に襲われ、ゆっくりと教室の外に歩いていった。廊下に出て気付く。他のクラスもガラスが割れていた。そして血もべったりとかかっている。
そこからの事はあまり覚えていない。
ふと我に戻ると下水の匂いが鼻につく。空は明るいが道は暗い。ビル裏や寂れている店に囲まれているこの場所は何処だろうか。少なくとも長居したい場所ではない。
何していたんだっけ…?
うまく働かない頭は霧がかかっているようだ。思い出そうとする意欲が無くなる。まるで思い出さない方がいいと言うように。
「あら。道の真ん中じゃなくもう少し右に寄った方がいいよ。」
「あっ。すいません」
こんな人気の少ない所でつっ立っているのは不用心だ。右に移動しつつ注意を促した女性の方を見やる。あれ?どこから声がしたんだっけ?自分の周りには誰もいない。
「んー。もうちょっと前ね。」
混乱している頭でとりあえず指示に従う。と同時に見えない相手に恐怖が募る。
「そこでいいわ。さて混乱していると思うけど色々説明させてもらうわ。」